トップ > フォーラム > ブックレビュー > バックナンバー

老いない体をつくる

中京大学体育学部の湯浅教授が、老いない体をつくるためのポイントをまとめている。副題は『人生後半を楽しむための簡単エクササイズ』。体力、持久力、筋力、柔軟性、敏捷性のつけ方を始め、物忘れしない脳やよく見える目、自立できる脚のつくり方について、エクササイズを紹介しながら解説している。
本書で勧められているのが、エンジョイ・エイジング。老いに対抗心を持つことがストレスを強めることもあることから、「老化から完全に解放されることがないのなら、思いきって老化を楽しんでみるのはいかがでしょうか」と提案する。
本書で取り上げられているエクササイズは、日常に無理なく取り入れることができるものばかりである。同氏の老化への捉え方は一貫して前向きであり、一読すれば健康で元気な生活を送るためのヒントが多く得られるはずである。(H)



湯浅景元著、新書判 224頁、2005年6月10日刊、798円
平凡社(03-3818-0874)

運動指導者のための行動変容入門

運動は誰もが健康のために必要と思っているものであるが、気軽に始めることができる一方で、継続して習慣化させることはなかなか難しい。この点に苦慮している運動指導者も多いだろうが、継続のキーとなるのが行動変容であり、その手引き書となるのが本書である。
スポーツメディスン68号(2005年2・3月合併号)の特集「行動変容」で話をうかがった竹中先生が編集を担当、相手のこころの準備状態(レディネス)や実践の程度に合わせて働きかけを変えたり、相手に合わせた介入を行うためのモデル「トランスセオレティカルモデル:TTM」について、基礎知識から実際の活用方法まで幅広く取り上げている。
副題に『ライフスタイル・プランナーへの道』とあるが、行動変容を働きかける存在、すなわちライフスタイル・プランナーとしての能力も運動指導者には求められていると言える。なお、この本は書店での販売はされていないが、上記連絡先に問い合わせればコピーを入手することが可能となっている。(H)



竹中晃二、冨樫陽子編、A5判 44頁、2005年12月刊
早稲田大学応用健康科学研究室(04-2947-6747)発行

百歳まで歩く

スポーツメディスン2・3月合併号特集にも登場いただいた東京厚生年金病院理学療法士の田中氏が、中高年以降から筋力を維持するためのトレーニングを紹介している本。
第1章にて筋肉について解説し、第2章より「年代別筋力向上トレーニングプログラム」「筋肉別筋力回復トレーニング」「腰痛・膝痛の再発予防トレーニング」「姿勢、歩き方を見直して『筋肉づくり』」と実践的な内容がまとめられている。トレーニング方法だけでなく、背中や膝が曲がり始めてからの運動についての考え方や補助具の使い方にも触れている。
田中氏は、整形外科を訪れる中高年世代の患者の大半が筋肉を「すじ」と表現することを紹介し、「すじ呼ばわりは、年齢とともに自分の筋肉を現役扱いしなくなる、深層心理の表れでもある」と指摘する。筋肉は身体器官や身体機能に比べて老化の影響が極めて少ない組織である。この本を通して筋肉が一生現役であることを認識し、百歳まで歩けるからだづくりをしていきたいものだ。(H)



田中尚喜著、B6判 191頁、2006年1月10日刊、1000円
幻冬舎(03-5411-6222)

人間は遺伝か環境か? 遺伝的プログラム論

遺伝子の研究が急速に進み、遺伝子でだいたいのことは決まっていると思いがちだが、もちろん環境要素も大きい。だから、「遺伝か環境か」と問われる。だが、著者はこう言う。「そもそも遺伝子とか遺伝とか言うけれど、何のことを言っているのだろう?(中略)遺伝と環境の両方といったらどういうことなのだ?」
これについて、生物学、とくに現代動物行動学の認識に立って、根本的に考えてみたのが本書である。「遺伝子と『持って生まれた性質』としての遺伝との関係がどうなっているのかは、じつはまだほとんどわかっていない。『遺伝』とは、そういう漠然とした状況の中で使われている言葉なのである」そこで出てくるキーワードが「遺伝的プログラム」である。これについて著者はわかりやすくこうたとえている。
「遺伝的プログラムとは、入学式などの式次第とよく似たものである」。つまり開会の辞だの、校長あいさつだの、「順番」は決まっているが、どんなふうに行われるかは書かれていない。しかし、こうして順番どおり具体化されることがプログラムにとって大切なことである。遺伝的プログラムも同じで、種にとって共通で一般的なのだが、具体化していくのは、ひとつひとつの個体である。個体(個人)が覚えたこと、経験したこと、癖、気分、それらを含めて発育が進んでいく。つまり「人生とは遺伝的プログラムの具体化だ」ということになる。「遺伝か環境か」、この問いに対する考え方が変わる本である。(S)



