ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
オリジナルワーキング
高橋 宣行
指導現場において、誰しもが一度は思う言葉、口にする言葉があるであろう。「指導現場は教科書通りにはいかない」「指導現場は理論通りにはいかない」…、というような言葉である。そして、この問題を解決するためには、トレーニングの原理・原則といった「科学的根拠」から、よい意味で、一時離れてみる必要があるのではないだろうか。
私は本書を、指導現場のトレーニング指導者やアスレチックトレーナー、チーム運営を統括する監督・ヘッドコーチといった、さまざまな立場の方に紹介したいと思っている。本書は、博報堂制作出身者が、一般ビジネスパーソン向けに「仕事の仕方」を提案したものである。私は、本書で紹介されている仕事の仕方に対する考え方が、競技スポーツの現場において参考になり、大変有効だと考えているのである。
なぜなら、広告という仕事は、依頼主と生活者の間に位置し、両者にとっての最良の提案をすることを必要とする、「課題解決屋」であると考えるからである。この立ち位置は、選手の傷害予防や競技パフォーマンス向上に貢献するトレーニング指導者の立場と全く一緒である。そして、その解決過程における物事の考え方は、チーム運営に関わりを持つすべての人間に対して有効だと実感したからである。
本書の大きな目的を凝縮すると、「人間力の向上」ということになるであろう。人間力とは、物事に対する考え方と、それに基づく行動のことである。これらの要素を最適なものにするために、「知る」→「想う」→「創る」→「動く」という段階を経て説明しており、最終的に、「独創的・創造的な仕事ができる人間」を目指そうとしているのである。
この全体の流れをスポーツ現場に当てはめると、シーズン開始における「キックオフミーティング」が頭に浮かぶ。次のシーズンの目標達成にむけて、現状を知り、さまざまな思いを巡らせながらイメージを形にしていく。そして、選手とともに動くことで、目標達成に向けて歩みを進めるのである。本書の特徴は、このようなことに関しての具体例が大変豊富であることも挙げられる。具体的な事例として、「植物物語(ライオン)」「ポッキー(グリコ)」「BOSS(サントリー)」…など、誰もが聞いたことのある身近な事例を用いて、そのコンセプトから商品開発、商品改善までの流れが非常にわかりやすく紹介されているのである。これは、競技スポーツチームの導入期・成長期・維持期・衰退期における状況打開策のヒントにもなるであろう。
また、この手のコンセプト系、戦略系の書籍にしては大変読みやすいのがありがたい。100ページ前後であり、図解も豊富で、手書きの部分も多いことから、非常に親しみやすいものにもなっているのである。私自身、本書のお陰でコンセプトというものを楽しく理解することができたと同時に、実際のコンセプトメイキングに大変役立った経験がある。個人的に手放したくない一冊であるし、同じような悩みを持つ方に是非紹介したい一冊である。なお、他にも著者のシリーズが存在する。トレーニング指導やチームの運営・マネージメントに課題を抱えている方にはお勧めのシリーズである。
(南川 哲人)
カテゴリ:指導
タグ:指導 マネジメント
出版元:ディスカヴァー・トゥエンティワン
掲載日:2012-10-16