ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
初めて携わるメディカルスタッフのための障がい者スポーツ レクリエーションレベルから競技レベルまでのケアとサポートの実践術
青木 隆明
ドイツ人医師ルートヴィッヒ・グットマンが、ロンドン郊外のストーク・マンデビル病院に赴任し、リハビリテーションの一環としてスポーツを取り入れたのが、現在のパラリンピックにつながっている。グットマンは1943年に当地に赴任し、1948年のロンドンオリンピックにあわせて入院患者を対象に、ストーク・マンデビル大会を開催した。映画『ベスト・オブ・メン』では、褥瘡予防に励み、患者の環境改善のために奮闘するグットマン医師が描かれている。時には患者とともに車いすに乗ってスポーツに興じたりもする。なにかと激昂しがちな医師ではあるが、その熱意は患者や看護師に伝播し、次第にひとびとは変わっていく。
この本は、水泳やパラ陸上、ボッチャ、CPサッカー、車いすテニス、車いすバスケットボール、車いすラグビー、ゴルフ、卓球、フライングディスク、パラパワーリフティングという競技別に、ルールや各競技参加者のタイプ、クラス分類、外傷の発症機序とメカニズム、その予防法に至るまで、網羅的に記載されている。タイトルに銘打ってある通り、障がい者スポーツに初めて携わる方におすすめできる。
自分は普段、障がい者スポーツに関わっているわけではないが、東京パラリンピックでは、車いすバスケットの日本代表選手たちの活躍に熱くなった。また、口にラケットをくわえて、足でトスを上げる卓球のエジプト代表イブラヒム・ハマト選手には脱帽した。スポーツでもリハビリテーションでも、自分の持っている力の限界にチャレンジするという姿勢は変わらない。その姿勢に感化され、勇気づけられるひとは多い。
ともあれ、わずか80年ほどで、ここまで障がい者スポーツは進化した。もしグットマン医師が今のパラリンピックを見たら、歓喜するに違いない。
(塩﨑 由規)
カテゴリ:スポーツ医科学
タグ:障害者スポーツ
出版元:メジカルビュー社
掲載日:2022-09-09