ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
スポーツ留学 in USA
岩崎 由純 峠野 哲郎
アメリカでプロアスリートになる
本書はアメリカに留学したい、それもスポーツ選手としてアスリートとして留学したいと希望している高校生あるいは大学生に向けて、長年の留学サポート実績を誇る「栄陽子留学研究所」の代表・栄陽子氏が中心となって書き下ろしたアメリカ留学実用書である。
それにしても今回この本を手にして、単なる留学ではないスポーツ留学だの「アメリカでプロアスリートになるには」(第一章)といったタイトルを目にして、正直おじさんは驚いている。われわれの時代には(というと古臭く聞こえるかもしれないが)、単なる異文化散見程度で留学と認識されたのとは違い、自らを相手国の文化の中に埋没させ、そこで職を得て生活する覚悟(?)を持って渡航しようとする現代の若者のバイタリティには、おじさんは畏怖の念を持って見つめざるを得ないのである。多分この本が出版される背景には、すでに一般の人々(とくに若者)の間ではこういった新しい留学の概念が市民権を得つつあるという著者の鋭い先見性によるところが大であると思うが、しかしこの場に及んでもこのおじさんは、“留学”に対し一種偏見としか思えない古臭いイメージに憑かれていた。ところが、早速序章のところで著者はこのおじさんの古い頭を思いっきりひっぱたいたのである。
「留学」とは勉強することなり
序章のタイトルは「アスリートを目指す留学生が知っておきたい三つの事柄」。なんの変哲もないこの章には、実は本書の根幹を成す内容がエッセンスとなって詰め込まれていたのである。著者は、「アメリカの大学でアスリートとして生きていくためには、まず三つのことを理解する必要があります」と前置きして、①勉強が第一であること、②専攻を自由に選べること、③アメリカではスポーツはすべてシーズン制であること、を強調している。これらの内容は、本文中にも繰り返し出てくるのだが、とくに①の勉学については日本とアメリカの大学教育システムや理念の違いや、アメリカ社会が学生スポーツをどのように受け入れているかなどについて多くの紙幅が割かれている。簡単に言えば、アメリカでは日本と違って大学という場は勉学の場であり、個人の自立を促す場であること、したがって、勉強についていけない学生はたとえオリンピック級のアスリートであっても退学処分になること。また、②専攻が自由に選べることについては、裏を返せば自分の好きなことは自分で探せということで、これも結局のところ自分自身が学業に熱心でないと難しいこと。そして③に至っては、シーズン制をとっているため毎日の、毎週の、シーズンの練習時間に厳しい取り決めがあり、それを越えてコーチについて練習することは許されないこと。したがって個人の努力が大きなウェイトを占めるという、これまた個人の自立精神に大いに関係することなどが強調されているのである。ライバル校に勝ちたければ相手よりたくさん練習しろ、という日本流の極意はアメリカでは通用しそうにない。結局のところ、アメリカでは自分の力ですべて切り拓けということらしい。こういったことをすべて理解し、リスクも承知でアメリカへ留学しようとする若者とそれを手助けしようとする著者。両者の熱意にささやかではあるが本書を通して触れることができて、ようやくおじさんの頭は“新しい留学”へと切り替わりつつある。そして、この留学生たちがいずれ近い将来日本に“復帰”して、日本のスポーツシーンを劇的に変えるであろう予感もおじさんはこの本を読んで感じるのである。
(久米 秀作)
カテゴリ:その他
タグ:留学
出版元:三修社
掲載日:2004-04-10