ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
医療の限界
小松 秀樹
日本の医療は崩壊の危機に瀕しているという筆者。筆者が主張する問題とは「医療をめぐる事故や紛争の大小」ではなく、「医療自体に対する国民の態度の変化」だという。
医療行為を行う医師に責任があるのは間違いなく事実であるが、社会の側にも問題があることを問いかけている。日本人を律してきた考え方の土台が崩れている。
「死生観の喪失」
「生きるための覚悟がなくなり、不安が心を支配している」
「不確実なことを受け入れない姿勢」
安心・安全神話が社会を覆っているからこそ、患者も医師もリスクを負うことを恐れる。その結果双方の間に軋轢が生まれるだけなく、本当に医療を必要としている人にさえ被害が及ぶ。医療だけでなく、教育問題、社会問題の原因にもつながる内容がリアルに載せられている一冊である。
そもそも「絶対」など存在しないのだ。今生きていることさえ、明日は絶対ではないのである。それを頭でわかっても心で受け止めきれないことが、医療崩壊にもつながっていると言える。医療だけでなく、現代社会に対してのメッセージが込められた一冊に感じた。
(磯谷 貴之)
カテゴリ:その他
タグ:医療
出版元:新潮社
掲載日:2012-10-16