ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
ゆっくりあきらめずに夢をかなえる方法
桧野 真奈美
雪が降らない国、ジャマイカの代表の奮闘を実話に基づいてコミカルに描いた映画に『クールランニング』がある。この映画のもう1つの主人公とも言えるのがボブスレーという競技だ。そして、ボブスレー日本代表桧野真奈美さんが自らの五輪挑戦を書き下ろしたのが本書『ゆっくりあきらめずに夢をかなえる方法』である。だがこちらは映画のようにコミカルにはいかない。
ケガで五輪が遠のくという悲劇は、アスリートにつきまとう影のようなものであるが、桧野さんの場合はそれだけでなく最初の五輪のチャンスを堂々と既定の条件を満たし、出場権を獲得したにもかかわらず、JOCの全体の派遣人数制限のため出場を許されなかった。ボブスレーという競技にはお金がかかる。氷上のF1ともいわれるハイテクマシーンであり、その輸送費を含む遠征費はとても個人で賄えるものではなく、スポンサーに頼らざるを得ない。しかし、オリンピックに出場できなかった桧野さんのスポンサー探しは困難を極める。たとえ五輪に出場を逃したのが桧野さんの能力・成績によるものではなかったとしてもだ。
その後めでたくスポンサーの問題、ケガを乗り越えて見事念願の五輪出場を果たした桧野さんは、ボブスレーを「させていただいている」と述べている。“日本一”になっただけではオリンピックに出場できない。競技そのものだけではなく、世界を転戦して五輪出場権を獲得するためには莫大な費用がかかる。ほとんどの場合、個人の運動能力だけでは賄えない。とくに五輪などの大会の派遣費は国民の税金によるものだ。「させていただいている」という感性も選手を強くするための必要条件となっているのかもしれない。
2010年バンクーバー五輪では、韓国が出場枠を使い切らずに少数精鋭で臨み、旋風を起こしたことを受けて日本でも議論が起きている。スポーツが国策になりつつある現在、その進路を議論するためにも読んでおきたい一冊である。
(渡邉 秀幹)
カテゴリ:人生
タグ:ボブスレー 五輪
出版元:ダイヤモンド社
掲載日:2012-02-15