ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
14歳の君へ どう考えどう生きるか
池田 晶子
本当に物心がつく年頃
14歳という年齢は、ある意味で“本当に物心がつく年頃”と言えるような気がする。第二次性徴はだいたい済んでいて、自意識過剰で“無心”とは最も遠い距離を置いている。異性にどう思われるかなんていうことが人生最大の悩みごとだったり、それが嵩じて“自分とは何か?”なんてことを考え始め、生意気な割にそれを考える術も知恵も足りないから安易に答えを求めて占いに凝ったりする。生意気盛りで反抗期のくせに、自立できず、保護者のもとでしか生きて行けない自分に腹を立て、日々悶々と暮らしながら大人への第一歩を踏み出そうと模索している。そんな悩める14歳に宛てた“人生を考える”ための手がかりとなる一冊だ。
14歳の頃のことは、大学生あたりよりも、不惑の指導者世代の方がかえって思春期の生々しい記憶をハズカシの彼方から呼び起こすことができるのではないだろうか。その頃に立ち返って競技人生を考え直してみると、競技者(老いも若きも、14歳の君も)その人にとって競技とは何であった(ある)のか意義を深めたり厚みを増したり、現在そして将来に向けてよりよい競技人生を送るため(あるいは、送ってもらうため)に、競技、スポーツとどう対峙していけばよいのか“考えておくべきこと”を本書は教えてくれるように思う。
“解答”は与えてはくれない
知ることより「考える」ことが大切という態度で貫かれているから“考えるヒント”はこれでもかというほど提示してくれる。しかし“解答”は1つも与えてはくれない。まして、これこれこうだと“信じる”ことを強要することなどは絶対にない。むしろ、そうであると信じていることに「これはどうしてなのか、考えたことがあるかな」と問題を投げかけ、さまざまなことを考え直してみなさいということを“考え”させてくれるのだ。
信じなさいと教えを説いたりしない代わり、「そもそも」○○とは「何か」? と考え抜いた末に「それぞれの立場や都合や好き嫌い」に左右されない普遍的に正しい「考え」については断言口調となる。
一例を引いてみれば、「人生の目標」について、「人によってそれぞれ違わない、すべての人に同じ共通している目標だと言っていい。それは何だと思う?」「そうだ『幸福』だ。すべての人が共通して求めているものは幸福だ」といった具合だ。
ちなみに「似ているけれども違うもの」として「将来の夢」をあげている。「将来の夢」は「君の努力や才能によって、実現したりしなかったりするだろう。もし実現したとしたら、それはそれで幸福なことだ。だけど本当の幸福は、実現したその形の方ではなくて、あくまでも自分の心のありようの方なのだ」「もし夢が実現しそうにないのなら」「努力が足りなかったか才能がなかったか、そう思ってあきらめなければならない。だけれども、幸福になることをあきらめる必要なんかない。君はそんなことでは不幸にならない。なぜなら、幸福とは」「形ではなくて、自分の心のありようそのものだからだ」と結んでいる。
“強いこと”“体力のあること”が優れていること、よいことであるとどこか刷り込まれている私たちにとって、競技における成功と失敗、体力の強弱、運動能力の高低、才能のあるなしなど、それらがいったいどういうことなのか考えるうえで重要な示唆を与えてくれる一節だ。
「受験の役には立ちませんが、人生の役には必ず立ちます」とあとがきにもあるように、ハウツー、マニュアル物や安直に答えが書いてある本が多い近年、考えるヒントをくれるだけで何一つ解決策を教えてくれない本書のような書籍を読み解く力が必要であると考える。
(板井 美浩)
カテゴリ:人生
タグ:考えるヒント
出版元:毎日新聞社
掲載日:2009-02-10