わが愛しきパ・リーグ
大倉 徹也
パシフィックリーグをこよなく愛する著者の文章からは、野球をエンターテイメントとして捉え、1つのスポーツショーとして見ようという思いが伝わってくる。かつて新庄剛志選手が日本ハムファイターズにいた頃、ファンサービスで札幌ドームにフェラーリであらわれたことがあった。神聖なグラウンドに車であらわれるとは何事だと訝しむ関係者がいたと聞くが、そのエンターテイメント性の高さで、プロ野球を好きになった札幌のファンは決して少なくないと思う。現在各球団がそれぞれ地域密着を掲げ、さまざまな経営努力をしているが、ファンの気持ちを一番に考えながら、既成の概念を打ち破っていく力強さは、パ・リーグの球団のほうに一日の長があるのではないだろうか。
また、本作に出てくる「純パの会」の会員の方の声を聞くと、こうやって野球を楽しんでいる方もいるんだなと新鮮な気持ちになった。それは、審判のパフォーマンスに焦点を当てたり、個性的な存在感を出す選手を探すことであったり、応援団の応援ぶりを楽しむことであったりする。その魅力の多様性を鑑みると、プロ野球界の歴史の重さを感じるとともに、これからの可能性をも強く期待させるものであった。
(水田 陽)
出版元:講談社
(掲載日:2012-02-07)
タグ:野球 ノンフィクション
カテゴリ 人生
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エースナンバーをつける科学的練習法
川村 卓 島田 一志
ボールを速く投げるためにはどうすればいいか。本書で述べられている通り、左右の肩甲骨をくっつける(胸を張る)、体幹の回転の重要性、股関節のタメなどは、速いボールを投げる上で不可欠な要素であるだろう。
また、本書では、「身体のつくり、感覚は人それぞれなので、その人の最適なピッチングフォームはその人だけのものだ」としながら、合理的なピッチング動作を科学的に分析してみると、気をつけるべきチェックポイントと、神経質に考える必要のない部分に分けられると言っている。今まで常識だとされていた指導が、実は成長の妨げになっていたというケースが野球界にはあると聞くが、本書では経験則だけでなく、科学的な裏づけがあってのものなので、安心して参考にできる内容になっているといえるだろう。
最終章では、練習ドリルを図解も載せてわかりやすく紹介しているのだが、「肘を上げる練習」や「アーム投げを直す方法」など、まだフォームが固まらない子供に是非ともやって欲しい練習が並べてある。本書では、子供に指導する上で大切なことについて広く言及している。特に共感できたのは、子供のうちから色々な遊びやスポーツを経験すること、自分が行ったプレーを自分の言葉にする練習をすることの大切さについてであった。
(水田 陽)
出版元:恒文社
(掲載日:2012-02-15)
タグ:野球 指導 成長
カテゴリ 運動実践
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野球力再生 名将のベースボール思考術
森 祗晶
本書は、日米両国の野球を比較しながら、日本野球界への提言をしていく内容になっている。フロントと現場の温度差、コミッショナーの権限の弱さ、ドラフトやFA問題。悪しき慣習が蔓延する野球界を、現役時代に巨人でV9を経験し、監督時代に西武ライオンズで黄金時代を築いた著者、森祗晶氏が冷静かつ論理的に両断していく。
同氏の言葉からは、現場から滲み出る重みを感じるし、メジャーリーグを始め、各界のいい部分をどんどん取り上げていくべきだとの主張は納得できるものが多い。しかし…正論であっても実現するのは難しいのだろうなと思ってしまう。どうせ一番の敵である「変わることを好まない」集団に跳ね返されてしまうのだろうなという気持ちになってしまう。
それではいけない。「勇気」が求められる時代背景の中で、野球界にかかる期待は大きいはずだ。プロ野球界の関係者全員が人任せにするのでなく、自分のこととして考え、できる限りの行動をしていく必要がある。本書はプロ野球ファンの方はもちろん、球団関係者、メディア関係者にもぜひ読んでいただき、これからの野球界発展に向けて一考いただければと思う内容であった。
(水田 陽)
出版元:ベースボール・マガジン社
(掲載日:2012-02-15)
タグ:野球 組織
カテゴリ 人生
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武士道とともに生きる
奥田 碩 山下 泰裕
武士道の精神とは何か。負けた者の気持ちを思いやる、強がらない、弱きものを助ける、公平にことを行う、礼節を重んじる…本書では、今こそその武士道の精神から学ぶべきことがあると、グローバリゼーション、死生観、教育問題まで、多岐にわたり問題提起を行っている。
先ほど、元プロ野球選手、桑田真澄さんの講演を聞く機会があった。桑田さんは、道具を大切にすること、礼儀を重んじることは武士道精神から由来した、日本野球界にとって素晴らしい取り組みだと話される一方で、非効率な練習(オーバーワーク)、目上の人への絶対服従、理不尽な体罰などは、野球界にいまだ残る悪しき慣習として挙げていた。
過去の良き文化は大事にし、悪しき文化は是正していくべきだ。しかし、このプロセスからは正解を求めてはいけないような気がする。その時代その時代にマッチするものが必ずあるはずで、それは時代の流れとともにすぐに変遷していく。今必要なことは何なのか。この時代に合う考えは何なのか。それを「見極める」力を持つことこそが、今の日本人には求められているのではないかと思う。
(水田 陽)
出版元:角川書店
(掲載日:2012-02-15)
タグ:柔道 武士道
カテゴリ 人生
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ベンチ裏の人間学 監督達の戦い
浜田 昭八
本作はプロ野球の名監督7人(長嶋茂雄、仰木彬、星野仙一、大沢啓二、川上哲治、藤田元司、鶴岡一人)にスポットを当てている。著者である浜田昭八氏は、デイリースポーツ、日本経済新聞社の記者を経て、現在スポーツライターとして活躍している。豊富な取材体験から書き留められた文章には、称賛だけでは決してなく、ありのままの人間像が描かれている。采配の是非、フロントとの戦い、スター選手や不満分子の扱いなど、監督の仕事がいかに孤独であり、智力、体力、気配りが必要であるかを感じさせる。
「あの時代はあんなことがあったな…」と歴戦を振り返りながら、当時は決して表に出なかった監督の心情と照らし合わせて楽しめる一冊である。
(水田 陽)
出版元:日本経済新聞社
(掲載日:2012-02-17)
タグ:野球 ノンフィクション 指導
カテゴリ 人生
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はだかの小錦
小錦 八十吉
相手に有無を言わせない押し相撲で、出世街道まっしぐらだった現役時代を思い浮かべると、実力で周囲を黙らせてきたと思っていた。しかし、小錦氏は「生き抜く秘訣は自分を大相撲界流に合わせること」と語る。言葉の問題を乗り越え、兄弟子からの「かわいがり」に耐える。相撲界の理不尽なしきたりに耐え、人知れず体重管理やケガに苦しめられた。そんなつらい日々を乗り越える支えは、両親に楽をさせたい一心だったという。その苦労は並大抵のものではなかったと思う。
語り掛けてくるような、柔らかい文章で綴られているので、苦しみや成功の軌跡がダイレクトに心に響く。異国の地で異文化を自分に適合させる。それを実践してきた言葉には重みがあり、多くの人が感銘を覚えるものであるだろう。
(水田 陽)
出版元:読売新聞社
(掲載日:2012-06-04)
タグ:相撲 エッセー
カテゴリ 人生
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