ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
動作の意味論 歩きながら考える
長崎 浩
動作に関わる本である。しかし、普通の運動生理学や医学の本というより、哲学的な視点から人間の動作を理解するための本という感じである。正直に言うと、内容や文章で用いられている語句は難しい。私見ではあるが、自分が身体を動かすときにはこんなことを考えて動く必要はないideaばかりなので、アスリート自身が読むような本ではない。どちらかというと、身体運動を研究したり分析したりする必要のある、運動指導者や医療関係者が読むための書籍である。
具体的には、神経系と運動器系がどのように人間の運動・動作・行動を成しているのかについて、エビデンスを用いたり、過去の著名な研究者の文献などを引用しながら広く書かれている。ただ、初めに言ったとおり、哲学的な内容になっているため、普通の身体に関する本として読むと理解に苦しむ部分がある。運動生理学や医学的な知識を得るためではなく、もっと根本の「動作とは何か」という部分で見識を広めるために読むとよいと思われる。
個人としては、第7章の「脳は筋肉のことなど知らない」と第8章の「日常動作が壊れるとき」が興味を引いた。普段、医学的知識を得ることが常の私にとって、「中枢神経系が筋肉のことを知らない」という観点は非常に独特であったし、8章に登場するブルンストロームやボバースの評価と治療についての内容はとても勉強になった。
時間を見つけ、何度も何度も読んで理解を深めるのもよし、自分の興味のある章のみを読むのもよしの作品となっている。
(宮崎 喬平)
カテゴリ:人生
タグ:運動 哲学 運動生理学
出版元:雲母書房
掲載日:2011-12-13