からだの不思議 だれでもわかる解剖生理学
坂井 建雄
身体に対する興味を引き出すのに、とてもよい読み物だ。
そこで、本書を病院、医院、また整骨院などにおいてみてはどうだろうか。口、胸、腹、尻、頭脳、四肢などについて、普段疑問に思う事柄を各章ごとに答えてくれる。読みきりなので、どこから読んでも理解できる。待ち時間のうちに1つ2つ知識が深まるだろう。
本書は、もともと看護学生を対象にした『クリニカルスタディ』という雑誌の連載から始まっており、専門用語も出てくるが各ページごとのイラストはとてもわかりやすく、絵を見ると文章を読みたくなる。ふりがながあるともっと読者層が広がるのに。
筆者も書いているように、「生理学」「解剖学」と難しく構えないで、「身体って面白いな、よくできているな」と自分の身体をいとおしく思うことから始まれば、さらにつっこんで調べてみたくなるだろう。
(平山 美由紀)
出版元:メヂカルフレンド社
(掲載日:2012-10-13)
タグ:解剖学 生理学
カテゴリ 医学
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人体は進化を語る あなたのからだに刻まれた6億年の歴史
坂井 建雄
「自然に」という形容動詞は「ひとりでにそうなるさま」という意味もあり、「なんとなくそうなってしまった」というニュアンスを感じてしまいますが、本書を読んでいると「自然に」という言葉にまったく逆の印象が刻みこまれてしまいました。
自然に存在するものにはすべて何らかの必要性があり、そして地球上に生物が誕生して以来、常に目まぐるしい環境変化に対応すべく進化する、生物全体の生きようとする力を感じずにはいられません。だから「自然に」という言葉には「運命的に」という意味合いも含めるべきだと思ってしまうのです。
「胃は消化する器官ではなく食料を保存する器官」「頭蓋骨は元々鱗だった」とか、人類の進化のエピソードは下手なフィクションよりも面白く読めます。生物の進化というマクロ的観点からの切り口は、我々が知らなかった人の身体のプロフィールを紹介してくれます。
人体の不思議について書かれた本はたくさんあります。が、それらの多くは「今の人体」についての解説ですが、本書ではなぜそうなったのかという部分に重点が置かれているように感じました。いわば人の身体の歴史とでもいうべきものでもあり、その進化によりどういうメリットがあったのかについての解説には納得。なぜならばそれこそが人類が人類として生き残ってきた証なのですから…。
本書は単なる人間の進化を示したものではなく、哲学すら感じてしまうのです。
(辻田 浩志)
出版元:ニュートンプレス
(掲載日:2014-10-03)
タグ:進化 生命
カテゴリ 身体
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歌う人のためのはじめての解剖学 しなやかな発声のために
川井 弘子 坂井 建雄
歌うことが好きだ。好きというよりももはや呼吸することに近い。何かを見て連想しては歌い、何かの曲を聴いては続きを歌う。普段から大体歌いながら歩いている。以前は歌っているとよく「お、ご機嫌だね」「いいことがあったの?」と言われたが、流石に最近は何も言われなくなった。周囲の人に「これはこういうやつだ」と認識されたというのも一つの理由だと思うが、もう一つ。機嫌がいい=歌う、という図式が世から消えつつあるのではないだろうか。我々のような一般庶民にとって歌は歌うものから聴くもの、あるいはそのパフォーマンスを観るもの、に変わってきているのかもしれない。若い人たちに「あなたにとって音楽とはなに?」と聞くと十中八九「なくてはならないもの」という答えが返ってくるが、もう少しよくよく聞いてみると彼らにとっての音楽とは「ケータイのサブスクでイヤフォンを通して聞くもの」であることが増えた。ダンスためのものであることもある。それでも「推し」がある、という人はコンサートへ、観劇へ、出かけるという生の体験をするし、場合によっては「一緒に歌う」などということもあるかもしれない。カラオケは好き、という人もいるようだ。
さてその「歌う」ということだが、この本の表紙には「歌うことは、個人的で、繊細かつダイナミックな行為です」というサブタイトルがついている。この「個人的で」という部分、なるべく個ではなく全体でいたい人たちにとって「歌う」ということは年々ハードルの高い行為になるのかもしれない、と思いつつ扉を開く。
