ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
子どもにスポーツをさせるな
小林 信也
かつて、ラグビーの日本代表監督を務めた宿沢広朗さんが、言った言葉がある。「これほどの努力を人は運と言う」。楕円形のラグビーボールが、最後に自分たちに弾んで勝利につながった。素人がやったなら「ラッキーバウンド」である。しかし、何百、何千回と繰り返し練習している者からすればそれは、「ラッキーバウンド」ではない。勝利のための「準備」があったからこその結果なのである。勝利至上主義ではいけない、しかし競技スポーツは勝つことが目的である。勝つことを目指すからこそ、「準備」が大事になってくる。
「準備不足」ではなかったかと、WBCの4番バッターがケガをして帰国したことを著者はこう語る。今、茶髪やモヒカンが悪いと言えば、「考え方が古い」「それと打撃は関係ない」と言われそうだが、真っ直ぐな姿勢は何に取り組むにも基本中の基本だ。普段の姿勢は、スポーツのパフォーマンスにも直接影響する。頭や理屈で言い訳できる分野ならともかく、スポーツは身体でやるものだ。だから、ごまかせない。謙虚さを失い、ひたむきさをなくしたらそれが身体の甘さ、隙につながる。だからこそ、スポーツは貴いのではないか。スポーツ界はいま、もっとこうした原点を見直し、改めて共有すべき時期にきている。
現在、競技スポーツに携わる者の一人として、著者の言う「スポーツの原点」を共有したいと思う。
Chance visits the prepared mind ――幸運は準備した者に味方する。
(森下 茂)
カテゴリ:エッセイ
タグ:ジュニア
出版元:中央公論新社
掲載日:2012-10-13