ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
これ一冊でわかる 着衣泳実技トレーニング
荒木 昭好 野沢 巌
“着衣泳”という単語は多くの人にとっては耳慣れない言葉かもしれないが、服を着たまま泳ぐこと、と聞けばおそらくは容易に水難事故のシチュエーションをイメージできるであろう。本書は水中で自らの生命を維持するための、文字通りサバイバル・スイミングとしての着衣泳指導書である。
猛暑に見舞われた今年も各地で水難事故が発生しているが、そうでなくとも水辺であればさまざまなシチュエーションで水難に遭遇する危険性は存在する(ちなみに2009年を通じての全国での水難事故発生件数は1540件)。そうした際に、サバイバル・スイミングとしての着衣泳を経験しておけば「なんらかの対応ができる可能性が高まる」(本文第1章より)のは自明の理である。
そもそも、着衣で水に落ちたらどんな状態になるか? どんな泳法でどのように泳いだらよいか? 水中での脱衣は必要か? etc…といった点についての知識や経験がわれわれ一般人は余りにも少ない。水泳そのものの教育は学校体育や全国のスクールで盛んに行われているのにもかかわらず、である。本書の序盤から語られている通り、着衣泳の練習をプールで行っても水質衛生面ではなんら問題ないことなども踏まえて、学校や施設側は積極的にこのサバイバル・スイミングの練習を取り入れてもよいのではないだろうか。
本文中ではこのほかにも、教科書の入っているバッグが水に浮くことやTシャツやジーパンなどさまざまな衣服の水中における重量変化データ、水着と着衣での泳距離比較など、知識として知っておけば実際のサバイバル・シチュエーションで大きな助けとなるであろう内容が段階を踏んだ技術指導解説に加えてふんだんに盛り込まれているのもありがたい。
近年、CPRとAEDの普及でスポーツイベントのみならず日常のさまざまな場でも九死に一生を得た事例が報道されているが、戦国の昔から“日本泳法”として息づいてきた歴史のあるこの着衣泳も、そうしたサバイバル技術として普及が望まれることを改めて感じさせてくれる一冊である。
(伊藤 謙治)
カテゴリ:その他
タグ:着衣泳
出版元:山海堂
掲載日:2012-10-16