体幹パフォーマンスアップメソッド
木場 克己
本の著者、木場克己氏は只今サッカー日本代表男女代表選手などをバックアップしていることやメディアなどでもよく目にすることもあり筆者の展開しているメソッドは私個人的にも以前から興味があることでした。本の題名から体幹という言葉で「体幹トレーニング」のことについて書かれているのだろうと想像するのはそんなに難しいことではないでしょう。そして「体幹トレーニング」について深く興味を持つ「アスリート」「指導者」「治療家」はとても多いと思います。
本書は「柔軟性」「体幹力」「バランス力」「アジリティ」の4つの要素の重要性を示しています。「柔軟性」「体幹力」「バランス力」「アジリティ」のコンセプトを各種トレーニング方法として4つの要素プラス「自分の身体を知ること」「クールダウン」のコンセプトを追加して6つの方法としてステップアップの方法・理論がわかりやすく説明されています。「体幹が弱いからパフォーマンスがうまく表現できていない」「体幹を鍛えればパフォーマンスがアップする」というようなことはいろいろな現場でよく聞きますが、そのフレーズが意図している結論に達することがなかなかないのが現実です。そんな難解なキーワードをわかりやすく明解に紐解いてくれる内容となっています。
体幹が表すものは非常に難しいです。簡単にイメージしやすいものがいわゆる腹筋運動が挙げられます。ただ体幹機能=腹筋運動すなわちお腹周りの筋力強化と捉えてしまうのは理解として必要十分とは言えないと思います。本書でも柔軟性(筋固定化→骨盤安定化→連動性)、バランス力(軸足→両足→全身)、アジリティ(軸のブレ→ステップワーク→連動性)というプログレッション方法が説明されていますが、腹部のみと捉えるような身体の一部分を指すということではなく全体として捉えているように受け取ることができます。さらにトレーニング=アスリートや若い世代のものという枠組みではなく、そのステージに合わせてアレンジされるべきですし、そして本の中ではアレンジの仕方についてもしっかりフォローされていますので、若い方から年配の方まであらゆるステージで体幹トレーニングを愛用するための入門書として最適な一冊ではないかと私は思います。
(鳥居 義史)
出版元:カンゼン
(掲載日:2013-04-10)
タグ:体幹
カテゴリ トレーニング
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信念を貫く
松井 秀喜
筆者である松井秀喜氏は、ベースボールのスター選手である。日本のいち野球選手のみだけで語られるのではなくグローバルな選手と思うのは私だけでないでしょう。だから野球というよりもベースボールという表現をさせてもらいました。私自身は40代に入ったばかりですが、自分自身の20代30代の年表の中に彼の活躍している姿を照らし合わせることができる数少ない選手のひとりであることも、その理由のひとつでもあります。
この本は筆者の新天地に立ち向かう心境が様々なエピソードを交えて書き綴られています。ワールドチャンピオンそしてワールドシリーズのMVPに選ばれるという、アスリートとして絶頂期を迎えたのと同時に、選手生活の新たな1ページをつくるための決断として新天地に移籍するという人生の中の大きなターニングポイントで書かれました。題名にもある「信念を貫く」ことによって、もたらされた思考の変化や出会いを自分にも置き換えながら、私はこの本にのめり込んでいきました。
「コントロールできることとコントロールできないことを分けて考える」というフレーズはとても印象に残っています。自身も間違いなくそうですが、人間はそれほど器用でなく欲深いと思っています。何でもコントロールできることとして考えてしまう。そこには信念を貫くことが良くも悪くも作用していると感じています。だからこそコントロールできるかどうかを分けて考えることはとても大切だと感じました。
また筆者自身、様々なタイミングで人や言葉の出会いに遭遇しています。
両親をはじめとする「家族」、高校時代の恩師である「山下智茂氏」、巨人時代の監督である「長島茂雄氏」、ヤンキース時代の監督である「ジョー・トーリ監督 ジラルディ監督」、チームメイトである「広岡勲氏・ロヘリオ・カーロン通訳」など。
結果を出す上での「肉を斬らせて骨を断つ」、ケガで不安な状況になったときの「前よりも強くなる」、高校時代の恩師からの「心が変われば行動が変わる/行動が変われば習慣が変わる/習慣が変われば人格が変わる/人格が変われば運命が変わる」、父からの「人間万事塞翁が馬」
言葉や出会いというものが筆者自身の成長に大きく繋がっていることはこの本からもの凄く伝わってきます。すなわち私自身はこの本との出会いが新たな信念を貫くことへの何かを吸収させてもらったわけであります。
