ATACK NET ブックレビュー
トレーニングやリハビリテーションなど、スポーツ医科学と関連した書評を掲載しています。
監督の条件 その実戦と理論
梅村 清弘 深井 一三 小林 平八 安田 矩明
監督やコーチは、選手の競技力の向上に大きく関わっているのが普通である。ところが、監督やコーチの役割について、科学的に考察を加えたものはこれまでほとんど出ていない。
本書は、約10年前に書かれたものだが、このコーチングの分野に科学的な考察を試みた書であり、その内容は今も十分な説得力を持っている。
編著者は中京大学の教授、助教授の6人で、いずれも各種競技の監督・コーチを経験した人たちばかりである。そのため、理論を提示していきながらも、そのなかに自らの豊富な実例が挙げられて、常に、現場の視点も忘れられていない。たとえば編著者の1人は、中京高校が昭和41年春・夏の甲子園を連覇した当時の校長であり野球部長であった人で、自らのチームについての分析を詳細に行っていて興味深い。そのほか、中京大学から生まれた、各種競技のチャンピオンについての話も、監督と選手の関係という視点から詳しく考察している。
また、名監督といわれた川上、大松、松平などの各氏の指導方法、考え方が実例中心にわかりやすく解説されている。
そして、本書が今もなお、その新しさを失っていない点は、コーチングを単にスポーツの世界だけからみることなしに広く社会的観点から捉えようとしているところである。その意味で、本書の第1章が「コーチングの社会学」から始まるのは、その基本的な視点をよく表しているといえる。
コーチと選手の人間関係も、社会一般の人間関係の中で考察され、そのためにスポーツ以外の分野からも多くの文献を使っている。
こうした本がもっと出てくることによって、選手の資質だけでなく、監督(コーチ)の資質ももっと問われていくべきだろう。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
カテゴリ:指導
タグ:監督
出版元:大修館書店
掲載日:1983-10-10