トップ > フォーラム > ブックレビュー > バックナンバー

愛づるの話。

『季刊 生命誌』をカードとWebで発行し、最後にまとめる。これはその2冊目。編集の中村さんは、大阪府高槻市にあるJT生命誌研究館(10年前に創設)の館長である。東京大学理学部化学科の出身で、生命科学が専門だが、生き物の歴史とでもいうかBiohistory(生命誌)という概念を打ち出し、言論活動も盛んに行っておられる。
 さて、この号のテーマは2つ。「愛づる」と「時」である。前者は中村さんとの対談が4つ。哲学者の今道友信氏との「讃美と涙が創造の源泉」、生物学者で前JT生命誌研究館館長の岡田節人氏との「生物学のロマンとこころ」、美学・美術史が専門で京都大学大学院教授、同大学附属図書館館長の佐々木丞平氏との「生を写す視点」、生命基礎論(複雑系)の金子邦彦氏との「生命──多様化するという普遍性」である。
「時」のほうは、「時を刻むバクテリア」(岩崎秀雄)を始め9つの論文で構成されている。最後にScientist Libraryというタイトルで、本庶佑氏ほか4人の科学者の生い立ちや研究内容が興味深く紹介されている。
 柔らかい知性というべきか、「蟲愛づる姫君」から「愛づる」をキーワードに選んだ中村さんの感性に気分よくひたれる。いつまでも読んでいたくなる。(S)



中村桂子編集、B5判 178頁 1600円
JT生命誌研究館発行、新曜社発売

免疫革命

著者は新潟大学医学部教授で1980年に「ヒトNK細胞抗原CD57に対するモノクローナル抗体」を作製、89年、それまで胸腺でのみつくられるとされていたT細胞が、肝臓や腸管上皮でもつくられていることを突き止め、胸腺外分化T細胞を発見。96年、白血球の自律神経支配のメカニズムを解明、00年には100年来の通説である胃潰瘍=胃酸説を覆す顆粒体説を発表という世界的免疫学者である。これは「著者紹介」に記されているところだが、この全体をわかりやすく説明したのが本書でもある。
「免疫療法が注目を浴びる一方で、現代医学は病気の治療に芳しい効果を上げているように思えないのが現状です。遺伝子だ、ゲノムだ、タンパク分子解析だ、と人間の身体のとてつもなく微細なしくみを解明する分野で、現代医学はたしかにめざましい成果をあげてきました。しかし、それらが直接的に、治癒をもたらす医療に反映されたという例が、ほとんど見あたらないのです。現代医学は病気を治せない、と非難されてもしかたがない状況にあると思います」と序文で述べる著者は、病気の本当の原因はストレスだとし、自律神経は、交感神経と副交感神経のバランスで成り立っている。しかし、精神的・肉体的ストレスがかかると、そのバランスが交感神経優位に大きくぶれ、それが白血球のバランスをくずして、体内の免疫力を低下させると説明する。終章「健康も病気も、すべては生き方にかかっている」を読むと、病気にならず、健康に生きるにはどうすればよいかを教えられる。(S)



安保徹著 四六判 286頁 1680円
講談社インターナショナル

呼吸入門

息を1つの身体文化と捉え、様々な活動を呼吸の面から考察しているのが本書である。20年にわたり呼吸の研究をしてきた齋藤氏の集大成ともいえる一冊。
齋藤氏が奨励するのは、自ら考案した「齋藤メソッド」という呼吸法である。3秒吸って、2秒止めて、15秒で吐くというもので、誰もが安全にかつ効果的に行える方法と説明する。時に「気」という言葉を用いて神秘的に捉えられ、カルト的な宗教団体に悪用されることもあるが、本書では「気というのは、あくまで呼吸の結果として生じるもの」と定義、意図的に語ることを避けている。呼吸を知ることは、気分のコントロールや集中力の持続、リラックスする方法を得る一方で、危険が伴う誤った認識を回避することにもなる。
呼吸を知り、呼吸を活かす。本書を通して、無意識に行われている呼吸を意識的に考えてみるのはいかがだろうか。(H)



齋藤孝著 B6判 205頁 1260円
角川書店

登山の体をつくる

今年3月まで高知大学教育学部で教授を務め、体育学・スポーツ科学を担当していた大森氏が書き下ろした山登りのための本。副題は“「歩きの達人」になるトレーニング講座”。
 中高齢者の体力問題に焦点を当て、無理なくできるトレーニングをイラストつきで多数掲載、登山経験の有無を問わず体力向上のために知っておきたい内容である。また、クライミング経験を持ち、現在スキー登山を中心に活動している著者は、冬山に備えた耐寒能力の向上策やフリークライミング・山スキーの体力特性、登山に適した食べ物なども解説している。
 著者は“「時は金なり」という格言があるが、「体力は金なり」もまた正しい”と語っている(あとがきより抜粋)。体力の向上はケガの予防につながるうえ、予定通りに登山ができればその後の時間を有効利用できる。それは日常生活でも変わらない。時間とお金を体力で節約する。そんな発想があってもよいのかもしれない。(H)