この本を読み終えたとき、私はあるエピソードを思い出しました。自分の身近に「信念を貫く」ことに限りなく近い言葉を毎日のように身体を張って教えていただいた人がいました。しかし私は当時その意図とは違った受け取り方をしてしまいました。結果として関係を断ち、逃げるともいえる行為を選択してしました。
いわゆる「未熟さ」という言葉がピッタリかもしれません。最終的には時間が経過するとともに自分のその選択は全くの間違いであったことに気づいたのは言うまでもありません。そして今、そういった言葉を毎日言ってもらえる存在がいない立場に身を置く者として「信念を貫く」ことを全身に刻み込んでくれたのは、その恩師であることは間違いないということも再認識しました。
私はこのエピソードから「未熟さ」の後悔というよりも違ったことを強く感じています。それは進化した自分、少しでも「コントロールできなかったことがコントロールできるようになった」と感じられたことが大きな財産であるということです。もちろんそのときに気づくことのできる「人間性」や「読み取る能力」があればよかったのでしょうが、その当時の自分にはそこは「コントロールできなかった」領域だったのだと今は感じています。だからこそ、私自身はそのことは決して否定すべきことではないのかなと解釈しています。
そして、皆さんもこの本を読んで自分自身をちょっと振り返ってみませんか? 何かいい自分自身への気づきがもらえる一冊だと思います。
(鳥居 義史)
出版元:新潮社
(掲載日:2013-10-17)
タグ:野球
カテゴリ 人生
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勝負勘
岡部 幸雄
私は筆者の岡部幸雄元騎手とは競馬を通した接点(馬券)を持ってきました。私の知っている筆者はレースで1着になることをいとも簡単にやり遂げている姿を数々目にしてきましたが、そこへの出発点や大きな出会い、転機そして確固たる地位を掴むまでの過程や考え方を本書から知ることでき、自然と引き込まれていきました。
本書は、筆者が騎手人生38年間の勝負勘を磨き続ける場としての「レース」を通した取り組みについて書き綴られています。レースは短いときには1分程度、長くても3分を超えるぐらいという時間の中で、馬の能力を最大限に引き出すことを要求されます。すなわち直感が多くを占める「勝負勘」を繰り出して最終的な目標である「レースで1着になる」ことを常に考えているわけであります。それは緻密な作業、すなわち感覚の修得やレースへの準備作業などを介して、「馬」の力を引き出すことであります。
私は、筆者が述べた勝つための最善策の考えの中で「何もしないこと」というフレーズが印象に残りました。「何もしないこと」はコミュニケーション能力として一見したところ消極的な働きかけもしれませんが、思い当たることがあります。それは意のままにしようとあれこれと働きかけて、うまくいかないことは頻繁にあると感じます。意のままにしようとすることが間違っているわけではないですが、相手にとって意外と気持ちよく感じられない、もしくは自らの意思でないことが多いので響かない、頭に残らないというようなことが私自身よく経験したことでもあります。これはよく起こりうる「自分の腕で結果を変えたい」というエゴイズムなところかもしれません。仮に繰り返すことで獲得できるものだとするならば、あえて働きかけず相手の気持ちに耳を傾け、見守ることで繰り返させる行為につなげることも方法論としていいチョイスだと私は思います。
私は筆者の超一流の騎手としての毎日のトライ&エラーの修正作業の繰り返しに大きな気付きを得ました。なぜなら自分のような業界駆け出しの者と類似した作業を繰り返しているからであります。長期的、詳細まで深く突き詰めていることが、より強く伝わってきました。つまり自分の将来へのヒントなのではないかと感じています。
ひとつひとつの積み重ねは普通に感じられることも多いですが、「時間軸」や「こだわり」を組み合わせると、引き出されるものはとても大きなものに変化することを痛感しました。この時間軸やこだわりの保持の継続性こそが「勝負勘」を生み出し、この自然体の努力こそが一流に至る必須条件ではないかとふと感じさせてくれた気がします。
(鳥居 義史)
出版元:角川書店
(掲載日:2014-01-17)
タグ:競馬 騎手 勝負
カテゴリ 人生
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マラソンランナー
後藤 正治
マラソンといえば、勝手なイメージではあるが、オリンピックであります。私の記憶が存在するオリンピックはロサンゼルスオリンピックからなのですが、この本の中でも登場する瀬古利彦さんのイメージは非常に強いインパクトが残っています。みなさんのマラソンのイメージはどうでしょうか?
