日本のスポーツはあぶない
佐保 豊
スポーツ業界に関わるものとして、自分の働く環境はもちろんスポーツに関わる人の環境、待遇を改善できればと考えている。それは、著者と同じだと思う。毎年トレーナーという職業からみると、多数の希望者が出てくる中で、夢半ばで去る方々も多い。理由はさまざまにあると思うが、それは“環境”というものに尽きると思う。
本書を読んでいて再確認させられたことを述べたい。それは、NATA(全米アスレティックトレーニング協会)の創設が1950年であることだ。AMA(アメリカ医学会)に準医療従事者として認定されたのが、1990年であることもさらに驚いた。
私はアメリカの施設や環境、それらを支える哲学などについて触れてきたつもりである。あれだけ素晴らしい支援体制は一昼一夜にはできないことはわかっていたが、40年という年月を経て形になったものとは知らなかった。ということは、まだ、アメリカでもAMAに認知されて約20年であり、日本では認知されるまでに相当の時間がかかることは想像できる。
文中では、わかりやすく応急処置の方法が記してある。例を挙げると、心臓マッサージを行う際には、アンパンマンマーチや中島みゆきの「地上の星」SMAPの「世界にひとつだけの花」などと同じペースで行うとよいという。これ以外にも、傷は乾かして治すのではなく湿潤状態を維持して治すようにするなど現場では当たり前に用いられていることを丁寧に記してある。 これからどうしなければいけないのかを考えて行動しなければと思う。
(金子 大)
出版元:小学館
(掲載日:2012-10-13)
タグ:安全 スポーツセーフティ
カテゴリ アスレティックトレーニング
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スポーツから気づく大切なこと。
中山 和義
どんな人でも言われたことがある「スポーツをしているといいことがあるよ」という言葉。今までスポーツをしていて自分の感覚としていいということはわかってはいるけど、うまく答えられないというのは多くの人が抱える悩みである。読み進めていくうえでポイントとなるのは、気づきと自信である。
本書は、「スポーツバカは本当か?」や「自信がつく」など、わかりやすいタイトルに対して答える形で構成され、野球のイチロー選手やスケートの清水選手が、どのように努力したかを例にとり、丁寧な言葉で解説している。
著者はメンタルトレーニングに関する講習を受講し、テニスに関わるさまざまなことを行っている。「すべてのテニスプレイヤーを全力で応援します」をモットーに活動をされているそうで、文中からもその熱意が伝わってくる。用具に関することから、練習場所、マッチプログラムの作成にいたるまで、ありとあらゆることを実行しているところがすばらしい。これらはすべて、気づきから行動が生まれていると思う。
もう1つ重要になるのは自信である。スポーツは生きていくうえでの自信を与えてくれる。なぜ自信につながるかと言えば、スポーツ=運動+ゲームという要素で構成されるからである。ゲームには必ず勝ち負けがあり、人間は誰でも勝ちたいと思う。負ければ悔しいし、負けないためには気づきのセンサーを活性化させなければならない。気づきを実行に移してみることで、勝てる可能性が高まる。勝ちという結果が得られたときには、自分の中に自信という結果が残る。
自信をテニスという媒体を通じた活動によってさまざまな人に還元し、共感を生み、進化させていく。そんな当たり前でなかなかできないことをしっかりと実現されているのがすばらしい。 先行きが不透明な現代において、発揮するポイントが適切でない自信を持つ人々が多い中で、挑戦する自信や恥をかく自信などは、遠い過去のものになってきているような気がするが、そんな自信の大切さを再確認し、気づくことができる本であると思う。
(金子 大)
出版元:実業之日本社
(掲載日:2012-10-13)
タグ:メンタルトレーニング スポーツの捉え方
カテゴリ メンタル
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バレーボールコーチングの科学
カール・マクガウン 杤堀 申二 遠藤 俊郎 福永 茂 河合 学 篠村 朋樹
