ATACK NET ブックレビュー
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高校野球界の監督がここまで明かす! 走塁技術の極意
大利 実
野球を見ていると「投げた」「打った」というわかりやすいプレーの結果を追いがちですが、そういう見方をしていると勝敗に一喜一憂してしまうような気がします。もちろんそれも野球の重要な要素ではありますが、本書を読んで思ったのは、あまり注目されない走塁にも野球の醍醐味があったことです。これは観戦する側の感想ですが、実際にプレーなさっている方にとっては心が震えるほど野球の難しさと面白さに触れられるのではないでしょうか。
最近はこういった表現をあまり耳にしなくなりましたが、「走塁の虎の巻」と呼べる一冊です。塁間を駆け抜けるのに必要なのは足の速さ。そう思っていましたが、ボールを打った瞬間からバッターはランナーとなるという言葉はまさにその通りであって、足が速かろうと遅かろうとランナーである以上走らなければなりません。ホームランを除いては、いくら打っても塁間を走りホームに戻ってこないと点は入りません。ここを原点とする以上、走塁を軽んじることはできません。
本書の内容は高校野球の監督たちが走塁についてそれぞれの考えを述べておられますが、走力を高めるための練習法もあれば、走塁技術の解説もあります。話はそこにとどまらず野球観であったり、心理戦であったり、相手に対しての観察眼であったり、野球の神髄とも言えそうなお話もあったりして、あまり詳しくない私でもドキドキするような大切なお話もあります。そういった深いお話に感動しながら読み進めると、最後に登場するのは高校野球ではなく中日ドラゴンズの荒木雅博コーチ。言わずと知れた往年の名プレイヤーです。現役時代、盗塁するときはバッターやキャッチャーの方を見ず、キャッチャーのミットの捕球音で状況を判断し、ショートを守っている選手の目線や動きで打球の行方を判断したそうです。どこまで奥行きが深いのでしょう。
(辻田 浩志)
カテゴリ:指導
タグ:野球 走塁
出版元:カンゼン
掲載日:2023-06-30