時代は戦前、戦後、経済成長、バブル崩壊、現在と移り変わっています。本書は8章にわたってその時代を浮き彫りにする8名のマラソンランナーを紹介されています。
金栗四三「日本のマラソンの父」
孫基禎「ハングリースポーツとしてのマラソン」
田中茂樹「アトムボーイ」
君原健二「ブレない偉大なマラソンランナー」
瀬古利彦「マラソン界の貴公子」
谷口浩美「コツコツ 記憶力を示すマラソンランナー」
有森裕子「生きている事への手段としてのマラソン」
高橋尚子「走る事が好き、頑張る事としてのマラソン」
本書はマラソン史というわけではありませんが、時代背景とマラソンを照らし合わせてみるととても興味深いところであります。つまり、体力養成、国の権威、戦争、アマチュアイズム、バイオリズム、我慢強さ、目標そして手段、練習などキーワードは様々でありますが、その時々の葛藤や信念や流行をも表しています。
この8名のうち瀬古利彦氏以降は実際に目の当たりにし、それ以前の方は自叙伝などで存じ上げていました。さらに本書と向き合って、私はマラソンについて単なるオリンピック種目という観点から脱することができました。
私はマラソンランナーが、泥臭く感じます。なぜなら、体力としてのタフさもさることながら、メンタルの強さが問われることや、培われる土壌があることをあたかも当たり前のことのようにやってのけるからであります。それがもう一歩のところを頑張れる理由ではないかと本書から感じました。このアスリートたちの泥臭くて地味だけど、ズッシリとした重みのある信念を垣間みてみませんか。
(鳥居 義史)
出版元:文藝春秋
(掲載日:2014-05-02)
タグ:マラソン
カテゴリ スポーツライティング
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指導者バカ
西村 卓二
この本の筆者西村卓二氏は、ご存知の方も多いとは思いますがアテネオリンピック卓球の女子ナショナルチーム監督をされていた方であります。卓球女子ナショナルチームの活躍は、先日のロンドンオリンピックの結果も見てとれるように輝かしいものであります。無論積み重ねが大きな飛躍につながったことは言うまでもありません。以前から関わってこられた筆者には、いろいろな苦労もあったと感じています。さらに筆者は女子指導の経験が多く、本格的に女子指導をし始めた私個人としても、共通する立場にある者として、難しい局面や悩みなども照らし合わせながら読むことができました。
本書はおおまかに「指導者哲学」「選手との関わりかた」「現場主義」「練習と試合とは」「叱る」「女性に教える」「ナショナルチームの経験」という7つの構成で展開され、「人を育てる」重要性を説いています。
筆者も指導者という立場から、まず指導者の必要なこととして、自分の立ち位置、育成しようとする心構え、つまり信念、哲学が必要と説いています。ごく当たり前のことかもしれませんが、本書にも「人間を作る」というフレーズがよくでてきますように、指導をする以前にふさわしい人間でなければならないということであります。私自身、指導者としての経験をそれなりに重ねた今、信念、哲学というものの必要性を痛感させられます。
加えて「女性を教える」という難しさの悩みは同感するものが多く、気づきをたくさん頂けました。そのひとつとして、物事の捉え方であります。男女に違いがあることを私自身も感じています。たとえばできないことを考える場合に「何ができない」「誰ができない」の違いが生じることは私の経験上も多かった事例であります。だからこそ叱り方ひとつも十分配慮しなければいけないことは実感もあり、ヒントも多く得られました。そのヒントとは「攻めの指導」と「待ちの指導」にあたります。言葉で気づかせたりするような攻めるということは比較的しやすい行為だと思います。しかし待つことは本当に難しいと思います。なぜなら物事に立ち向かわせる時間、つまり考える時間や体験させる時間を含めて待つことは指導者にとってハードルの高いことと思っています。待つという能力は、よき指導者として大きなウェイトを占めることは間違いないと確信しました。
