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手軽な運動で腰・ひざ・肩の痛みをとる

横浜市スポーツ医科学センターの医師、理学療法士、運動指導員による本。

冒頭で「本書の特徴」として「運動療法で健康的な生活を」の一文を掲げ、「腰やひざの痛みや肩こりで悩んでいらっしゃる方々に、この本に書かれている運動をぜひ行っていただき、より健康な生活を送っていただぎたいものです」と記す。

つまり、この本は腰・膝・肩に関する「運動療法」が主体であり、そのためイラストが豊富に使用されている。運動を示す本ではあるが、その医学的根拠や注意点など、運動療法を指導するうえでも参考になる。

なぜ、その運動がよいのか、なぜ注意が必要な運動動作があるのかについても説いていく書で、スポーツ整形外科的知識も得ることができる。

生活習慣病予防のための運動も、こうした整形外科的疾患の予防のための運動も、運動であることに変わりはなく、今後は両者の知識が総合的に含まれた運動、あるいは運動療法へと発展していくのではないだろうか。



黒田善雄監修 三木英之、蒲田和芳、小倉孝一著 A5判 200頁 2001年12月1日刊 1300円+税
講談社

頂上対談

13人のゲストとの対談集。うち5人がスポーツ。長嶋茂雄、中田英寿、長谷川滋利、桜庭和志、古田敦也である。

ビートたけしは、映画監督・北野武でもあるが、草野球チームを持ち、最盛期は年間150 試合以上をこなしたという。本人はピッチャーで120km は出るというから大したものではある。

気軽に読めるが、相手がビートたけしなので、対談相手の意外な面を知ることができる。サッカーの中田選手とは野球の試合をやったあとの対談。


たけし:
三角形の駐車禁止みたいなカラーコーンがあるよね。
その間をパスしながら、「あんた走って行きなさい」っていう練習よりも、四人で球取り合いしたほうがいいと思うんだけれどな。
あのコーンは何だ、あの間を抜けるようなゲームがどこにあるんだ(笑)。
縦に選手が並んでいるわけがねえだろうって。

中田:
練習をおもしろくするということを、ほんと知らないですよね。
おもしろくやることがどんなに効率いいかってことを全然わかっていない。
言われたことを一生懸命やって、いい結果が出るとは限らない。
(P.119 より)


軽く読めて、結構面白くためになる。
長谷川選手のメジャー話、古田選手のキャッチャー話、桜庭選手のトレーニング話、長嶋元監督はもう言うまでもない。

対話もスポーツだとわかる本である。
スポーツ医学に関わる人にもおすすめと思い、紹介。



ビートたけしほか著 四六判 286頁 2001年10月20日刊 1300円+税
新潮社

情報文明の日本モデル

直接スポーツ医学とは関係がないが、本誌で片寄氏が連載しているテーマと重なること、また誰もがITを避けて通れない時代であるため、この本を選んだ。
副題は、「TRONが拓く次世代IT戦略」。
TRON(The Real-time Operating system Nucleus)を考案した著者の最新刊の書である。

TRONはすでに携帯電話などで広く実用化されているオープンシステムであるが、ここでは、それについてより、別の観点で興味深いところを紹介しておきたい。

著者は冒頭、「アメリカ・モデルを追いかけても意味がない」と言い、IT革命で世界をリードしたアメリカを見習う論調に首をかしげる。
2000年1年間でアメリカのドットコム企業は220 社以上が廃業、2001年は8月までで410 社以上が破綻。
ウェブでの無料サービスも、無料ニュースサイト、無料プロバイダもすべて失敗。
このモデルを追求しても、だめだ。
日本のモデルを創造することが必要だと言う。
そこで、著者は遺伝子研究から、脳内物質のセロトニン受容体が少ない人は保守的で、新しいものに挑戦したがらないという傾向が強いという結果を掲げ、そのセロトニン受容体が少ない遺伝子を持つ人はアメリカでは全体の約50%、日本では90%以上にのぼるという事実(どう確かめたかは不明)を挙げる。
だが、日本はチームでやれば、独創的なこともやってのける。
そのよさを活かそうと言うのだ。

また、多くの人がよく指摘する日本人の戦略のなさ。
これについて、「それ以上に問題なのは、戦略の前提として『何のために勝つのか』という哲学もないことである」と喝破する。

スポーツでは「勝つために」がすべてのことが多い。
「何のために勝つのか」と問う人はいない。
勝つことを目標とするのが、スポーツだからだと。
だから、負ければ終わりだが、勝っても終わりである。
それもよさだが、一度は「何のために勝つのか」と考えてもよいかもしれない。
意外にこの本、情報だけを扱ってはいない。
いや、そもそも「情報文明」とはそういうものだということだろう。



