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武藤教授の転ばぬ教室

副題は「寝たきりにならないために」。
「お年寄りは、転ぶと骨折、それっきり寝たきり」というストーリーが一般に広く流布している。
実際、そういう例も確かに見聞き、あるいは身近に経験する。
だが、著者は言う。
「老人の骨折が治らないのではなく、『治らない』という思いが、治らないような方法を選択しているのです」。
老入でも手術など、きちんと対応すれば、骨折は治る。
「手術はかわいそう」と、結局「治らない」方法をとり、それが寝たきりにつながっていく。

そのきっかけが転倒。
では、人が転ぶとはどういうことか、どういう人が転びやすいのか、転ばないためにはどうすればよいか、転んでも起きればいい、これがこの本の主旨である。

転倒予防教室を実践してきた著者らが、「暮しの手帖」の世界で、わかりやすく、それを語る。スポーツ医学は人をハッピーにするものである。
「人が転ぶ」という事実に目を向け、転ばない教室にまで育て上げた。
本誌の主旨でもあるが、社会に貢献できるスポーツ医学がここにもある。
だが、そうなると「スポーツ医学」という言い方もそろそろ変えたほうがよいのか、そういうものがスポーツ医学だと認知されるか、どちらか。
いずれにせよ、「転ぶ」「転ばぬ」とスポーツ医学は大いに関係がある。



武藤芳照著 A5判 192頁 2001年6月21日刊 1619円+税
暮しの手帖社

なぜ婦人科にかかりにくいの?

ほとんどの人は、お医者さんにかかった経験がある。
また、お医者さんの言うことがよくわからなかったり、わからないのに質問できなかったりという不本意なあるいは不安な、不満な思いをした人も多い。

この本は、言うまでもなく「婦人科」の話である。
著者のまつばらさんは、子宮・卵巣がんのサポートグルーフ「あいあい」の主宰者、わたなべさんは子宮筋腫・内膜症体験者の会「たんぽぽ」の元中心メンバー。

著者2人の対談、Q&A(回答は著者2人)、コラム、そして女性医師リストなどの資料、この4つの要素でうまく、面白く構成されている。

一言でいうと、生々しい、あるいはとても現実的である。
それはそうだ。こと自分のからだに関わることで、しかも「婦人科」で、あまりおおっぴらにはできないことを、はっきり言うのだから。
例えばQ「月経中に受診してもかまいませんか?」A「もちろん!でも抵抗があるなら相談を」とあり、さらに細かく解説がつく。
対談は女性同士、経験者同士で、細かいところまで話し込まれる。
男性には直接は役に立たないだろうが、医師とのつぎあい方としては多いに参考になる。お医者さんにも読んでほしいと思う本。



まつばらけいこ・わたなべゆうこ著 四六判 216頁 2001年7月22日刊 1400円+税
築地書館

ミトコンドリアと生きる

昔、生物で習った「ミトコンドリア」について知っている人は多い。
本書にも記されているが、若い人に対して行ったアンケートでもなんと80%は「知っている」と回答。
ところで、ミトコンドリアの色は?となると、多くの人が「緑」と答える。
理由は、ミトコンドリアに「ミ・ド・リ」の文字があるからだそうで、また話題になった映画『パラサイト・イブ』でもミトコンドリアは緑のイメージで統一されていたそうだ。
実際に生きている細胞のミトコンドリアは赤茶色で、これは鉄分を含んでいるから。

その映画『パラサイト・イブ』のもとになったホラー小説を書いたのが瀬名氏で、一方の太田氏は、日本医科大学教授で『ミトコンドリア病』などの著書もあるミトコンドリア研究者である。

ミトコンドリアはエネルギーの生産工場として知られているが、実はそれだけではない。
また、DNAというと細胞核内のものを考えるが、ミトコンドリア内にもあり、ミトコンドリアDNAと呼ばれる。
これらが生体に対して大変な仕事をしている事実がどんどん発見されている。
長距離ランナーのミトコンドリアDNAの塩基配列を調べると、ランナーに比較的多くみられるミトコンドリアDNA配列は、なんと鳥類のそれと同じだった(鳥類は活性酸素がつくられにくく酸素消費量が多いわりに寿命が長い)というような話もあり、生命科学の面白さを満喫することができる。



