ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
手の日本人、足の西欧人
大築 立志
「足」という字を「あし」と読むのには「悪し(あし)」との関連があるという説があるそうです。ふだんあれだけお世話になっている「足」なのにイメージ的によくない印象があり、それは西欧とは違う日本の文化に由来する。そんな内容が多くの事例とともに解説された一冊です。
「手」を重んじる日本と「足」を重んじる西欧人という対立した機軸での展開は、ややもすれば結論ありきという強引さも伺えますが、おおむね納得できる内容です。「手の文化」と「足の文化」の違いは、私たちのあまりなじみのなかった欧米文化の謎を解いてくれるようです。大統領がマスコミを相手に話をするときデスクに足を乗せて話せば、おそらくほとんどの日本人は眉をひそめ人格を疑うに違いありません。ところがあちらでは、それが「親近感」をアピールするための手段として用いられるというのですから驚きです。グローバル化が進み世界中の垣根が低くなりつつある中で、現存する文化価値観の違いによる行き違い。欧米化が進んだと言われる日本においてさえ、まだまだ理解し合わないといけない事柄はたくさんあるようです。
農耕民族と狩猟民族の違いという結論が、21世紀という時代に入ってなおしっかりと現代に受け継がれていることに興味深いものがあります。西欧人との違いを比べるというよりも日本人の文化のルーツをここに見つけることができそうです。植物を食料として確保しえた生活環境だからこそ、動物を殺してはいけないという「殺生戒」という思想が生まれたのではないかというくだりは宗教観にも及びます。
エピローグで筆者が面白いことを述べておられます。「『西洋と日本との間には手足に対する見方があるに違いない』という考えに取り付かれて、冷静な目を失ってしまったかもしれない」と断った上で、文化の違いを明らかにするということは、自分が常識だと思っていることを疑うことであるといわれます。要するに自分との違いを非難することではなく、相手の歩んできた歴史を知ることによりさらに深く相手を理解するという目的が優先すべきなんだろうと思います。
(辻田 浩志)
カテゴリ:人生
タグ:比較文化
出版元:徳間書店
掲載日:2012-01-19