バレーボール発祥の地アメリカ。過去には素晴らしい成績を残していた。しかし、近年、国際大会で思うような成績を残すことができなくなっていたが、昨年の北京五輪では男子が金メダルを獲得し回復しつつあるといえる。著者は過去の黄金時代を支え、現在の日本バレーの礎を築いたといっていっても過言ではない理論を構築した方である。
本書を読み進めていくと、著者がかなりの量の学習をしていることが読み取れる。それは浅くもなく、深すぎることもなく現場で指導する際にちょうどよい内容で書かれている。ポイントはすべて運動学習に基づいて指導している点であり、押しつけではなく、気づき、提案によってスキルアップや、人間としての成長をしてもらいたいということが読み取れる。日本の指導者の多くがこれを学び実践しているが、成績としてなかなか残せていない。運動学習のポイントとなる、正しくフィードバックをするということができていないのではないかと考えられる。
技術や戦術が進歩し、1年前に間違いだったことが半年後には正しいとされることは珍しくない。そんな中でも、この本は変わらない基本を押さえているものであり、困ったときにはもう一度や見返していただきたい本である。写真や図説は少ないが、読めば読むほど共感することが増え、自分の中の創造力を刺激してくれる。
カール・マクガウン編
杤堀 申二(監修)、遠藤俊郎(翻訳代表)、福永茂・河合学・篠村朋樹(訳)
(金子 大)
出版元:ベースボール・マガジン社
(掲載日:2012-10-13)
タグ:バレーボール
カテゴリ 指導
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京子!いざ!北京
宮崎 俊哉
気合いだー!といつも叫んでいるアニマル浜口氏にいつも目が行ってしまいがちだが、この人は娘の存在なしには語れないのである。そんな娘と周囲の人々の日常や心境を綴った一冊。
浜ちゃん。この愛嬌のある呼び名で周囲の人から呼ばれているそうだ。いつも両親思いで、応援団思いな人柄が伝わってくる。しかしこの人柄が勝負においては命取りになることを監督やコーチが指摘している。「練習ではものすごい強さを発揮する。パワー、スタミナ、技術的にも全く問題ないどころか、ケタ外れのレスリングを見せる。間違いなく世界最強ですよ。でも、それが試合になると変わってしまって出せない。舞い上がってしまうのか、別人のようになってしまって…精神面かなぁ」というのは、富山英明氏(強化委員長)のアジア選手権直前の弁。このあと、勝利して無事北京オリンピック出場を決めるが、ここまでに至るまでのズラデバ選手との間に発生する頭突きや誤審などの問題も興味深い。
それ以外にもさまざまな登場人物が登場するが、福田富昭氏(日本レスリング協会会長)の存在が印象に残る。
女子レスリングに限らず、日本のレスリングは世界と比較しても強く、一時代を築き上げてきた。福田会長の存在によるところが大きいと思われる。女子レスリングをオリンピックの正式種目にするために20年以上駆け回り、選手の就職先のために企業をまわり、日常の喧噪からはなれて心を落ち着かせて練習させなければダメだという信念のもとに、私財を投じて新潟県十日町に女子レスリング専用の合宿所を設置した。
そんな会長の影響もあると思うが、古刹、富山県の大岩日石寺にて決意表明を行ったときにそれぞれの選手が記した言葉が記録されている。吉田沙保里選手は絶対勝つ!、また、伊調千春選手は根性と記した。そんな中、浜口選手は、『8・23美酒』という言葉を記した。文中に何度も登場するがその言葉を目標として書いたという場面がある。
浜ちゃんの両親・家族思い、周囲の人への思いが伝わってくる。優しさがいつも勝負の際に短所となり、人としては長所である。綴られている日々の苦悩は“金メダル坂”よりはるかに険しかったと想像できるが、それらを乗り越えてきた浜ちゃんの優しさがこの本を読むうえでのポイントになるかもしれない。
(金子 大)
出版元:阪急コミュニケーションズ
(掲載日:2012-10-13)
タグ:レスリング オリンピック
カテゴリ 人生
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バレーボールのメンタルマネジメント
遠藤 俊郎
日本のバレーボールは長い間低迷していた。正しく言えばまだ低迷中なのかもしれない。しかしながら、女子においてはアテネ、男子においては北京より再び五輪の舞台に出場することができている。それら低迷期に、メンタルという面から日本チームの基礎を築き上げ、後の五輪出場に大きな役割を果たした著者の活動を詳細に記している本である。