坂村健著 新書判 226頁 2001年10月29日刊 600円+税
PHP 研究所

声に出して読みたい日本語

この著者の本『身体感覚を取り戻す』はすでに紹介した。

その本では「腰肚(こしはら)文化」と「息の文化」いう言葉が日本の文化の柱として使用されている。「かつては、腰を据えて肚を決めた力強さが、日本の生活や文化の隅々まで行き渡っていた。腰や肚を中心として、自分の存在感をたしかに感じる身体文化が存在していた。この腰肚文化は、息の文化と深く結びついている。深く息を吸い、朗々と声を出す息の文化が身体の中心に息の道をつくる。……身体全体に息を通し、美しい響きを持った日本語を身体全体で味わうことは、ひとつの重要な身体文化の柱であった」(P.202 より)

本書では、日本の古典、漢詩はもとより、口上、浪曲、いろはかるたなど、様々なジャンルから引用、暗唱、朗誦を勧める。

今、漢詩や芝居の文句を日常の会話にはさむ人は少なくなった。
「言ってもわからない」から。
平均的素養はかなり低くなったとも言えるし、コンピューターやTVゲーム、ケイタイなどデジタルなものが、その代わりになっているとも言える。

だが、やはり文芸廃れて国滅ぶ、と言いたくなる。なにより、生活での会話がつまらなくなる。

先日みたテレビで渡辺貞夫さんが小学生にタイコを教えていたが、まず大きな声を出させた。
でも出ない。
「もっと大きく」「もっと大きく」と繰り返した。
なかなか大声を出せない子ども。やがて大声が出せるようになる。
それは必ず、身体と動作のありようと関係しているだろう。

「少年老い易く学成り難し 一寸の光陰軽んずべからず」と、朗誦し、やや老いた身体を伸ばしてみた。
確かに、声は身体の一部であると納得する。



齋藤孝著 四六判 214頁 2001年9月18日刊 1200円+税
草思社

高齢者の転倒とその対策

やや刊行年度が古いが、前号で若干引用しただけなので、改めて紹介しておきたい。

著者は北海道大学医学部リハビリテーション医学講座の教授で、従ってリハビリテーションの立場から転倒についてまとめられている。
高齢者の転倒と特徴、高齢者の転倒と骨折、高齢者の転倒への対策、障害(疾患)別にみる転倒とその対策の4章に、「高齢者の転倒とその対策」に関する基礎研究という付章が加えられている。

編者は、転倒の要因として、1)高齢に伴う立位能、歩行能の低下、2)各種疾患に伴う立位能、歩行能の低下、 3)廃用性症候群を引き起こす状態におかれた場合、4)転倒しやすい環境による影響などを挙げている。
前号を読まれた方にはおわかりだろうが、これら要因およびその表現に編者の立場や視点がよく表れている。
編者を含め33人による執筆で、整形外科、内科、リハビリテーション医学、神経内科、看護学、理学療法学など各方面からの記述で構成されている。

高齢者の転倒について知るのに欠かせない1冊である。



眞野行生編 B5判 274頁 1999年12月15日刊 5600円+税
医歯薬出版

生活習慣病を防ぐ七つの秘訣

生活習慣病の予防・改善は簡単である。生活習慣を改めればよい。では、なぜ問題になるか。生活習慣を改めるのはとても困難だから。

たいていの人は、何がからだに悪いかだいたいわかっている。
食べすぎ、運動不足、喫煙、度の過ぎた飲酒、睡眠不足などなど。
生活習慣病は自覚症状がないまま進行するので、気がついたときは「大変!」な状態で、肥満、高血圧、高脂血症、糖尿病という「死の四重奏」が代表例である。
だが、多くの人は「よい習慣」も実は知っている。
その逆だからである。

この本は、その「わかっちゃいるけどやめられない」状態からどう抜け出すかを、脅すでもなく、諭すでもなく、多くの症例と、著者の病院でとったアンケートの結果を示しつつ、「あ、みんなそうなのか、そうすればいいのか」とすんなりわからせてくれる。
そこがすごい。

本書によれば、1975年から25年を経た現在、牛肉の輸入量は10倍、豚肉が4倍強、鶏肉は20倍になっている。
また、高血圧患者3000万人、うち治療を受けているのは750 万人(25%)、同様に糖尿病は1400万人に対して218 万人(約15%)、高脂血症患者2700万人に対して500 万人(約20%)とのこと。

もちろん運動についての章もあるが、この本1冊を読むと相当勉強になる。700 円では安い買物です。



田上幹樹著 新書判 222頁 2001年9月20日刊 700 円+税
築摩書房

遺伝子  vs  ミーム

副題は、「教育・環境・民族対立」。
著者は理学博士で、もともとの専門は進化生物学だが、科学史や科学論の領域に焦点を移し、生物学の理論受容史や科学技術と社会のあるべき関係を探索中とのこと。

