エネルギー代謝を活かしたスポーツトレーニング
八田 秀雄
運動は全て有酸素運動である
われわれ人間はエネルギーを補給することによって身体活動を営んでいる。そして、このエネルギー補給の中でとりわけ重要なのが酸素補給である。筆者は、この酸素がエネルギーを生成する過程について「糖が分解されて、ピルビン酸になり、それがミトコンドリアのTCA回路に入って、ATPが作られました。(中略)そして、TCA回路──電子伝達系と反応が続き、ATPが作られます。このとき酸素が必要になります」と解説する。そして、酸素はミトコンドリアでATPを作る際に、反応の仲立ちをする働きがあると言う。
ここまでは従前の知識と変わりはない。しかし、ここからが違う。筆者は、身体活動している限り強度に関係なく酸素の仲立ちは必ず行われていると言うのである。ん?
そこで学生時代を思い出して、運動とエネルギー供給の関係について簡単に復習してみよう。運動時のエネルギー供給には3つの方法があって、1つはATP-PC系。この供給機構でまかなえる運動時間は7秒であった。次に反応は解糖系に移り、33秒がこの機構でまかなえると言われた。そして、その後は酸化系のエネルギー機構、つまり有酸素運動となるわけだ。従って、前者の7秒+33秒は無酸素運動だとわれわれは学生時代に教わったわけだ。
ところが筆者は、たとえ最初の7秒間の全力運動でもエネルギー供給機構はATP-PC系だけではなく、ほかのシステムも働いていると言う。
「ヒトが生きているということは、糖や脂肪から酸素を消費してATPを作っているということです。それは運動中でも同じです。全ての運動は有酸素運動なのです。ダッシュも無酸素運動ではありません」 うーん、これは大変新しい解釈と言ってよいでしょう。
乳酸は疲労物質ではない
疲労の研究は大変古くから行われているが、スポーツ競技場面においてはパーフォーマンスを低下させる原因となるので、現在でもスポーツ科学の中心的テーマの1つである。しかし、この疲労の原因と考えられている物質については昔から乳酸が常識であった。
しかし、筆者はここでも「乳酸は疲労に無関係ではないが、高い強度の運動における疲労、特に疲労困憊を、乳酸による体内の弱酸性化だけで説明するのは不適当である」と書いている。
そして、本当の原因は「高い強度の運動でクレアチンリン酸がなくなりリン酸が蓄積することが、疲労に大きく関係している可能性がある」と述べ、さらに「カリウム、カルシウムなど、疲労は多くの要因が関係していて、1つの要因だけで決まるわけではない」と結論づけている。
筆者は、このようにスポーツをする者にとって今まで常識とされていた知識に対して「生理学的視点を持ちながら生化学的に考える」ことによって新たな結論とそれに基づいた新しいトレーニング方法を提案することに意欲的だ。さらに「一般の方はテレビなどでスポーツ観戦をするときに、より面白くなるということで読んでいただければいいかと思います。」という肩の力が抜けたコメントにも好感が持てる。
大学院生やこれからスポーツ科学に興味を持つ人には、格好の運動生理生化学の入門書としてお勧めしたい一冊である。
(久米 秀作)
出版元:講談社
(掲載日:2004-06-10)
タグ:生理学 乳酸 代謝
カテゴリ スポーツ医科学
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乳酸と運動生理・生化学 エネルギー代謝の仕組み
八田 秀雄
医科学の研究は実に日進月歩である。これまで定説として言われてきたこと、実践されてきたことが、数年の間にその考え方も実践も変わってしまうことは少なくない。そうした研究によって考え方や捉え方が変わってきた1つに「乳酸」がある。「乳酸は疲労の原因と関係し、スポーツ選手にとって悪いもの」といった考えが主流であった。しかし、長年乳酸の研究に携わってきた八田氏は「乳酸は老廃物ではなくエネルギー基質であり、乳酸ができるのは糖を多く利用するからで、酸素がないからではなく、乳酸ができる運動が無酸素運動でもありません。運動の疲労は多くの場合乳酸が主たる原因ではありません」と本誌(月刊スポーツメディスン)で述べているように、最近では乳酸の考え方は変わってきた。
とはいえ、多くの運動生理学のテキストにはいまだに「強度の高い運動は無酸素運動」と書かれているものもあり、「それならば自分で教科書を作るしかない」と書かれたのが本書である。したがって、最初の4章を運動生理の基礎、次の5~9章を糖と脂肪を中心とするエネルギー代謝の基本、後半の10~16章がエネルギー代謝の応用で構成されている。これから運動生理学を学ぶ人に最適な1冊である。
2009年2月17日刊
(田口 久美子)
出版元:市村出版
(掲載日:2012-10-13)
タグ:乳酸 生理学
カテゴリ スポーツ医科学
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乳酸を活かしたスポーツトレーニング
八田 秀雄
乳酸について70個のQ&A形式で構成されている。一般の人が乳酸と聞いて疑問に思うことから、トレーニングに興味を持ち始めた学生が疑問に思うことまで、乳酸に関することを幅広く一通り解説してある。
