ATACK NET ブックレビュー
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心理療法入門
河合 隼雄
心理療法は、医学モデルによる「治療」とは異なるものである。医学の場合は、病気の原因を明確にし、それに対して薬や手術によって、原因を除去するという方法がとられる。これに対して、心理療法の場合は、根本的にはクライアントの潜在的可能性に頼るというところがあり、「病気を治す」というイメージよりも、その人の本来的な生きる道筋に沿ってゆく、というイメージの方が強いという。
著者は、西洋近代の医学は、こころと身体、医者と患者の区別を明確にすることによって成立したが、実際の医療の場面においては、それらの区別をむしろ明確にせず、「関係性」に注目すべきで、そこに、ホリスティック医学や東洋医学などの有効性が考えられるようになったとし、医療の実際においては、心理療法的な接近法が、身体医学と共に重要である、と語る。
人間存在は「意識」「言語」によって、自然に反する本性を持っている。
こんな例を挙げている。人間が一本の糸杉を見る、という体験。他の動物、たとえば、その木にとまっている鳥や、登ろうとしている猫には、その木は、生きるという体験に組み込まれた、多様で多彩なものになるのではないか。他方、人間にとっては「糸杉」として認識され、自分の体験が一義的に限定されてしまう。
池上嘉彦は「言語は人間の表現、伝達の手段どころか、むしろ知らないうちに人間を支配している君主であるかもしれないのです。この認識は深層心理学における『無意識』の発見にも比することができるでしょう」と述べる。
言語化し、記憶して、ものごとを判断する主体としての自我が強固につくられてくる。このことこそが反自然の元凶だという。人間は、科学技術を使って、自然を制御、または利用し便利な生活を実現させてきた。自然を対象としコントロールすることで、現実は成り立っている。他方で、人間自身も自然の一部である。自然と人間の自我が著しく乖離したとき、補償作用として、神経症、心身症が生じるともいうことができると、著者はいう。
本書で説明される心理療法は、無意識、夢、イメージ、物語などを解釈して、気づきを促し、意識の変容を目指すというのが、おおまかな方針だ。物事を「きり」わけて、発展してきた科学とは、逆方向に思われる「つなぐ」ことによって可能性を探る心理療法。
現代において、医学の大枠は科学によって設計されるべきだが、個別具体的な臨床の現場においては、本書のような内容が、患者さんに資するところが多いように思う。
(塩﨑 由規)
カテゴリ:メンタル
タグ:臨床心理学
出版元:岩波書店
掲載日:2022-05-24