ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
ヤンキーと地元
打越 正行
ヤンキーのパシリになって10年間、沖縄の若者と生活を共にし、調査したのがこの本だ。
原付にまたがり、改造車で58号線を暴走する若者に追走し、声をかけ話を聞く。著者は彼らの生活を知るために、自ら建設現場で働くようになる。そこには過酷な労働環境がある。やっと仕事を終えても、しーじゃ(先輩)と、うっとぅ(後輩)という人間関係のしがらみがある。そのなかでひとは処世術としての立ち居振る舞いを身につけていく。
建設業はこのしーじゃとうっとぅという人間関係に支えられている。それは不安定なものだ。建設業自体、受注がなければ仕事がない。見通しが立たない。だからこそ、しーじゃは強くうっとぅを束縛する。ときには暴力も振るう。その関係性はかなり固定的だ。その一方的である関係は、建設現場の作業において安全性や効率の面で機能的ともいえる。しかし反発も生む。
著者は、男性同士の下品な会話、悪ふざけや賭けなどに乗りながら、話を聞き、のっぴきならない人間関係や状況を描く。それは歴史的な経緯や、社会的な構造によって選ぶと選ばざるとにかかわらず、沖縄の若者が投げ込まれてしまったような世界にも見える。出ていけばいい、辞めればいい、と簡単には言えなくなる。
「沖縄」のひとの温かさや、きれいな海。とかく理想化されがちな「沖縄」だが、現実はもっと複雑だ。
(塩﨑 由規)
カテゴリ:その他
タグ:社会学 エスノグラフィー
出版元:筑摩書房
掲載日:2023-07-24