大森義彦著、A5判 191頁 1680円
東京新聞出版局

いつも元気! インストラクター物語

元OLの主人公がひょんなことからフィットネスクラブに通い、エアロビクスインストラクターを目指す。その苦労と喜びと驚きをリアルに綴った小説&マンガ。4コママンガ63本掲載。



鎌田安奈、斎藤恵著 A5型 120頁 1050円
ハートフィールド・アソシエイツ

スポーツ解体新書

スポーツを“解体”する
私は“解体新書”というとまず日本最初の西洋解剖学書の訳本を思わずにはいられない。

“解体”には物事をバラバラにするとの意味もあるが、この場合は“解剖”を意味する。
従ってこの「解体新書」というタイトルは、素直に読めば「新しい解剖書」という真にシンプルなタイトルになるところだ。
しかし“新書”という言葉に込められた意味を私なりにこだわれば、この言葉には新しい分野や秩序を築こう とするときの緊張感がこめられていると思う。
誰も到達したことのない領域に達し、それを世に現すことを許された者だけが使える“新書”という言葉。
この言葉がタイトルに踊る本を読み開くとき、私は期待感にワクワクし、緊張感で胸をドキドキさせながら頁をめくる。

さて、今回ご紹介するのは“スポーツ”の解体新書である。
本書は、今まで既成事実として君臨(?)してきたスポーツに対する概念規定をことごとく“解体”して新しい概念を構築しようとする意欲作である。
私の“新書”への期待感も裏切らない。
筆者の新たなスポーツ秩序の道すじをつけようとする情熱が、熱波となって頁をめくるごとに襲ってくる。

「体育」と「読売巨人軍」
筆者はこの2つが日本のスポーツを、本来のスポーツの意味から遠ざけたと言っている。
明治において欧米文化を取り入れることに躍起だった日本にスポーツが輸入されたとき、残念ながら日本には 受け皿となるスポーツの社会基盤(インフラストラクチヤー)がなく、結局大学が主な受け皿となる。
しかし、世間の学生に対する目は厳しく、学生の本分は学問(精神活動)であるとして身体活動であるスポーツを“遊び”として認めずしょうがなくスポーツを「精神修養の道具」として世間へ認知を図るのである。
その後「“下級学校”に配られた結果日本では、スポーツが体育へと変貌しスポーツと体育が同種のものとして考えられるようになった」と言うのである。
それ以降スポーツは学校体育の専売特許となり、学校教育だけのものとなる。
その結果、スポーツ本来の年齢に関係なく誰もが楽しめ、どこででも行えるというスポーツ観は、日本で育つことがなくなってしまったわけである。

読売巨人軍は、もちろんプロ野球のジャイアンツのことである。
数々のスーパースターを生み出し、日本のスポーツ界の頂点に立つこのチームも、筆者に言わせれば日本のスポーツをダメにしているという。
一民間企業が、その企業の宣伝効果のみを優先させて運営しているところに、形こそ違うがメジャーリーグやヨーロッパのクラブチームの運営形態と決定的に違うことを指摘する。
さらに、特定のメディアが特定のチームと結びついていることに、筆者は大きな疑問を寄せている。

筆者は、最後に次のような言葉で本書を締めくくっている。
「日本のスポーツ界が(とりわけ、日本人に絶大な人気のある野球界が)過去のしがらみを断ち切つて変革に手をつけ、たとえ小さな一歩でも未来にむけて新たな出発を始めるとき(中略)日本の社会が、真の豊かさの 獲得に向かって歩み始めるとき、といえるのではないでしょうか」
そういえば、どこかのワンマンオーナーがようやく引退というような記事が最近あったように思うが、これで少しでも日本のスポーツ界が変わるといいですね、玉木さん。

(久米秀作・帝京平成大学情報学部福祉情報学科助教授)



玉木正之著、B6判 246頁、1500円+税
日本放送出版協会

日野原重明の自分で測る血圧Q&A

今月の特集にちなんで選択した。
日野原重明氏が理事長を務める(財)ライフ・プランニング・センターでは、1980年から血圧測定について自分で自分の血圧を測る技術を指導し、血圧と身体の関係に関する教育を行い、自己血圧測定の普及を図ってきた。
正しい血圧測定方法を身につけた人には「血圧測定師範」の資格を与えて、同センターの活動にボランティアとして参加している。
1987年に手引書『名医が答える血圧何でもQ&A』を発行。
その改訂版と言える書である。

100問の質問に答える形で、血圧とは何か、ということからわかりやすくまとめられている。
正しい測り方の解説では、水銀式、アネロイド式(空気圧と圧力計で測定するもの)、電子血圧計のそれぞれの特徴と、実際の測定方法や注意が網羅されている。
さらに、日常生活で注意すべき点や、食事・トイレ・入浴・飲酒・喫煙と血圧の関係など、ちょっとした疑問に丁寧に答えている。
薬物療法は一生続けないといけないのか、という不安にも答えており、血圧に関する全般的な疑問が解決される。
極めて実践的な書である。