メンタルトレーニングについて詳細に記しているのはもちろんであるが、著者の考え方の基礎となっているのは、海外留学時代に学習した運動学習理論であろうと思われる。運動学習理論については、文中にもあるように書いていくと膨大な量になってしまうため、『バレーボールコーチングの科学』(ベースボール・マガジン社)をご覧頂きたい。端的に言えば、どう人に伝えるかを理論構築したものであり、興味深い。読み進めていくと今まで受けてきた指導法と全く違うことから違和感を感じるが、理解すればするほど感動するということを著者も述べている。
この本をバレーボールに限らず、多くの競技指導者に読んで頂ければ、指導法をより進化させられることは間違いないと思う。日本のスポーツ界のさらなる発展を祈って。
(金子 大)
出版元:大修館書店
(掲載日:2012-10-13)
タグ:バレーボール
カテゴリ メンタル
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トップアスリートを育てる スポーツ東洋医学
丸山 彰貞
名前から見れば、スポーツにおける東洋医学の使い方というイメージがあるが、読み進めて行くと、東洋医学だけでなく、心理検査を東洋医学の治療効果を測定するものとして用いていることがわかる。とくに治療前、治療後で実施しているのが興味深い。メンタルトレーニングを大きなものと捉えて実施していることも、治療家を志しているものとして共感できるものである。
読み進めるにあたっては、とても読みやすく丁寧に書いてあるが、ほとんどが東洋医学の基礎がなくては難解な部分が多い。著者はスキー競技を中心に活動されているため、データのほとんどはそれらに関わるものであるが、もっとほかの競技の治療経過も見てみたい。
一文を紹介する。「スポーツをするとリラックスできるのに、なぜスポーツ選手にリラックスが必要なのか」と著者の恩師のスポーツ心理学の教授が、心理学の大家から問われたらこう答えたそうだ。「では落語家が落語をしていて悩むのはなぜでしょうか」。ここから著者の強い信念と、深い情熱、偏らない心が読み取れる。
(金子 大)
出版元:産学社
(掲載日:2012-10-13)
タグ:治療 メンタル
カテゴリ 東洋医学
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実戦ビーチバレーボール
カーチ・キライ バイロン・シューマン 瀬戸山 正二
スマートという言葉が似合う著者、カーチ・キライは、インドアとビーチ両方で金メダルを獲得した唯一の選手である。現在日本ではインドアからビーチへ移る選手が増えているが、その世界的な先駆けであるのが、カーチ・キライであり、監訳をされている瀬戸山正二も日本初のプロビーチバレー選手である。
本書は、読むにあたりバレーボールの基礎知識や生理学が必要と思われる。文中に専門用語が多数登場する。単にレシーブやトスだけでなくレセプションやディグなど作戦面や技術において、近年一般的に日本で使われるようになってきた言葉が当たり前に使用されている。トレーニングの章においても、ストレッチ-ショートニングサイクルなども登場するので、これらも上級者向けの内容となっている。
しかし、本の薄さからは想像できない内容の濃さである。基礎技術から発展技術、トレーニング、コンディショニングなど幅広く網羅されていて、それはまさしくスマートにまとめられている。また、言葉ひとつひとつから著者の情熱が伝わってくる。
レベルアップしたいと思っている方におすすめの一冊である。
カーチ・キライ&バイロン・シューマン著、瀬戸山正二 監訳
(金子 大)
出版元:大修館書店
(掲載日:2012-10-13)
タグ:ビーチバレーボール
カテゴリ 指導
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真剣
黒澤 雄太
スポーツでは真剣なプレーによって、心が動かされる、感動するというのは多くの人が体験したことがあると思う。真剣の意味とは、それを持ったときの切れ味重さから由来するものであるとも書かれている。それら剣に関わることを記した興味深い一冊である。
