ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
コアビリティトレーニング
山下 哲弘 山田 ゆかり
“コアビリティ”とは何か
本書のタイトルは『コアビリティトレーニング』である。では、“コアビリティ”とは何か。まえがきの部分に「『コアビリティトレーニング』というのは、全身の改造トレーニングと考えて下さい。(『コアビリティ』とは『コア』が可能にする動きという造語)」とある。つまり、私の推測では「コア(Core)芯」と「アビリティ(Ability)能力」を掛け合わせた造語とみた。では、ここで言う“コア”とはどこの部分を指すのか。これについて筆者は「もう一度強調したいことは、『コアビリティ』の『コア』=『骨格』であるということ」と述べている。そして、さらに「コア=骨格」の骨格とは“背骨”を指すと強調している。このようにすべての動作の中心を背骨と捉えて、背骨中心に上肢と下肢を一体的に鍛えることを目的としたトレーニング法は、一般的には“コアスタビライゼーション”とか“スパイナルスタビライゼーション”と呼ばれ、最近特に注目を浴びてきたトレーニング法である。しかし、原理的には決して目新しいものではなく、私は従来から行われている“ボディバランスのトレーニング”の一種と理解している。筆者も、前述したが「『コアビリティ』とは『コア』が可能にする動き」と述べているように、背骨のアライメントを崩すことなく動けるように背骨を中心とした周囲の筋肉群をトレーニングすることが、結果的にボディバランスのよい動きを生み出すと考えているようだ。
一元的トレーニング法
今、私は本書のトレーニングを一種の“ボディバランストレーニング”と理解していると述べたが、ここで読者の理解を得るために私のイメージするボディバランストレーニングの具体例をいくつか挙げておく。まず基本としては①手押し車(腕立ての姿勢から両足をパートナーに抱えてもらい、両腕で歩く)、②バービー運動(直立姿勢から両手を地面に付き、同時に両足を後ろに投げ出して腕立て姿勢となり、再びもとの直立姿勢にすばやく戻る)、③倒立および倒立歩行、等。さらには、トレーナーあるいはコーチの指示に従って上下左右に動くトレーニングも高度なボディバランストレーニングと考えてよい。この種のトレーニングは、特に球技系では実際場面に動きが近似し実戦をイメージしやすいことから、従来から大いに実施されてきた。だから、特に目新しいトレーニング法ではないと申し上げたわけだ。しかし、トレーニングの順序という点から考えてみると、今まではまずウエイトトレーニングによって個々の筋肉を鍛え、筋力アップをしてから徐々に全体系、神経系トレーニングへというトレーニングの細分化が一般的であった。その点、本書に紹介しているコアビリティトレーニングは基礎的な筋力アップと実戦的動作に直結した筋肉の機能アップを同時に実現する一元的な方法を特徴とする。なおかつ器材をほとんど必要とせず、自らの体重のみを負荷として効果を得られる手軽さも魅力である。決して、ウエイトトレーニングの有効性を否定するわけではないが、トレーニング器材が十分でないチームやより選手の理解を得やすいトレーニング法を伝授したいと望むコーチ諸氏には、こういったトレーニング法が紹介されることは朗報と言えるのではないだろうか。
また、本書の後半には著者を師と仰ぐ日本人初のNFLプレーヤー河口正史氏自らがモデルとなって具体的なトレーニング法が写真で示されていたり、Q&A方式でこのトレーニング対する疑問点が多角的に検討されているなど実用性の高い配慮が随所に見られる。ぜひ一読を薦めたい。
(久米 秀作)
カテゴリ:トレーニング
タグ:トレーニング
出版元:ベースボール・マガジン社
掲載日:2005-03-10