ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
自分で治せる! 腰痛改善マニュアル
ロビン・マッケンジー 銅冶 英雄 岩貞 吉寛
1956年、ニュージーランドの理学療法士、ロビン・マッケンジーは、ある出来事をきっかけに、これまでの治療法とは一線を画すメソッドを生み出した。さらにそれは世界中に広がり、リハビリテーションの世界で実践・研究の蓄積によってブラッシュアップされ続けている。マッケンジー法(Mechanical Diagnosis and Therapy: MDT)である。
スミスさんは右の腰〜殿部、大腿部にかけての痛みを訴えていた。その当時、患部を温め、超音波をあてるという治療法が一般的だったが、スミスさんの症状は、この治療で変化がないまま3週間経過していた。
その日、クリニックは忙しく、来院したスミスさんに「うつ伏せになって寝て待っていて」と指示したロビン。少し経って治療室に入ると、びっくり仰天。前の患者さんが使ったまま、ベッドの頭側が上がった状態、スミスさんは、えび反りの形でうつ伏せになって寝ていたのだ。当時その姿勢は腰痛にもっともよくないとされている姿勢だった。焦るロビン。しかし、次にスミスさんが言った言葉にさらに驚くことになる。「この3週間で今が一番いい」なんと殿部〜太ももの痛みが消え、腰の真ん中に痛みが移っていた。これはのちに「中枢化現象 centralization」と名づけられ、予後良好のサインとして整理される。
この出来事を見逃さず、省察したところに、ロビン・マッケンジーの臨床家としての炯眼があると思う。伸展の印象が強いマッケンジー法だが、実際には屈曲、側方のエクササイズもあれば、脊柱だけでなく、四肢の関節の適応もある。マッケンジー法の特筆すべき点は、「自分の健康は自分でつくる」という患者ないしクライアントが、主体性を獲得することを目標にしていることだと思う。その人のゴールに向かって、セラピストは伴走するという協力関係を築くことを理想としたい。
(塩﨑 由規)
カテゴリ:スポーツ医科学
タグ:マッケンジー法
出版元:実業之日本社
掲載日:2022-03-29