血圧は、全身の健康状態を、食生活や生活習慣も含めて反映していると考えられる。
また、現在は自動血圧計の発達で手軽に家庭で測定ができるので、高血圧の人は自分で生活をコントロールしやすいし、健康な人もバロメーターとしてチェックすることができる。
日野氏が言っているように、体重計、体温計、血圧計があれば家庭でかなりの自己管理ができるだろう。
(月刊スポーツメディスン編集人・清家輝文)



日野原重明監修、四六判 233頁、2003年1月10日刊、1200円+税
中央法規出版

からだことば

高齢者の健康づくりに携わる人向けの、指導を行ううえで知っておきたい基礎知識と体操の実技をまとめたもの。
基礎知識編では、高齢者の性格の変化や、痴呆高齢者への対処、介護保険制度について分かりやすく書かれている。
コミュニケーションの取り方のコツや心構えがきめ細かく記述され、著者らの高齢者に寄り添う様子がうかがえる。

実技編では、用具の呼び方が非常に面白いのだが、「お団子ボール」(ハンドエクササイザー)や「なると棒」(フレックスバー)を利用した低負荷で楽しめる範囲のエクササイズを紹介している。
他にも、顔や手、足指の体操、さらに月刊スポーツメディスン連載でもおなじみのチェアエクササイズ、水中運動にフラダンスを取り入れたアクアフラダンスが紹介されている。
また青竹やフィットネストビナワ、うちわを利用した体操や、盆踊りとパラパラを融合した盆パラビクスなど、読んでいるだけでも楽しそうなエクササイズの実例が示されている。
どの実技においても、言葉がけのポイントなどに参加者にとって精神的負担にならないような考慮が感じられる。
また、それぞれの担当者による示唆に富んだコラムも掲載。
指導経験豊富な執筆者たちらしい1冊。
(月刊スポーツメディスン編集人・清家輝文)



総監修・石井紀夫、体操監修・石井千恵 B5判 119頁 3,200円+税
金原出版

転倒予防教室 第2版

副題は「転倒予防への医学的対応」。
東京厚生年金病院で開催されている転倒予防教室の5年間の集大成である。
初版は1999年。
丸3年で第2版が出た。

転倒についての定義、骨粗鬆症との関連など、転倒の原因や特徴、医学・科学的側面を述べ、転倒によって生じる医療経済面での影響を調査。
そのうえで、転倒予防に向けてどのようなアプローチをつみ重ねてきたのか、転倒予防教室における実際の活動の中で得られた、貴重な具体的事例に沿った形で述べられている。
いかにして事故の危険を回避しながら、最大の効果を生み出していくかについて、数々の失敗例が挙げられているのを読むと、スタッフの試行錯誤してきた様子がよくわかる。
また、転倒予防教室という場を、よりよいものに育てていこうとするには、内科医、整形外科医のみならず、 運動指導士や看護師、理学療法士など、多岐にわたる専門家の多角的なサポートが必要不可欠であったことも読み取れる。

これを反映して、月刊スポーツメディスンも医師のみならず、看護師、理学療法士、健康運動指導士、教育関係者、事務関係者など幅広く、実に約40人の執筆・執筆協力者の手によってまとめられている。

この教室については、月刊スポーツメディスン34号で紹介したので、そちらも参照していただきたいが、スポーツ医療が高齢社会に大きく貢献できる分野としてこの転倒予防が挙げられる。
ますます、この分野の研究や実践は盛んになるだろうが、転倒予防教室の最終的な目標は転倒予防を越えたとこちにあると思わざるを得ない。
(月刊スポーツメディスン編集人・清家輝文)



武藤芳照ほか編、B5判 332頁 4,700円+税
日本医事新報社

コーチ論

ちょっと書店に出かけてみると、ビジネスコーナーには「コーチ」とか「トレーニング」という文字が溢れている。
指導して、能力を引き出すことがビジネスでも求められている。

もちろん、本書はビジネスものではない.
あくまでスポーツのコーチ論だが、むしろコーチング論と言ったほうがよいかもしれない。
著者は、スポーツライターでノンフィクション、小説の両分野で活躍とある。
そういう人がこの分野を書くとどうなるか.

全6葦で、「“頑張らない”ことが潜在能力を引き出す」「間違いだらけのコーチング」「日本人が捨てた究極の“走り方”」「メンタルトレーニングの真贋」「誰も教えてくれないバッティング常識の嘘」「やる気を引き出すコーチング」の順である。

スポーツ科学的情報も多いが、結局コーチとは何なのか、今日本のスポーツあるいは社会が考えるべき材料にも満ちている。
(月刊スポーツメディスン編集人・清家輝文)



織田淳太郎著、新書判 254頁 700円+税
光文社

トップ > フォーラム > ブックレビュー > バックナンバー