本書を読み進めていくと遠山の目付、観見の目付や、二律背反する相対境など、非線形科学の本を読んでいるような感覚になってくる。バタフライエフェクトや動的平衡などを、日本の武道という視点からみた書き方をした本であるともいえる。
さまざまな人物が登場してくるが、主に山岡鉄舟を軸に構成されている。鉄舟が無刀流を開くまでに至る人との出会い、挫折が書かれている。一時ブームになった、宮本武蔵の五輪書や般若心経などが数多く登場する。その中でもスポーツに関わる人間として、心に残った一文がある。著者が澤木興道老師の言葉を引用して、「坐禅はあたかも、武士が三尺の秋水(とぎすました刀)を引き抜いて身を構えていると同様に真剣な姿である。どんな人間でも、一番尊いのは、その人が真剣になったときの姿である。どんな人間であろうと、ギリギリの真剣な姿には、一指も触れる事の出来ない厳粛なものがある。(『澤木興道聞き書き』酒井得元)」と記している。
また、「道場で真剣を持って自己と向き合うということはこういうことです」とも記している。禅問答のようになったが、文中には禅と剣との関わりも出てくる。剣禅一如という言葉で頻繁に登場する。
鉄舟は剣の道の真理がすべてありとあらゆるものに通じているということを、こう述べている。
「此法は単に剣法の極意のみならず、人間処生の万事一つも子の規定を失うべからず。此呼吸を得て以て軍陣に臨み、之を得て以て大政に参与し、之を得て以て外交に当り、之を得て以て教育宗教に施し、之を得て以て商工耕作に従事せば、往くとして善からざるはなし。是れ、余が所謂剣法の真理は万物太極の理を究むると云ふ所以なり。」
人の生きる道とは、まさしくこの通りであると考える。先達の言葉をもう一度見つめ直したい。
読み進めていくうちに、自分はなんと小さなことにとらわれているのだろうと思った。少しずつ歩むことも大切であるが、時には大きく歩みを広げなければならないことを再確認させられた。振り返って読んでいきたい本である。
(金子 大)
出版元:光文社
(掲載日:2012-10-13)
タグ:武道 剣術
カテゴリ 人生
CiNii Booksで検索:真剣
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神の領域を覗いたアスリート
西村 欣也
神の領域とは、どのような意味を持つのだろうか。目に見えるもの、見えないものさまざまにあると思うが、共通の認識は持てないのではないかと思う。
さまざまなアスリートにインタビューをしたものを載せているが、個人的な意見としてはもっとインタビューされる側の気持ちを汲み取るような質問が欲しいような気がする。たとえばこの一文。「あなたの非凡な才能を子孫に伝え、21世紀にさらに進化させたいと思いませんか?」という著者の質問に対し、聞かれたスピードスケートの清水宏保選手はこう答えている。「結婚はそういう目的でするものではないでしょう。僕の父は胃がんで56歳で亡くなった。僕自身、ぜんそくをずっと抱えています。身長は161cmしかない。いい遺伝子を持っているとはとても思えない。それでもここまでこられる。それを示したくてやってきた部分もあります。生物学的な進化に無縁でも、自分が生きている間に自分を進化させることができるのです」
清水選手の「自分が生きている間に自分を進化させることができる」という言葉を引き出せたことは、評価できる。しかしながら、清水選手の本当の気持ちはわからないが、私だったらこの質問をされたら、「なぜこんなことを聞くのだろう?」と考え込んでしまう。神の領域に届かない、理解することが不可能でも、近づこうとするならばもっと違うことを聞いてほしい。
しかし、丁寧な取材をしていることも読み取ることができる。橋本聖子選手がアルベールビルオリンピックで冬季五輪史上日本人女子初銅メダルを獲得したときに、痛めている膝を冷やす氷もなくリンクから整氷車が吐き出したザラザラな氷を集めて、膝に当てたという一文などはそういったところが読み取れる。
日々選手や患者と向き合い、当たり前になっている感覚や言葉を、他者に伝える際にはとても有益な本である。
(金子 大)
出版元:朝日新聞出版
(掲載日:2012-10-13)
タグ:インタビュー
カテゴリ スポーツライティング
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