瀬名秀明、太田成男著 B6判 221頁 2000年12月1日刊 571円+税
角川ONEテーマ21、角川書店

身体感覚を取り戻す 腰・ハラ文化の再生

1960年代、アメリカのカウンターカルチャーは日本にも大きな影響を与えた。
「大人がつくった社会の抑圧や管理から自分の肉体を解放していくというのが、カウンターカルチャーの軸であった。文字通りそれは、すでにある権威に対してカウンター(対抗)としての性格をもつものであった」(序章より)。
この世代が親の世代になって、「親が親らしくなくなった」。
その結果、生きていくうえでの基本をしっかりと躾けるという親の役割が軽視され、身体文化も伝統の継承が行われなくなったと言う。
その日本の伝統的な身体文化が「腰肚文化」なのだと言う。
著者は「身体感覚の技化」という表現もとっている。
歩く、立つ、坐る、そして息の文化。自ら、身体を用いて、様々な技法を経験したうえで語っていく。
明治や昭和の人々の写真も巧みに引用しつつ、21世紀の身体をみる。
現在の日本人のからだには「中心(芯)感覚が喪失」しているという言葉は、身体のみならず社会全般にも言える。

からだから考える。その意味がよくわかる本。おすすめ。



斎藤孝著 B6判 248頁 2000年8月20日刊 970円+税
NHKブックス

腰痛 痛みや不快感を解消する、腰痛体操と日常のケア

横浜市スポーツ医科学センターの整形外科医と理学療法士による書。
ぎっくり腰や慢性腰痛を中心に、痛みが起きたときの対処、日常生活でのケア、予防などが2色刷りで示されている。

高度な内容を一般向けにわかりやすく表現しようとしている。
1章は腰痛の仕組みと原因
2章は診断と治療
3章は症状からみた腰痛のタイプと特徴
4章は家庭ででぎる腰痛対策(急性腰痛)
5章はその慢性腰痛編
6章は運動療法でストレッチ、筋力強化運動(マシーンも)、有酸素運動をイラストで解説。

 腰痛に関する正しい基礎知識と運動による対応を知るうえで役立つ。



三木英之、蒲田和芳著 A5判 200頁 2000年12月20日刊 1200円+税
高橋書店

コンディショニングとパフォーマンス向上のスポーツ栄養学

スポーツ栄養学に関心を持っている人は多いが、難しい本や一般向けはあっても、これからしっかり勉強しようという人向けのテキストは意外に少ない。
栄養学の一分野としてではなく、「コンディショニングとパフォーマンス向上の」ためにスポーツ栄養学を知りたいという人にはおすすめの本である。

ところどころにコラムがあり、これが現場で生じる疑問に答えるようにできている。(例えば、Q5:筋肉づくりをするためには肉をたくさん食べなければならないか?)

サプリメント・栄養補助食品のとり方、外食・コンビニ食と栄養バランス、スポーツ選手の栄養教育・食事指導という身近な内容の章も含まれ、勉強のためのテキストではなく、十分実践を意識していることが読み取れる。



樋口満編著 B5判 152頁 2001年5月1日刊 2500円+税
市村出版

からだを動かすしくみ

副題は「運動生理学の基礎からトレーニングまで」。
大学、短大、専門学校で運動生理学やスポーツ生理学の講義経験から「用語が理解できない」「今どこの部分を勉強しているのかわからない」「今の内容はどこに関連しているのかわからない」という声に応えようとしてまとめられた1冊。
従って、新しい内容というより、基礎をできるだけ簡潔にまた必要なことはもらさないようにという配慮がなされている。

「3頁読めば眠れる」というこの分野の本は、読む側の問題もあるが、書く側の問題もある。
それでなくても本は読まれない時代。
これから各方面で「読ませる」努力が必要になっていくだろう。



中本 哲、井澤鉄也、若山章信著 B5判 138頁 2001年1月22日刊 2500円+税
杏林書院

ヒトゲノム

副題は「解読から応用・人間理解へ」。
ヒトゲノムについては、2000年6月26日、日米英仏独中の6カ国からなる国際ヒトゲノム計画プロジェクトチームとアメリカのバイオベンチャー企業セレラ・ジェノミクス社が、それぞれヒトゲノムの全貌を明らかにしたことを宣言した。
だが、これで何もかも終わりではない。
DNAの配列(シークエンス)がほぼわかっただけで、これからの課題のほうが大きい。
だから「ポストゲノム」ではなく「ポストシークエンス」と言うべきなのだと著者は言う。

ITの次はバイオだと言われ、大型書店では「生命科学」あるいは「遺伝子」というコーナーが設けられている。
しかし、その割にはまだ一般的にはあまり理解されていない。
もちろん、その内容が複雑であり、やさしく書かれた本でも実はある程度知識がないと理解できないという事情もあるが、この本はその中でも比較的わかりやすい。
副題の通り、ヒトゲノムの解明が何につながるのかが、これまでの歴史(その中での日本人研究者の業績も含め)とともに語られる。