本書に出てくる質問は簡単だが、それに対する回答は実は簡単ではない。しかしそれを誤解のない範囲で、かつ理解しやすい形でまとめてある。
いまだに疲労物質といわれ、誤解されている乳酸であるが、一般の人や競技者、コーチ初心者がとりあえず乳酸のことを理解するために役に立つ書籍である。
(澤野 博)
出版元:講談社サイエンティフィク
(掲載日:2012-10-13)
タグ:乳酸 トレーニング
カテゴリ スポーツ医科学
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乳酸をどう活かすか
八田 秀雄
乳酸は無酸素運動をしたときに発生する疲労物質というイメージを持たれている方は多いのではないでしょうか。乳酸は疲労物質という考え方は間違いではありませんが、はたして、疲労は乳酸だけで起こるものなのでしょうか。本書では、疲労物質としてのイメージの強い乳酸をどう活かすのかということについて書かれています。
乳酸とは何なのか、乳酸と疲労の関係、発生のメカニズム、乳酸を摂取した場合どんな効果を得ることができるか、などの内容で説明されています。
乳酸とは何なのかというだけでなく、現場での簡易測定器を利用しての対応など、測定データとその活用方法、現場でのことが多く載せられています。乳酸とは、ということを理解したうえで現場でのアウトプットのしやすい本ではないかと思います。
(大洞 裕和)
出版元:杏林書院
(掲載日:2012-10-16)
タグ:乳酸 生理学
カテゴリ スポーツ医科学
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乳酸と運動生理・生化学 エネルギー代謝の仕組み
八田 秀雄
運動やトレーニングをより効果的に行うためには、その運動のポイントを選手やクライアントに理解してもらう必要があります。しかし、教科書に書いてあるような専門用語を並べても、理解しにくく、混乱させてしまう可能性もあります。
本書は、筆者が「授業で脱線して話す、逸話的な内容を加え」と書いてあるように、各ポイントに運動生理学についてイメージのしやすい逸話が書かれています。指導者としてより深い知識は運動やトレーニングの効果を上げるためには必要です。
運動やトレーニングの効果、そして運動中に身体の中ではどんなことが起こっているのかを理解しておかなければいけません。しかし、私が大切だと感じていることは、いかに運動やトレーニングをする人が理解し、イメージを持って自立しやすい状態をつくってあげられるかだと感じています。この書籍は、より深い知識をよりアウトプットしやすくしてくれる一冊です。
(大洞 裕和)
出版元:市村出版
(掲載日:2012-10-16)
タグ:乳酸
カテゴリ 運動生理学
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乳酸 「運動」「疲労」「健康」との関係は?
八田 秀雄
からだワンテーマシリーズの1つ。…について、見開き2ページのQ&A方式(70項目)で解き明かしていく。1ページを質問と回答に、もう1ページをイラストやマンガで説明している。
乳酸は、これまで疲労物質と考えられてきており、現在も根強いものがある。これはおそらく運動負荷と相関があり、比較的安定している物質であること、さらに簡便な計測装置が開発されたために起こってしまった誤解であろう。乳酸は、実は運動時のエネルギー輸送にも大きく関わっているようだ。また、高強度運動時に乳酸が蓄積していると、(酸性条件のために)筋内のカリウム漏出を抑えている働きがある可能性があるという。
結局のところ「疲労を乳酸だけで説明づけてしまうのはおかしなことです」という一言に集約されるが、ある時点での正しいとされる概念も、常に科学的姿勢で向かい合っていく、あるいは根拠ある主張であれば耳を傾け、改めるべきものは改めるべきであろう。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:講談社
(掲載日:2007-12-10)
タグ:スポーツ生理学 乳酸
カテゴリ スポーツ医科学
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じょうずになろう はしること
宮下 充正 加古 里子 武藤 芳照 八田 秀雄
“はしること”なんて、かんたんさ! でも、きみは“じょうずにはしること”ができるかな? と帯に書いてある。子どもは、走る、走り回るのが自然である。歩くのも楽しいが、走ることの楽しさのほうが、子どもにとっては勝っているだろう。しかし、帯の文章通り、“じょうずにはしること”は難しいものだ。子どもに、走ることを、“じょうずにはしること”をわかりやすく、絵本形式で示したのが『じょうずになろう はしること』(監修/宮下充正、え/加古里子、ぶん/武藤芳照、八田秀雄、評論社)だ。“じょうずになろう”シリーズの4巻目である。すでに「およぐこと」「とぶこと」「なげること」が刊行されている。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:評論社
(掲載日:1986-05-10)
タグ:子ども 走り
カテゴリ 指導
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乳酸をどう活かすか
