ATACK NET ブックレビュー
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1Q84
村上 春樹
青豆と天吾、小学生のときに2年間同じクラスであっただけの2人。しかし、分かち難く結ばれた縁によって、次第に接近していく。ストーリーは、1984年現在の世界ではなく、青豆が言うところの「1Q84」、天吾が「猫の町」と呼ぶ異世界で、進行していく。ただ、単純なパラレルワールドではない。それは、ふかえりという、女子高生と、天吾が共作した小説の世界だ。ものごとは、オーバーラップしながら、ひとと、ひとならざるものが織りなす世界を描く。
回路を辿り、あちら側とこちら側を行き来するリトルピープル。リトルピープルが作る「空気さなぎ」。知覚するもの、パシヴァと、受け容れるもの、レシヴァ。実体であるマザと、分身ドウタ。鍵は「さきがけ」という宗教組織と、そこから逃げ出してきた女子高生、ふかえりが握っていると思われたが、話の重心は、だんだん青豆と天吾に移っていく。
いくつかは、実際の事件が下敷きになっているのがわかる。他の設定についても、もしかしたら鋳型となるものがあるのかもしれない。ふかえりの父、リーダーは、はるか昔から人々は、リトルピープルと呼ばれるものと交流してきた、というようなことを、死ぬ間際、青豆にたいして言っていた。レシヴァである彼を介して、彼らはこの世界になにかしら、働きかける。彼が回路であり、後継者として天吾はいた。パシヴァとしてのふかえりは媒介者として存在する。
話は、青豆と天吾と、小さいものが、1984に戻ってきたところで終わる。
ああ、もしかしたら、そういうことってあるのかも。村上春樹を読むと、随所でそう思うことが多い気がする。
(塩﨑 由規)
カテゴリ:その他
タグ:物語
出版元:新潮社
掲載日:2022-09-20