ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
現場の疑問にきちんと答える 子どものスポーツ医学入門
ライフサポート協会 大島 扶美
いまどきの子ども、いまどきの親
最近の子どもの体格には目を見張るものがある。近所を歩いていても大人顔負けの体格を持つ子どもに出会うことが多い。実感として子どもの体格がよくなったと感じる。そんなときは「いまどきの子はみんな大きいね」などと言ってみたりする。しかし、こと基礎体力の話になると、「全くいまどきの子は体力がなくてダメね」とか「昔よりからだを動かさなくなったからじゃないか」と言っている人が多い。
器は大きくなったが、中身が整わない。すでに世間的に定説となりつつあるこの問題は、発育・発達期のお子さんのいるご家庭にとって重大な意味を持つ。なぜなら、発育・発達期の心身にどんな刺激を与えるかは、その子の将来にとっていろいろな意味で重要な鍵になることを、いまどきの親はしっかり認識しているからである。そこで、ひとつの回答としてスポーツが選択される。しかし、この時点で親たちはスポーツさえしていれば子どもたちが間違いなく健やかに成長すると安心したわけではない。質の問題、つまりいかにスポーツを指導してくれるのかによって大きく結果が違ってくることも十分承知だからである。
だから最近の親は昔のように、子どもたちに「ともかく外へ行って遊んで来い」とは言わない。どうせ行くなら正しく指導するところに行きなさいと言う。これはこれで決して悪いことではない。問題は、スポーツを指導する側にある。指導する側がいつまでも「理由はともかく、いいから走れ」ではいまどきの子どもも親も走らない。「多少痛くても練習は休むな」も同様にいまどきの子どもと親には説得力に欠ける。つまり「なぜそういう指導になるのか?」に答える必要が近年顕著になっていることに指導者は早く気がつくべきだ。親たちはとっくに気づいていて、そういう指導者が少ないことにちょっぴり不満だ。では、これに気がついた指導者はどこに救いの手を求めたらよいのか。答えは、この本にある。本書は、スポーツ栄養学、スポーツ外傷学、そしてトレーニング学や薬学を網羅し、そこから各スポーツ種目に見合った栄養の知識やそのスポーツ種目にありがちなケガとその予防について等、より身近に感じられる「なぜ」に対して科学的根拠をベースにしてピン・ポイントで説明している。
「子どものスポーツ」の最前線を知る
スポーツという身体運動は、もともと日常生活動作からかけ離れた特殊な運動の集まりだ。つまり、速く走る、遠くへ物を投げる、強く蹴るなど、どれも身体に対して強いストレスになるものばかりだ。これは同時に、スポーツをすることによってケガする可能性が十分あることも意味するのだ。したがって、ケガを未然に防ぐには日頃の栄養摂取により強く関心の目を向け、トレーニング方法の適否を確実に判断し、ケガの原因となりうる運動を極力排除できるだけの指導力が必要なことぐらい誰にもわかる。大切なことは、こういったしどうを科学的根拠に基づいて適切に、しかも誰もが納得できる形で平易に説明ができることである。これからのスポーツ指導者に求められるのはこういった指導力だということを痛感すべきである。
「中学生でプロテインを飲むのは早すぎる?」「整形外科で捻挫と診断され、冷シップをたくさんもらってきたけど、復帰の目安を教えて?」「小学校高学年から中学校にかけての成長期にしてはいけないトレーニングはある?」こう聞かれたらどう答える、コーチ? もう一度申し上げある。答えは、本書にある。
(本書は『新装版 現場の疑問にきちんと答える 子どものスポーツ医学入門』として、ラピュータより刊行。 ISBN: 9784947752871)
(久米 秀作)
カテゴリ:スポーツ医学
タグ:スポーツ医学 子ども
出版元:山海堂
掲載日:2003-11-10