ATACK NET ブックレビュー
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歴史を活かす力 人生に役立つ80のQ&A
出口 治明
テーマごとに問答形式で歴史を紐解く本書。
常に現代の状況との関連で歴史を見ていくので、教科書的な退屈さはなく、ついひとに話したくなるようなトピックが溢れている。
たとえば、なんで世界中に民族衣装はあるのに、洋服がベーシックになっているのか。これは産業革命がイギリスで発生したことに起因するという。それまでの主だった産業である農耕牧畜が天候の影響を受けやすかったのに比べ、工業生産は安定して生産物を供給できることから、自国にも工業生産を取り入れようと世界中からひとが集まり、洋服を着て帰国したため広まったらしい。
ほかにも、中華料理が世界中に広がっている背景には、アヘン戦争以降のイギリスの世界戦略に中国人の人びとが労働力として利用され、各地に離散したこと。また、石炭などを利用した火力革命によって、中華料理の特徴である、高温で食べ物を揚げたり炒めたりする技術が発明されたことで、どの国のどんな食材でも簡単に調理できるようになったことが理由だという。
意外だったのは、フランス料理の起源はイスラーム帝国にあり、一品一品出てくる様式はロシアの寒冷環境で、料理が冷めないように、という配慮から生まれたこと。フランス料理がフランスで大衆化したのは、フランス革命によって失業した宮廷料理人たちが、町で続々と開業したことで広がっていき、一部は当時相当なフランスかぶれだったロシアに流れ、今のフランス料理の形式になったという。
もっと前に遡れば1492年に新大陸を発見したコロン(編注:クリストファー・コロンブスのスペイン語読み)によって新旧大陸間で、動植物や食材の行き来があったことが、今の食卓の光景に影響を与えている(このときより前にはピザやパスタにトマトは使われていなかった!)。
ちなみに、この「コロン交換」によって新大陸に天然痘や麻疹、コレラなどの病原菌がもたらされ、免疫を持っていなかった大勢の原住民が命を落とす。その結果、農地や鉱山で労働力が必要になったヨーロッパ人は、アフリカ大陸から黒人の人たちを奴隷として連れてくることになる。
学校で歴史を習っているときに退屈だったのは、自分とは全然関係のない話だと思っていたからだと思う。ある程度、馬齢を重ねたことも、ほんの少し歴史に関心を持ったことに貢献しているんじゃないかと考えている。
(塩﨑 由規)
カテゴリ:人生
タグ:歴史
出版元:文藝春秋
掲載日:2022-08-27