原題は「nature via nurture」、つまり「生まれは育ちを通して」と訳される。原題には副題もあり、こちらは「Genes, Experience and What Makes Us Human」(遺伝子、経験、そしてわたしたちをヒトたらしめるもの)である。
遺伝子について加速度的に解明が進むことにより、遺伝子決定論的言説も出てくる。一方で、育ち(環境)の影響も大であり、「生まれか育ちか(遺伝か環境か)(nature vs nurture)」、いずれが決定的なのかという論戦が繰り広げられることになる。
それでも著者は、「生まれか育ちか」ではなく、「生まれは育ちを通して」現れるという説を採る。「遺伝子の活動が最初から決まっているとは言えない。むしろ、遺伝子は環境から情報を引き出す装置なのだ」「美は『生まれ』なのである。だが同時に『育ち』でもある。食事や運動、清潔さや事故なども身体的な魅力に影響を及ぼしうるし…」「『育ち』は出生後で『生まれ』は出生前のものという誤信にある」。この引用で輪郭は理解していただけるであろう。
だが、興味深いことに訳者は『やわらかな遺伝子』という書名をつけた。訳者はこう言う。その理由のひとつは、英語のnature via nurtureという語呂のよさが訳出できないこと、もうひとつは「生まれという言葉には、すでに遺伝子決定論の匂いがついており、本書で扱っている“環境に対応して柔軟にはたらく遺伝子”というイメージはこの言葉からは生まれそうにないこと」である。
遺伝子のことがわかればわかるほど、環境や運動がいかに大事かもわかるのである。(S)
マット・リドレー著、中村桂子・斉藤隆央訳、四六判 410頁、2004年5月3日刊、2520円
紀伊國屋書店(03-5469-5918)
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