ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
Fromシアトル アスリート新化論
山本 邦子
身体と心に目覚めを問いかける
ヨガの教本? いえ、著者はアスレティックトレーナー。ポーズを説明するだけの教本ではありません。トレーナーがヨガという手法を中心にアスリートに自分の身体と心に目覚めてもらうよう問いかけているのです。もちろんアスリートといっても競技選手だけを意味するのではありません。身体を動かすことを愛するすべてのヒトにその思いは向けられています。
スポーツ界ではずいぶん浸透してきたアスレティックトレーナーという専門職ですが、基本的な業務は以下のとおり。アスリートの健康管理、傷害予防、傷害の応急処置、アスレティックリハビリテーション、そしてトレーニングにコンディショニング。つまりはケガをしているかどうかにかかわらず、アスリートとタッグを組んで、強くそして高いパフォーマンスを実現できる心と身体をつくっていくことがその役割となるのです。
そのためには強さを求めるトレーニング、巧みさを求めるトレーニング、強い精神力を求めるトレーニングなど、さまざまな形の鍛練が必要になります。ただしトレーニングだけがすべてではありません。何を食べ、どう休み、強い心と身体を得るためにどのような心構えでいるべきかを考え、そして行動する力も必要です。突きつめれば、日常生活、いや生き方そのものを問いかける必要があるのです。そのような「気づき」を得たアスリートは、トレーナーの思惑をはるかに超えて成長することがあります。そんなときは、やられたあ、というなぜだか少し悔しいような気持ちとともに、その何倍もの誇らしい喜びを感じることができるものです。逆にトレーナーがいくら力んで自説を押しつけても、アスリート本人がやるべきことに気づき、理解し、それを実行に移せなければ、トレーナーの自己満足に終わってしまいます。そしてそんなことも往々にして起こるのです。
きっかけをつかんでほしいの気持ち
この本の著者は、そんな落とし穴に、ともすれば落ちてしまうことの危うさに数々の経験を通じて気づいているのでしょう。だからこそ、きっかけをつかんでほしい、気づいてほしい、という気持ちが文中に溢れているのです。ここに気づけばもっと身体をうまく使えるよ。こんな風に考えればもっと楽に身体が動かせるよ。ここを少しうまく動かせば頭の中で描いているイメージと実際の身体の動きが近づくよ。そして身体を動かすことがもっと楽しくなるよ。そんな声が聞こえてきそうです。
すべてのレベルの、すべての競技の、すべてのポジションの、すべてのアスリートに、たったひとつの理論が当てはまるわけではありません。アスレティックトレーナーは自分のスタイルを持っていながら、一人一人のアスリートにどれだけ効果的な方法があるのか悩みに悩んで対応していたりします。この本ではヨガという手法を選んでいて、それは正しい選択のように思います。ヨガを通じて、身体の、そして心のありように気付き、それを高めていくこと、これはとても楽しいことのように思います。
(山根 太治)
カテゴリ:ボディーワーク
タグ:ヨガ トレーニング
出版元:扶桑社
掲載日:2007-01-10