八田 秀雄
2005年から毎年行われている乳酸研究会での発表内容をもとに、18名のスポーツ科学研究者、コーチほかによるこれまでの成果をまとめたのが本書である。最初に血中乳酸濃度の意味、代謝のメカニズム、測定の具体的な方法について述べられ、陸上競技やスピードスケート、スキー、ボート、サッカーなどでの活用事例が紹介されている。乳酸摂取や工業・医薬品についての話題も。いずれも表やグラフが多く用いられ、よりわかりやすくなるような工夫が盛り込まれている。乳酸に関する、より妥当な理解とその活かし方について現時点での知識を得ることができる1冊である。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:杏林書院
(掲載日:2008-05-10)
タグ:乳酸
カテゴリ スポーツ医科学
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乳酸を活かしたスポーツトレーニング(新版)
八田 秀雄
初版から15年。カラー化し、最新の研究動向も盛り込んだ。この15年の間に「乳酸が溜まるせいで疲労する」といった短絡的なイメージは解消されつつあるが、「どんな物質で、どのような働きをするのか」については一般の人にはまだよく知られていない。それを乳酸研究の第一人者が丁寧に解説。乳酸が運動のエネルギー源として使われる流れを理解する助けとして、乳酸トランスポーターにも触れる。
そして後半では、乳酸を切り口にした効果的なトレーニング方法がまとめられている。
自分の体内で起きていることが正しく理解できていれば、頑張りどころも自ずとわかるだろう。スポーツに取り組む人を応援する一冊と言える。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:講談社
(掲載日:2015-09-10)
タグ:トレーニング 乳酸
カテゴリ スポーツ医科学
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運動と疲労の科学 疲労を理解する新たな視点
下光 輝一 八田 秀雄
運動によって「疲労」を感じることは誰しもが経験するだろう。この「疲労」というのを、ただ「疲れた」という小学生の感想文のような表現で一括りにしてはいないだろうか。もしくは、気合いが足りないからやメンタルが弱いからといった主観的で曖昧な要因から、「疲労」が生じるという詭弁に陥ってはいないだろうか。
「疲労」は、客観的な指標で仮説を検証するという科学の世界での研究対象となっている。本書では、生理学・脳科学・心理学・栄養学といった科学的な観点から「疲労」に関する理論が展開されている。科学の世界では、以前までの常識が非常識になるというパラダイムの変換が生じる。運動をして疲労するということは、かつて乳酸が蓄積することが原因と考えられ、その考えは今でも根強く残っている。しかしながら、現在の科学では、乳酸は疲労物質でなく、疲労の予防に関与することが示されている。筋肉を動かすエネルギー源には筋肉中に蓄えられたグリコーゲンの関与が広く認知されているが、乳酸も筋肉へのエネルギー供給に重要な役割を果たしていることが報告されている。疲労によってこれらのエネルギー源が枯渇してしまえば、スポーツパフォーマンスの低下は避けられない。
筋肉だけではなく、脳においても乳酸やグリコーゲンの関係が示されている。これらが関与した脳におけるエネルギー源の減少は、中枢性疲労を引き起こす要因の一つとされている。中枢性疲労とは、脳から筋肉に指令を出す際に関与する神経系に疲労が生じることである。上記に示した筋肉と脳においての疲労に関する話だけでも、「疲労」という現象には様々なメカニズムが潜んでいることがうかがえる。
本書を読むことは、「疲労」という現象とそのメカニズムを理解し、「疲労」と適切に付き合う方法を考える思考の糧になるであろう。この理解は、精神論によって追い込むトレーニングとは一線を画し、科学的な視点から「疲労」を客観的に捉えたトレーニングメニューの作成につながると考える。最新の知見から得られる恩恵によって、質の高いトレーニングが継続できる結果、最終的にスポーツパフォーマンスが向上すると考えられる。「疲労」という観点でトレーニングに関する思考の糧を育むためにも、本書を読まない理由が見当たらない。
(曽我 啓史)
出版元:大修館書店
(掲載日:2020-08-17)
タグ:疲労 乳酸
カテゴリ スポーツ医科学
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乳酸を活かしたスポーツトレーニング
八田 秀雄
疲労物質として語られることの多かった乳酸を、「糖からできたものだからエネルギー源として使える」「勝負のカギである」という点から科学した本。初心者がつまずきそうな運動生理学の“難所”をうまくフォローしているため、読破したときには、きっとトレーニングに活かしてみたくなる。
(月刊トレーニング・ジャーナル編集部)
出版元:講談社
(掲載日:2001-05-10)
タグ:乳酸 運動生理学
カテゴリ スポーツ科学
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