日高敏隆著、新書判 176頁、2006年1月20日刊、746円
文藝春秋(03-3265-1211)

強いリーダーはチームの無意識を動かす

サイレント・カリスマ
最近、書店の一部を陣取っている書籍群に「ビジネスシーンでのコミュニケーション・スキル」に関するものがある。タイトルはさまざまで、意匠を凝らしたものが多いが、ベースになっている理論に注目すると、「コーチング」と言われるものや、「NLP(神経言語プログラミング)」をベースにしているものがとくに目に付く。両者とも輸入物だが、最近は日本的会話術よりもこちらのほうが売れているようだ。
前者の「コーチング」は、先ず相手の話に耳を傾ける(傾聴)ことから始まり、“質問スキル”を使って自らが気づき、自らの行動を促すことに重点をおいている。一方「NLP」のほうは、人の無意識な部分をうまく活用できるようなコミュニケーション・スキルを身に付けることに重点をおいている。だが、両者とも目指す方向性に大差はない。
今回紹介する本は、一応「NLP」理論をベースにしてはいるが、それほどこの理論を理解していなくても読める一冊である。要は、“これからの管理職には、どうやって部下のやる気を引き出すかが重要なキーワードになる。だから、コミュニケーション・スキルを学びましょう!?”と、“無意識”に語りかけるような内容になっている。「これまでのリーダーは、権限に支えられ、トップダウンでみんな従ってきました。だから権限さえあれば、誰でも、カリスマリーダーになれたのです。(中略)しかし、今の若い人はついてきません。王様が何も着ていないことを見抜いてしまいました。そして、『王様は裸だ』と平気で言います」
つまり、権限だけじゃ人は動かない、監督・教師というだけで生徒・選手はついては来ない! というわけだ。ではどうするか。緊張を強いることがない、先入観を持たない、選手を尊重する、そしてラポール(信頼関係)を築けるコーチ、「スタッフの潜在意識が、『このリーダーのために良い仕事をしたい!』」と思わせるようなコーチなることであると本書は説く。これを「サイレント・カリスマ」と本書では呼んでいる。われわれスポーツ・コーチにも、大いに参考になる内容である。

“たるんでいる”という指導者
私が原稿執筆中の現在、ちょうどトリノオリンピック開催中である。残念ながら日本は、今のところ期待されていた通りの成績とは言えない。が、唯一私たちの期待に見事応えてくれたのが、女子フィギアスケートの荒川静香選手だ。フリー演技当日、どれほどの人々が彼女の演技を固唾を呑んで見守ったことか。そして、演技終了と同時に“やった!”と快哉を叫んだことか。この約4分間の静と動に、正直私は感動した。もちろん、感動したのはフィギアスケートだけではない。スピードスケートもモーグルも、そしてカーリングにも感動した。みんな全身全霊を傾けて自分と戦い、競技場に立ち、始まればひたすらゴールに向かう。その全過程に、私は感動した。だから、戦い終えた彼らには、肩をポン! と軽くたたいて、こう言ってやりたい。「僕らは、君の事を誇りに思っている」。
しかし、世の中みんながみんな好意的とは限らない。残念なことだが、ある知事は某記者会見の席で、トリノオリンピックでの日本不振について感想を求められて「たるんでるんだよ」と言った。私は正直この発言には幻滅を感じる。何が“たるんでいる”のか理由が欲しい。理由もなく、なんとなく言ったのなら、そういう発言はご自分のご家庭でどうぞ。責任のある者が、責任のある発言を求められる場で言う言葉ではない。監督が選手に「お前らたるんでるから勝てないんだ」と同列。昔なら、選手は「はい!」の大合唱だが、今は違う。だから、こういう本が書店に並びはじめたのです。ご一読を、知事。ところで、あなたは夏季オリンピックを日本に招致したい意向もお持ちと聞きます。大丈夫ですか? もし失敗すると言われますよ、国民に。たるんでいるから、と。
(久米秀作・帝京平成大学現代ライフ学部人間文化学科助教授)



