ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
ことわざから出会う心理学
今田 寛
大学で心理学を履修しました。様々な履修科目の中でもっとも興味があった学問でした。「人の心理がわかる」というすごく単純な興味は幻想に近いものだったというのが、実際に授業を受けた感想です。私が授業で学んだ心理学は実に淡々とした研究結果の集積みたいなものがほとんどで、私が期待していた「人の心が読める」的なHow to本によくある人の興味をそそるものとはかけ離れていたのです。
本書を手にしたときには、ことわざに表現される状況の心理描写を書いたものだと思ったのですが、予想に反してしっかりした学術的な理論が紹介されているのに驚きました。普段よく使われることわざを、学術的な心理学の研究と結びつけるというギャップは、あたかも水と油を結びつける界面活性剤にたとえても面白いかもしれません。
さらに本書を読むにしたがって、ことわざが主役ではなさそうなことに気が付きました。むしろ様々な研究を結びつける役割をことわざが担っているに過ぎないという感じすらしました。ひょっとしたら筆者の意図はそれぞれ異なる心理学の研究をことわざというワードで関連性を持たせているのかもしれません。ことわざを読み解くツールとして心理学を引っ張り出してきているんだと思い込んで読み始めた私は、筆者に一本取られたのでしょうか。
私が学生のころ学んだ心理学はあくまで基礎中の基礎であり、単品の研究を教わっただけで、それらの関連性がなかったがために面白みもなく興味が薄れていった記憶があります。ところが本書のように馴染みのあることわざに絡ませて小難しい心理学の知識を展開することで、身近なものとするばかりかそれぞれ単品の研究がことわざを介して関連性を持たせようという筆者の思惑を意識せずにはいられませんでした。さらには一つのことわざに関連して数多くの研究が登場するところは、筆者の懐の深さを垣間見た気がします。
私が感じたことが的を得たものなのかも疑問ではありますが、ひょっとしたら私が感じ取れなかったもっと別の何かがあるのかもしれません。
プラシーボ効果や血液型と性格など興味を引く題材が多かったので読み始めとは別の角度からの興味がわいてきました。学問も切り口を変えるだけでこんなに面白いものであることが証明されたのではないでしょうか。「活きた学問の断片」を見たような気がしました。
(辻田 浩志)
カテゴリ:その他
タグ:心理学 ことわざ
出版元:ミネルヴァ書房
掲載日:2023-01-31