ATACK NET ブックレビュー
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野球の見方が180度変わるセイバーメトリクス
データスタジアム
本書の題名でもある「セイバーメトリクス」という言葉をご存知だろうか?
これは野球における選手やチームのデータを統計学の視点から見つめ直し、新しい評価法や戦略術を生み出す学問である。
野球では、打率や防御率といった数字で成績が表される。選手の評価も数字上の成績で行われる事が多い。打率3割の打者、防御率1点台の投手など、その数字が評価基準となる。つまり、10回打席に立って3回ヒットを打てる打者は好打者。9回を投げて2点も取られることがほとんどない投手は好投手なのである。シーズンを通じたその結果で、首位打者や打点王、最多勝などの表彰が行われるのだが、あなたがチームの監督ならば、どういった観点で選手を評価するだろうか。 打率3割のバッターが同じ10打数3安打でも、打ち損じたボールが外野手の前に落ちたヒットであれ、特大のホームランであれ、1安打として計算される。これでは正確に選手を評価できないのではないか、より公平なデータの取り方はないか、といった考えがセイバーメトリクスを生み出した。
フォアボールを多く選んで出塁できる打者、長打を打つ確率が高い打者、少ない投球で三振を奪える投手、ホームランを打たれにくい投手など、セイバーメトリクスの視点では様々な角度から野球を見ることができる。野球経験者の私でさえ、その細かい分析には驚いた。メジャーリーグの強豪チームが選手評価の方法として取り入れたのもうなずける。
しかし、セイバーメトリクスはまだまだ発展途中の学問で、課題も多いのだという。例えば投打の分析はある程度行えるが、守備に関してはそれが難しい。エラーやファインプレーは、守備位置やシチュエーションによっても変わるからだ。
本書は2007年の日本プロ野球の記録を基にそれぞれの数値を算出しているが、数字だけでも野球の奥深さが垣間見えてくる。もちろん、筋書きのないドラマと言われるのも野球で、全てが公式や数字で片付けられるものではない。ただ、この様なより深いデータを知ることでオフシーズンの選手の移籍に関する動向など、その選手の成績と評価が相応なものかといったことも考察することができる。従来の評価だけでは見えない部分もセイバーメトリクスで比べることができるので、より優秀な選手を見つけ出すことができ、チーム運営にも効果的だ。
監督のあなたにはセイバーメトリクスを用いて、お気に入りの選手を見つけ出してもらいたい。野球にあまり関心がなかった方にも、ぜひ一度手にとってみてもらいたい一冊だ。
(山村 聡)
カテゴリ:その他
タグ:データ分析
出版元:宝島社
掲載日:2012-10-13