ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
野の医者は笑う 心の治療とは何か?
東畑 開人
臨床心理士である著者が「野の医者」と呼ぶのは、スピリチュアルや宗教に関わるもの、たとえば占い師やヒーラーなどの、世間一般的にはちょっと怪しいと思われる人たちだ。
研究助成金を得た著者は、ありとあらゆる「治療」を受けまくる。そのなかで、自身が取り組む仕事、扱っている「こころ」のことを考える。治癒を巡って、あるヒーラーとの対話のなかで出てきたスタンスの違いは興味深い。劇的に良くなる、というヒーラーの主張する対象者の状態は、臨床心理学から見れば、躁状態であるに過ぎず根本から良くなっているとは言い難い。
それが悪いわけではない。ひとまず、避難先を確保することは大切なことだ、とした上で、しかし対象者が自身の内面を直視し、受け入れていく過程で、振り子の揺れが少しずつ収まるように治っていく、というのが順当なゴール設定ではないか、という主張には、腹落ちするところがあった。「こころ」という、捉えどころのないものに、魔法のような治療法はないらしい。
翻って、補完代替医療のことを考えてみると、それぞれの立場によって病めるひとに対し、物語を構成する「ストーリーテラー」としての側面がある。
ただやはり、最後は自分と向き合い、主体性を回復する、というゴールまで、そのひとに伴走するというのが、セラピストの正しい姿勢だと思う。そこに越えてはいけない一線があると思った。
(塩﨑 由規)
カテゴリ:メンタル
タグ:心理学
出版元:誠信書房
掲載日:2023-01-05