ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
生き物の死にざま
稲垣 栄洋
すべての人にドラマがあります。同じようにすべての生き物にも等しくドラマがあります。ドラマの見どころといえばやはりクライマックスシーン。本書は様々な生き物のクライマックス、つまりは「死」に焦点を絞り、知られざる生き物の死から彼らの生きざまを描いた作品です。
様々な種類の動物を見ることができる動物園の動物たちにはなんとなく生活感というか営みみたいなものを感じないのは、彼らの生活のごく限られた部分しか見ることができないからでしょうか。本書を読んで初めて知る、壮絶で生々しい死にざまは私たちの安っぽい感動さえも許されないような過酷でもあり神聖ともいえる領域なのかもしれません。
死にゆく生き物たちが守ろうとするのは彼らの遺伝子。つまり子孫を残すために命を差し出す潔さを感じるのですが、そういったものを「愛」と呼ぶのは人間だけで、すべての生命体は遺伝子に組み込まれたシステムの中での行動と言ってしまえば味気なく感じてしまいます。
生物の死には自然の法則に縛られるものもあれば、人という存在が関わることで死を前提として育てられる生き物もいます。食肉のみならず穀物や野菜も人に食べられる目的で誕生するわけではないのですが、私たちの胃袋に入ることが運命とされた生き物の存在は忘れてはいけません。我々人類も食物連鎖の中に組み込まれた存在ではありますが、それを経済活動としてほかの動物とは異なる営みをすることに消化しきれないモヤモヤ感が残りました。これも人間が持つ業の一つなのかもしれません。
「個」として生き延びる難しさ、「種」として命をつなげる難しさ、そして人間の関わり合い。多くの疑問点を心の中に残しつつ、読み終えました。
(辻田 浩志)
カテゴリ:人生
タグ:生命
出版元:草思社
掲載日:2022-08-08