ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
はみだしの人類学 ともに生きる方法
松村 圭一郎
ひとをどんな存在としてとらえるか? それが、世界の成り立ちを理解することであり、現在直面している問題を考えることでもある。この問いを出発点にして、本書は始まる。
ひととひとがいれば、そこには関係が生まれる。これを「つながり」とする。さらに「輪郭が強調されるつながり」と「輪郭が溶けるつながり」のふたつに大別する。
文化人類学は、どちらかといえば後者を大切にしてきた、と著者はいう。自分が揺さぶられ、境界線がわからなくなり、自分自身の変容を迫られる。とくにフィールドワークで異なる文化圏に長期参与する場合は、そうでなければ生活できない、と。
他者に開かれていること。自分を維持しながらも、他者との出会いによって新しい自分が引き出され、つい境界線をはみだしてしまうような関係性、それが正しい、というのではなくて、その方が生きやすいのでは? と著者はいう。
細胞膜を、思い浮かべた。細胞膜は半透膜だ。通すものと通さないものが、条件によって変わる。あるいは、膜の一部とともに物質を出し入れしたりもする。その働きによってホメオスタシス、つまり生体の恒常性は維持される。一定に保たれる、というより、ある範囲でゆらいでいる、というイメージの方が近い。細胞は常に外部と接触し、しなやかな境界面を変化させながら、場合によっては異物を内部に取り入れ、途方もない時間をかけて進化してきた。
もし細胞膜が、硬直した構造と機能しか持たなかったら、いきものは存在しない。そんな、ちょっと飛躍したことを考えた。
(塩﨑 由規)
カテゴリ:その他
タグ:文化人類学
出版元:NHK出版
掲載日:2022-08-02