著者は、東京大学医科学研究所教授、理化学研究所ゲノム科学総合研究センタープロジェクトディレクター。
生物学と情報科学の両方の知識のある人、あるいは両者の共同作業が必要だがその人材が不足しているという指摘もある。
とても身近な問題として、生命科学あるいはヒトゲノムを捉えておくのは、何もスポーツ医学関係者に限ったことではなく、生命である「私」なら当然と思うのだが・・・。



榊佳之著 新書判 198頁 2001年5月1日刊 700円+税
岩波書店

女は女が強くする

シドニーオリンビックで多くの人に「鳥肌が立った」と言わせたシンクロの井村さん、ソフトボールの宇津木さん、シドニーでは団体5位に終わった新体操の五明さん。
この3人の女性指導者にMSM連載中の山田ゆかりさんが取材、聞き書きというスタイルでまとめられたもの。

まず、このタイトルに「う~ん」とうなる人も少なくないだろう。
「そうだな」と思う人もいるだろう。
でも、女が女として女を主張するという感じの内容ではない。
むしろ逆か。
井村さんも「けれども、これからのスポーツ界は、女だから男だからということにとらわれてはいけないのではないでしょうか。両性の協力によって世界に立ち向かっていかなければならない時代に来ていると思います」と「まえがき」に記している。
だが、女の指導者なんてという言われ方はまだある。
もう男と女にこだわるのではなく、でも男と女とは何なのかと考えたい。
誤解のないように言うと、この本は女性指導者の姿をたんねんに話を聞きながら、やはり女性のライターがまとめたものである。
スポーツ界の人にとっては「コーチングとは何か」というテーマでも読める。
今の若い人への接し方の参考にもなるだろう。ビジネスでも活かされだろう。
でも、ここはストレートに、指導者が選手に、どう考えどう接しているか、その姿そのものを知ることに意味があるとっておきたい。
3人の指導者みな魅力的である。強く、しかも誰もがやはり悩んでいる。
スポーツをすること、そのスポーツを指導すること、それをもう一度考えることができる本。



井村雅代、宇津木妙子、五明みさ子著 四六判 208頁 2001年7月12日刊 1400円+税
草思社

1人前100円なんで美味いの?

スポーツ栄養学の本ではない。 よく知られた魚柄氏の本の文庫化されたもので、「安い、うまい、簡単(手抜き)」メニューがイラストと独特の文章で紹介されている。

どれも、「うまそう~」と思うし、「今度やってみよう」と思う。
もちろん、栄養も考えている。
おまけにだいたい1人前100円だから、散財には至らない。
著者は農学部中退で、栄養学も自分で勉強した。
実家は日本料理屋。
古道異屋さんで、元自転車屋さんで、元経営コンサルタントで、剣道や居合をやり、ギターを弾ぎ、手旗信号の名人でマラソンと駅伝と落語が好きで、酒飲みなどなど。
いろいろなことができる人である。
この入の古道具屋にいろいろな人が訪れ、その人に食べるものをつくってやる。
そういうストーリーが多い。
例えば、カルシウムが足りない女性にこういうものをつくる。

 「タダ同然の大根葉を小さなみじん切りにしておいて中華鍋に入れるですよ、その上にザク切りキャベツをバサッ。お玉1杯の水か酒かワインをかけ回し、ふたをして中火にかける。5分そこそこでふたをとり、フライ返しでかき混ぜる。さて、そこで決め手のコウナゴやちりめんじゃこ、こいつをドバッと入れる。小さな桜エビや姫エビなんぞもカルシウムがぎょうさん入っとりますけん、あったら入れちゃり。あとは強火でひたすらかき混ぜ、水気が抜けてきたら塩コショウやしょうゆ、ソース等でお好きな味に仕上げてくださいまし。仕上げにゴマ油をちょっこと入れたり、すりゴマを振りかけるとますますうもうなりますわい。アツアツのヒジキ飯とこのカルシウム妙めをバホバホ食べとりゃ元気にもなりますわい」(「ダイエット失敗女」より)

これなら誰でもできる。
もっと豪華なメニューもある。
自分で材料を買ってきて、目分でつくれば安くてうまい。
ちょっと皮肉にも各メニューには料理店で食べたらいくらという価格もついている。
からだに気をつけるのがスポーツ選手なら、自分が食べるものくらい自分でつくってもよいだろう。
全部、レシピはイラストにもなっている。これを読むと、多分、少し人生が変わる(かも)。



魚柄仁之助著 文庫判 270頁 2001年5月15日刊 514円+税
徳問書店

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