「ミーム(meme)とは、文化的情報の伝達単位である。生命情報の単位が遺伝子であることからのアナロジーとして連想されたもので、言い換えると、文化システムを生命システムからのアナロジーで記述するための基本的な概念である」(P.13)

この概念は「利己的遺伝子」で知られるR・ドーキンスが考えたもので、批判もある。
だが、ここでは著者のこの言葉を引用しておきたい。

「ぼくはミームという概念の有効性は、定量的な記述や予測などではなく、比喩やアナロジーにもとづく問題発見能力にあると思う」(P.214)
物を考える視点(あるいは技術)はいくつも持っているほうがよい。
学問もスポーツもミームに満ち溢れている。
簡単に読めるようで、考えるところが多く残される本である。



佐倉 統著 新書判 230頁 2001年9月1日刊 1000円+税
廣済堂出版

ボディ・ランゲージ 現代スポーツ文化論

ボディランゲージというと、仕種による表現と受け止める人も多いだろうから、副題も同時に掲げた。この副題のほうが内容に則している。
英語の副題は"The Meaning of Modern Sport"である。
ボディランゲージとは、ここでは「スポーツは身体によって語られる優れた言語である」という意味である。

多くの身体論やスポーツ論があるが、この1冊は格別読みごたえがある。
ドーピング問題1つにしても、すでに他人フェアプレーやスポーツマンシップという概念だけでは論じきれない。
生化学始め、遺伝子およびその操作、再生医療などの問題と絡んでくるのみならず、脳のほかは機械でもよいと宣言する科学者も出てきている現在、ことはスポーツに限定して語れない。

著者は、英国キングアルフレッズ大学のカルチュラルスタディーズ学部の教授である。
体育・スポーツやスポーツ社会学という分野ではなく、カルチュラルスタディーズという学部からこの問題が提出されたことは、いわば当然であり、われわれはこれまでとは違うスポーツの見方に出会うことになる。
これまでとは異なるが、居心地の悪い視点ではなく、むしろすんなり受け入れることができる。

スポーツ新聞やスポーツ雑誌、あるいはテレビのスポーツ番組の報道や論調に腑に落ちないものを感じている人にはぜひ読んでいただきたい。



アンドリュー・ブレイク著 橋本純一訳 B6判 352頁 2001年3月30日刊 2800円+税
日本エディターズスクール出版部

江戸人の老い

また寿命が延びたそうだ。 100歳を超える人は日本に13,000人以上いるとも言われる。
1947~51年の「団塊の世代」もすべて50歳代になった。
一方で、老人医療費は、国民医療費の約1/3(約10兆円)を占め、しかも年々増加している点が間題にされている。

では江戸時代はどうだったのか。
この本、タイトルそのもので、江戸時代の「老人」を描写する。

70歳で約7万字の愚痴に満ちた遺言をしたためた老人(実は、極めて著名人)、一際体格に優れ、圧倒的な筋力もあった徳川吉宗の「中風」後のリハビリテーションの模様、そして老後も「不良隠居」などと言い存分に楽しんだ人たち。
文献から浮かび上がってくるこれら「老人」の姿は実に興味深い。
いかなる人も老いていく。
そして、確実に死ぬ日を迎える。
それは誰もが知っていることである。
では、実際に老いていく自らをどう処していくか。
あるいは「平成人の老い」と「江戸人の老い」は何が違うのか。
この本を読みつつ、つらつら考えるのもよいだろう。



氏家幹人著 新書判 212頁 2001年3月1日刊 660円+税
PHP研究所

還暦ルーキー

副題に「60歳でプロゴルファー」とある。
主人公、古市忠夫は兵庫の県立高校では野球部で活躍。
しかし、肩を傷めて辞めた。
もう一度と立命館大学ではボート部。
京大に勝ち、早稲田に勝った。
のち30歳でゴルフを始めた。
お金持ちではなく、むしろ貧乏。
小さなカメラ店のおやじであった。
そしてあの阪神淡路大地震にあう。
消防団員でもあった古市氏は必死で、かつ冷静に救命活動を行った。
このくだりは正直読むのがつらい。
「ここは地獄や」という言葉だけ紹介しておくが、やはり永遠に記憶に留めるべき事実と改めて思う。

家もなく、何もなくなったが、車だけは残った。
そのトランクになんとゴルフクラブがあった。
古市は、これで家族を養うことを決意する。
60歳のプロ挑戦。
その最終日、もうだめだと思う大ピンチに出会う。
1回のミスは失格を意味する。
結局そこから奇跡のリカバリー、そのあと「これは入る」という奇妙な感覚が続く。
そして合格。

こう書くと簡単だが、読めば必ず勇気づけられる。
気持ちがシャンとする。
保証します。



平山讓著 四六判 216頁 2001年4月15日刊 1500円+税
講談社

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