ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
「体幹」ランニング
金 哲彦
一昔前までは、一部アスリートや指導者、トレーニング愛好家にしか馴染みのなかった感のある「体幹」という言葉だが、現在では一般のフィットネス現場においても形を変え品を変え、頻繁に耳にする。部活動の練習で顧問の先生が「もっと体幹を安定させて!」などと声をかける場面や、フィットネスクラブで「コア(体幹)○○」と命名されたスタジオレッスンに接したことのある人は少なくないだろう。
本書もそんな「体幹」を身近なテーマとした一般ランナー向けのランニング指導書である。著者はさまざまなメディアでもお馴染みのランニング指導の第一人者、金哲彦氏。氏のマラソン中継での解説などと同様、一般ランナーの目線に立った平易で分かりやすい語り口で、ランニングにおける体幹の重要性やそこを上手に使うためのトレーニングなどを解説してくれている。
とは言え、多くの一般ランナーにとっては体幹を意識して走る、といきなり言われてもなかなかピンとこないであろうし、昨今のランニングブームの中でもそうしたフィジカルな部分とテクニカルな部分双方に興味を示している人はまだまだ少数派だろう。ともすれば、文字通り(?)「コア」なランニングファンのための一冊になってしまう可能性もある。が、本書はその部分を豊富な写真やイラスト、日常生活の中で行えるエクササイズ紹介などをふんだんにちりばめることによって回避し、むしろその入り口のハードルを下げることに成功している。言わば、「難しいことを簡単に伝える」というスポーツ指導、トレーニング指導の現場における恒久的な課題を軽快にクリアしているのである。
一方で、フォースプレートによる接地時間の計測データや、3カ月ピリオドでフルマラソン向けに期分けされたトレーニングプログラムなどが掲載されている点も大きなポイント。こういった部分は先ほど述べた「コア」なランナーも十分興味をそそられる内容のはずである。コストパフォーマンス(1200円)という面から見ても、多くの一般ランナーに対しての「推薦図書」として紹介したい一冊。
(伊藤 謙治)
カテゴリ:運動実践
タグ:ランニング 体幹
出版元:講談社
掲載日:2012-10-15