そして競技者としての本当の強さとは、「技術」「鍛えられた心」を持ち合わせること。つまりその指導者は両者を与えられる人間かつ人間性を持ち得た人間でなければならないと考えます。それはいろいろな方向に「バカ」になれることであり、決してそのことしかできない「バカ」でない「指導者バカ」という存在にならなければと感じられた本であります。
(鳥居 義史)
出版元:日本経済新聞出版社
(掲載日:2013-10-28)
タグ:卓球 指導 育成
カテゴリ 指導
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I am here.
宮里 藍
ゴルフはメンタルスポーツと言われています。つまり、感情がスキルに大きく影響を与えることを表していると思います。この本を通して明確に、ゴルフがメンタル性の強いスポーツであると感じることができました。
本書は、誰でも起こり得るスランプになっていく過程や葛藤、思考状態を考えることから始まり、著者が重要視していること、アメリカ、日本で戦っていた頃、そしてここに至った道筋について5章にわたって書き綴られています。
著者が高校生の頃から活躍していることは、皆さんもよく知っていることであります。私は、彼女が優勝回数を重ねて、アメリカに戦いの場を移すことは必然的なことと思っていました。私は表に見えている順風満帆な面しか知りませんでした。誰しも見えないところで苦しんでいる姿があるのは当たり前ですが、彼女が弱みを強みに変えることを可能にしてしまう思考の持ち主であることに凄みを感じました。
著者は、アメリカで活躍できるプレイヤーになることを夢と語っていました。その夢を実現するために10年後の自分を見据えてプレイしようと考えています。つまり結果のみがすべてと考えず、過程をより大切にしようとしています。なぜなら自分自身がコントロールできないことに右往左往するよりも、コントロールできないことこそ地道にやって何かを掴みたいと考えています。そして、彼女はこのことを植物にたとえています。種をまく、水をやる、肥料をやる、花を咲かす。すぐに芽をだすかどうか、その答えはひとつではないこと。つまり、向かうところは一緒でも様々な経過があり、ただ花を咲かせるための努力は常に続けていこうということであります。確実に一歩ずつ噛み締めながら焦らず前を向いていくという、まさしくゴルフそのものを象徴する考え方ではないかと印象的でした。
過程もひとつの結果ではありますが、そのひとつの結果に取り乱されない。いわゆる、先をみて努力する重要性を感じ取れました。先を見据えて今を最大限に努力する、だからこそ先への期待として楽しみに変化する。私は、これが本書の題名、I am here.の意味することだろうと思います。そして、著者はそれをアメリカに求めているのだろうと感じました。今後彼女がどう歩んでいくかを観ていくことが、とても楽しみになりました。
私は本書を通して、自身の未来予想図を考え、自身の現在を見つめ直す素晴らしいきっかけをつくってもらえたと思いました。
(鳥居 義史)
出版元:角川SSコミュニケーションズ
(掲載日:2014-05-14)
タグ:ゴルフ メンタル
カテゴリ メンタル
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