ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
聞く技術 聞いてもらう技術
東畑 開人
ひとの話を「聞く」ということの難しさ、に悩むひとは多いのではないか。ではまず「聞いてもらう」からはじめたら? というのが著者の提案。なぜなら「聞く」は「聞いてもらう」に支えられている、話を聞けないのは、話を聞いてもらっていないからだという。
印象に残ったのは、孤独と孤立の違いに関しての部分。孤独は、心の中に部屋があるとして、そこに内から鍵をかけ、ひとりになれる空間を持つこと。たいして、孤立というのは、その部屋に、嫌なひと、怖いひとがひっきりなしに入ってくる状態をいう。孤独には安心が、孤立には不安がある。ひとは孤独になってはじめて、ひとの話を聞くこともできる。
話す、聞くというのはとても日常的な行為だ。しかし、だからこそわからなくなる。
ケアというのは圧倒的に民間セクターの割合が大きいという(ヘルス・ケア・システム理論,クラインマン)。しかし、民間の世間知だけで対応できないものもある。そういったとき、専門知を持つ専門職のひとが、そのひとが今どういう状態かということを見立てることで、周りもそのひとに配慮することができる。
あるアメリカの先住民の間では、悩みや悲しみを周りに話せる状態は正常、ひとりで抱えるようになると病気とみなされるらしい。
とくに一緒にいることが多いひとのことは、話さなくてもわかっている、と思いがちだ。毎日顔を合わせていると、だからこそ見えなくなってくる部分がある。
話を聞いてもらうこと、聞くこと、その塩梅に正解はないかもしれない。でもとにかく、身近なひとが気になったら「なにかあった?」と声がけすることを大切にしたい。
(塩﨑 由規)
カテゴリ:その他
タグ:コミュニケーション
出版元:筑摩書房
掲載日:2022-11-15