隠居学
加藤 秀俊
副題に『おもしろくてたまらない ヒマつぶし』とある。帯には「読んだら何ともいえないいい気分。あらゆる世界をめぐる好奇心 自由な隠居になる願望をもつ著者の知的冒険!」と記されている。隠居というのは日本のよい制度で、よく知られた「ご隠居さん」は落語の世界に頻繁に登場する。落語のご隠居より、もっと知的で好奇心に満ちていて、話を聞いているだけでトクをした気になるが、よく考えるとそんなにトクでもない。でも、読んでよかったと思う本である。
著者の専門は社会学で、京都大学、学習院大学、放送大学などで教鞭をとり、現在は中部大学学術顧問である。冒頭「つぎはぎの世界」の章(というほどかしこまってはいないが)では、知り合いから韃靼そば茶をもらったことから話は始まる。そこでまず白川静先生の『字通』で「韃靼」を調べる。タタール、突厥が出てきて、タルタルソースが浮かび、そばの話になり、今はアフリカ産のそばが信州で手打ちにされて食されていることにつながったりする。ま、いわばこういう話ばかりの本である。高齢になっていくにつれ、運動量が減るのは仕方がないが、頭の運動量は増えていく可能性がある。そういう日々は楽しいだろうし、そうありたいと思わせられる。何よりも好奇心を失うのが生命力低下の第一歩と知るしだいである。
2005年8月29日刊
(清家 輝文)
出版元:講談社
(掲載日:2012-10-10)
タグ:隠居 好奇心
カテゴリ その他
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隠居学 おもしろくてたまらないヒマつぶし
加藤 秀俊
「脈略のなさ」それが本書の真骨頂なんでしょう。興味深い話題が延々と続くわけですが、それら1つひとつにつながりはありません。なんとなれば隠居にはこれをやらなければいけないという目的がないからです。
「現役」にはそれぞれすべきことがあります。現役を退いた隠居という立場においてはそういった義務的な縛りがありません。だからこそ思い浮かぶままに好きなことを考えられるし、他愛もない事柄に興じることもできるのでしょう。
それでも、今まで人類が築き上げてきた科学的知識の一片一片は思いつきから始まり、それらが連鎖して人類の財産とも言える知識に膨れ上がったのであるという主張に、筆者の隠された気概を感じずにはいられません。
本書に漂う一種の解放感は現役の私たちから見ればこの上なく自由にも見えますし、あるいは話の展開の身勝手さに辟易する人もいるんじゃないかと想像してしまいました。本書をどう捉えるかも自由。いずれくるであろう自分の隠居生活を頭に描きながら筆者の世界に没頭するもよし。雑学を身につけたいという目的を持って読むのもよし。自分なりの筆者とのスタンスで楽しめると思います。
目的があり必要に迫られて覚えようとしたことより、興味本位で調べたことの方が案外覚えているもの。そういった知的好奇心をくすぐる内容が盛りだくさんの一冊です。
(辻田 浩志)
出版元:講談社
(掲載日:2014-02-04)
タグ:隠居 好奇心
カテゴリ エッセイ
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