ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
どもる体
伊藤 亜紗
吃音と呼ばれるその状態は、体が思い通りにならない、言うことを聞かないために、発声がスムーズにいかない、ということを指す。
本来、随意的に行えるはずの発声に支障をきたす、ということは、社会活動にも差し障ることが少なくない。
ひとには元々、コントロールできない体がある。内臓などを支配する自律神経がわかりやすい。吃音と同じような問題でいえば、イップスだろうか。ともかく、ひとには思い通りにならない体がある。どもる、という事象を取り上げて、そのことを考える、というのが本書である。
実は吃音というのは、身近な現象である。多くの著名人が吃音であることを告白している。話すことや歌うことが生業のひとであっても、吃音のひとはいる。スキャットマン・ジョンも吃音であり、あの高速スキャットはむしろ、自由にどもる方法だった、という。
興味深いのはシチュエーションによって、吃音が出ない、ということだ。しかし、必ずしも緊張していることがきっかけとは限らない、という。きわめて個人差が大きいのだ。大きい括りでは、連発と難発がある。連発は同じ音を連続して発声してしまうこと、難発はそもそも発声がしにくく止まってしまうことをいう。苦手な音があるため、さまざまな工夫をする。難発は連発を避けるため、という面があり、苦手な音を避けるための言い換え、などがある。さらに、忘れたふりをして相手に言ってもらう、という方法もあるという。自分の名前に苦手な音がある場合は、まさか忘れたとは言えないために、とても困るらしい。
リズムに合わせると話しやすい、ということもある。「えー」「あのー」などのフィラーを、発声のためのトリガーとして利用しているひともいるという。言い換えや、ストックフレーズに頼ることによって、その場はやり過ごせても、本来自分が言いたかったこと、表現したかったことを避けてしまう、ということにフラストレーションを感じるひともいる。
そのため、自由にどもることに快感を覚えるひともいて、「どもる」ということひとつとっても、ひとくくりにはできそうもない。
(塩﨑 由規)
カテゴリ:身体
タグ:吃音
出版元:医学書院
掲載日:2024-06-14