ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
競技志向と健康志向のスポーツ科学
宮下 充正
2009年に発刊された。そして、スポーツ科学の新しいパラダイムを展望しようとしたものであると著者は記している。このことは、本書全体の構成からも理解できるものである。
本書の特徴は、序章、1章、終章であろう。まず序章では、スポーツ科学における本質的な課題に触れている。それは、遺伝的要因と環境的要因である。スポーツの活動能力は、前者にとってどの程度決められるのか、後者にとってどの程度改善可能なのかを検討している。このような課題を踏まえて1章に進む。スポーツ科学のこれまでの歩みである。温故知新ということであろう。そして、2章~6章は、トレーニングの専門的領域に関連する分野である。これが大変わかりやすい。とくに、ポイントを絞った図解は、各章の図解を追うだけでもその章の全体像をつかむことができる構成になっているようである。これは、これから専門職を目指す読者だけでなく、現場で活動する専門職にとっても大変役立つだろう。最後に終章である。スポーツというものを多面的に検討している。
本書を通じて、学際的研究という言葉が思い浮かぶ。研究対象となるものが、複数の学問的領域に関連し、それらが総合的かつ協調的に進むことである。スポーツの高度化や大衆化が進む現代のスポーツにおいて、単独の学問的領域だけでは読み解けない部分が大きくなってきていて、飽和状態にあることが著者のメッセージとしてあるのではないだろうか。このような考え方は、スポーツ指導者、スポーツ部門におけるリーダーなどが持つべき観点の1つではないかと感じる。スポーツ科学を局所的な視点だけでなく大局的な視点からも検討するうえで大変役立つ一冊である。
(南川 哲人)
カテゴリ:スポーツ医科学
タグ:スポーツ科学
出版元:杏林書院
掲載日:2012-10-16