ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
トップアスリートの指導者に学ぶ
阿部 肇 早川 公康
トップアスリートは選手の素養はもちろんですが、彼らを育てる指導者の存在を抜きにして語ることはできないと思います。練習や考え方や身体づくりなど何ひとつ欠けてもトップアスリートへの道のりは遠くなるからです。トップアスリート本人にスポットライトが当たるのは当然のことですが、選手を導くための方法論に興味を持たれる方は少なくないはずです。ところが指導者が登場される場面ってアスリートのことを語る第三者的な立ち位置が多く、指導者自身のことを紹介されることは比較的少ないと感じています。成果を挙げたのはアスリートですからニーズでいえばそうなるのでしょうが、本書においては監督が主役となります。
何か特別な指導法があるんじゃないかと期待しながら読んでいたのですが、結論から言えばできることのすべてに信念をもって根気よく続けられたというのが印象に残りました。逆に言えば「コツ」みたいなものをマスターすればできそうな簡単なものではなく、一つ一つのやるべきことをしっかりと丁寧にこなしていくというのはアスリートと同じで最も難しいことなのかもしれません。ただ読者それぞれの立場において本書に書かれている根っこの部分は取り入れることができるという点においては多くの方にお読みいただく価値はあると思います。
仙台大学漕艇部監督の阿部肇(ただし)氏が主役となりインタビュー形式で話は進みます。内容に関してひと言でまとめるならば「心・技・体」について具体的な話をされていますが、今の時代にアップデートされた「心・技・体」と申し上げておきたいです。むかしがどうのこうのというのではなくスポーツ医科学に裏づけられた指導法がトップアスリートを育てる最善の方法であり、阿部監督だけではなく多くのスポーツでトップアスリートを育てている指導者や組織では、進化し続けているスポーツ医科学に基づいた指導をされていて、そうでなければ結果が残らないというお話もありました。とくに食事に関する話題が多かったのですが、今の指導者はそれぞれの専門家の知識を基に研究されているのがうかがえます。もちろんご自身の経験も重要な要素ではありますが、それだけでは勝てないというのが共通認識のようです。
心の部分でも新しい時代の精神論というとらえ方ができます。「スポーツは芸術」というセリフもありましたが、スポーツを愛しスポーツを楽しむことから入り、だからこその猛練習って素敵だと思いませんか? こういう精神論ならトップアスリートのみならずいろんなジャンルの人に当てはまりそうな気がします。年月をかけてこういう考え方が広がっていけばスポーツがどんどん輝いたものになりそうです。
(辻田 浩志)
カテゴリ:指導
タグ:コーチング 栄養
出版元:現代図書
掲載日:2024-03-14