ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
欲望する脳
茂木 健一郎
茂木氏は本書の中で「脳とは、結局は生物が生き延びるために進化させてきた臓器である。生存のための臓器としての脳は、徹頭徹尾利己的に作られている」と述べている。“歴史は繰り返される”という言葉があるが、茂木氏の示す通り、この言葉の根源が人間の脳であるとするならば、私たちはこの欲望する脳とどのように接していけばいいのか。
昨今問題になっている食品会社の食品の安全管理体制や、建設会社の環境アセスメントの裏工作、政治献金や、社会保険庁の年金受給者への怠慢な管理、年金未納、戦争など、さまざまな点において私たちは欲望する脳に疑問視していることになる。しかしながらその欲望する脳も人間の進化のためには十分な役割を果たしてきた。こうして肉食獣がいない安全な居住があるのも、好きなときにコンビニエンスストアで食事を確保できるのも、私たち人間の脳が欲望するままに生きてきたからに違いないからだ。つまり生きるために私たちは欲望し、進化してきた。結局のところ答えは見つからないかもしれない。だが、いろいろな問題が出てきている現代だからこそ、利己の欲と、利他の欲とを協調していくことが大事ではないだろうか。
2007年11月21日刊
(三橋 智広)
カテゴリ:エッセイ
タグ:脳
出版元:集英社
掲載日:2012-10-12