まず「歌う学びかたさまざま」という章が目に飛び込んでくる。何か身体的な表現なりパフォーマンスなりを学ぶ、トレーニングをする、練習する、という場合、大きく分けて科学的アプローチと感覚的アプローチがあるが、そのどちらかだけを盲信することの危険性について述べてある。理屈だけでは人は動けなくなるし、感覚は個々の人によってそれぞれ違う。特に感覚については、私はレッスンのときいつも「私はこうするがこれは私のやり方であって、それがあなたに良いとは限らない」「あなたはあなたのやり方を探さなければならない」ということを必ず言うようにしているのだが、まさにそのようなことが書いてあって、少しほっとするような気分になった。手の大きさも、口の形も、腕の長さも、何もかも人はそれぞれ違う。自分がこうして上手く行くものが、必ずしもその人にとって良いとは限らない。かといって、常にチューナーを見て音程だけが正しい音を音楽といえるかというと私は違うと思のだ。ではどうしたら良いのか。
教わる側は言われた通りにすることが目的ではなく、何のためにそうするかをよく考えて自分なりに考えて練習すること、言われたことを「しない」という選択肢もあるということ。教える側は相手の状態をよく理解し何が必要かを見極めること、自分のやり方に固執して強要したり、相手のスペースに踏み込み過ぎたりしないこと。こう書くとなーんだ、そんなこと、というくらい当たり前で簡単なことのようだが、それができないから誰もが色々な場面で悩む。
教わる側は誰かに「ああしろ」「こうしろ」と言われて「はい!」「はい!」と勢いよく返事をしているとなんだかとても頑張っている感じがするし、そのことに充実感を覚えることもある。教える側は教える側で、指示を出して全てをうまく采配することこそが自分の役割だと自認していることも多いのではないだろうか。たまたまそれがうまくいくことはもちろんあるだろう。しかしそれだけで本当に全てがずっとうまく行くのか。
私は「自分がどうしたらもっと良くなるか」は基本的にその人が自分で考えるべきだと思っている。私が頼み込んで歌ったり演奏したりしてもらっているわけではないし、この場合「上手になりたい」のは私ではないからだ。ただ、私は少しだけ相手より経験を積んだ者として、ああしてみたら、こうしてみたら、とヒントを言うことができるくらいのことだ。やってみてうまくいけばそれでよし、うまくいかないならやめれば良いのだ。
そういう、ああしてみたら? こうしてみたら? といって色々試してみるときに、教える側と教わる側の共通言語となるのがこういう解剖学の「知識」であるかもしれない、とこの本を見ながら考えた。ここのこの部分がうまくいかない、と思ったとき、身体の仕組み、成り立ち、部分部分の役割、関係性を知っておくことは非常に有効である。目を酷使すると肩が凝り頭が痛くなる、ということはすでに周知の事実だが、背中が痛い、肩凝りだ、と思っていたら実は心臓だった、ということもあるそうで、歌の場合も喉だ喉だと思っていたら実は脚の位置だった、というようなことは多々ありそうである。
こうしたことは何も歌、音楽に限ったことではないのではないだろうか。高く跳びたい、速く走りたい。脚力だ、脚力だ、と思って脚を鍛えに鍛えても記録が伸びない。実は問題は脚ではなく、腕だった、というようなことである。そうしたとき、その事実に教える側、教わる側、どちらが気がつき、どちらがこうしてみようと言うか。目的は楽によく響く声を出すことであって、喉の力を抜くことそのものを目指しているわけではない。目的は高く跳ぶこと、速く走ることであって、脚に筋肉をつけることがゴールではない。そのことに気づける演奏者でありたいし、そのことに気づける指導者でありたい。
言われた通りにするだけでなく、どうしたらうまくいくか自分で考えて工夫する。こうして文字にしてしまうとあまりに当たり前なのだけれど、日々練習、トレーニングに追われていると、つい見失いがちなことでもあるような気がする。表題は「歌う人のための」だが、この本には何かを習得しようとする人全てに通ずるものが書かれているように思う。何かを教えたい、教わりたい人は是非手に取ってみて欲しい。身体を使って何かをしようとする人は全て、解剖学だって知って損はないはずだ。
最後に「歌うには縦糸と横糸がある」という著者の言葉に触れておきたい。横糸はフレーズをどう歌うか。縦糸はそのためにどう身体を使うか。指導の現場で当たり前のように日常的に言われる「横隔膜を使って」「しっかりささえて」「ノドをあけて」というのは不正確で必要のない斜めの糸だ、と著者は言う。このことが頭ではなく感覚的に理解できるようになるまでには私はもう少しかかりそうな気がする。この、科学的でも感覚的でもないアプローチを知的アプローチとでも呼ぼうか。目指す山の頂はみな同じでも、そこへ至るための道筋はいくつもある。それをまた一つ見つけたような気がする。
(柴原 容)
出版元:誠信書房
(掲載日:2023-02-27)
タグ:発声法 解剖
カテゴリ 解剖
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