ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
健康・体力づくり入門 運動処方の考え方と実際
小野 三嗣
「健康ブーム」ではある。ジョギング、エアロビクス・ダンス、ゲート・ボール、自然食、ビタミン剤、いくつもの流行現象がみられる。人々は、それをやれば何もかも解決するのではないかという過度の期待すら抱いて、一念発起する。何事も一朝一夕に卓効はみられず、「なんだ、バカバカしい」とやがて忘れ次のものを求める。すべての人はそうではなくとも、そういう傾向は確かにある。
本書の著者はいう。「まず何よりも生命に関係する科学的情報の活用の知恵を身につけねばならない。大きな集団を調査対象として行われた研究の結果が示している疫学的知見や古くから受けつがれてきた体育に関する法則といわれるようなものが『自分にとって何なのか?』と考える知恵が必要なのである」と。またいう。「運動適性の個人差は普通の人々が想像するよりも著しく大きなものだということをまず認識してほしい。また疾病を研究することによって得られた知見から健康増進の問題を考えるという根本的な誤りなども反省しなければならない。運動療法という考え方がどんなに広がってきても『元来運動とはベストコンディションで行うべきものだ』という原則にはゆるぎがないのである」(いずれも「はじめに」より)。
この本は、「運動は必要か」「運動処方の必要性」「運動処方の科学」「運動処方の原則」「運動処方のリズムを考える基礎」「運動処方とコンディショニング」「運動処方箋の実際」という章から成るが、章題の固さとは打って変わり、内容は簡潔であり、しかもハッとさせられる鋭い指摘と洞察に満ちている。いちいち例を挙げる余裕はないが読者は、健康とか体力づくりにまつわる俗説、思い込みについて改めて考え直さざるを得ないだろう。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
カテゴリ:指導
タグ:運動処方
出版元:大修館書店
掲載日:1983-06-10