橋川硬児、石井裕之 著、四六判 200頁、1,680円(税込)
ヴォイス

生活習慣病管理ノート

第40回日本成人病(生活習慣病)学会の記念誌として、生活習慣を改善し生活習慣病の予防をする、かかってしまった生活習慣病に関する知識を会得し治療の基本を理解することを目的に発行されたのが本書である。本書では生活習慣病の解説はもちろんのこと、第2章「どう防ぐ生活習慣病」では、食事療法・運動療法のこつ、肥満の是正、喫煙、ストレスについて触れ、日常生活における注意点が記されている。また、巻末にある生活習慣病セルフチェックシート、メンタルヘルスチェックシート、外食カロリー表は、現状を把握し、生活習慣を改善するうえでも参考になる。
ポケットに入れて持ち歩くこともできる手軽なサイズで、常に持ち歩く習慣をつけることで生活習慣の改善の意識づけにもつながるだろう。なお、本書は書店等にて販売していないが、第40回日本成人病(生活習慣病)学会事務局(06-6879-9631)に直接問い合わせいただけば購入が可能となっている(送料自己負担)。(H)



堀正二、山崎義光監修、A6判 51頁、2006年1月14日刊、525円
大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科発行pancreas@medone.med.osaka-u.ac.jp

医学は科学ではない

医療費抑制の文字が新聞やテレビで頻繁に流れる。「抑制」はわからぬでもないが、「削減」と言われると、必要でも削るというニュアンスが生じ、それでよいのかと思わせられる。その医療費抑制に「科学的根拠」が乏しいものに医療費は使えないという考え方がある。いわゆるEBM、科学的根拠に基づく医療というものである。これに対して首をかしげる人は多い。科学的根拠があるに越したことはないが、それだけで医療は成立するだろうか。そこに現れた本書。いきなり「医学は科学ではない」ときた。新書なので、あっという間に読めるが、医学、医療、科学について、医師でもある著者がかなりはっきりと書いている。「医学という科学的に十分確立できていない、不安定な科学といえる学問では、病気というものを十分にはとらえきれず、それが患者に不安を抱かせるのだ」(第5章医学を科学と誤解する人たち、P.132より)。
医療は患者のためにあるのだが、医学は誰のためにあるのだろうか。(S)



米山公啓著、新書判 208頁、2005年12月10日刊、777円
筑摩書房(048-651-0053)

変形性膝関節症の運動・生活ガイド(第3版)

副題は『運動療法と日常生活動作の手引き』。第3版には黒澤尚・順天堂大学教授が編者に加わり、97年に出版された第1版、99年に出版された第2版の内容を骨格としながら、最新の研究成果で得られた科学的根拠に基づく運動療法プログラムや健康情報への対応の仕方などをQ&A形式で解説している。
「日常生活の中で治していけますか」という問いについては、関節軟骨が磨り減っていくという原因を直接治す根本的治療法がまだないこと、変形性膝関節症が高血圧症や糖尿病などの生活習慣病の1つであることに触れ、「自分でやれることは自分でやっていく」という心構えが必要であるとしている。そのやれること、注意点を示しているのが本書であり、痛みの出ない階段昇降や杖の選び方・使い方、日常様式の工夫など日常生活にすぐに活かせる事柄も取り上げている。
変形性膝関節症は適切な運動によって改善や進行を予防することにもつながるが、それぞれの人に適した方法で運動を行わなければ逆に症状を悪化させることにもなる。やれることをやる前に、まず本書を一読しておくとよいだろう。(H)



杉岡洋一監修、黒澤尚、武藤芳照、伊藤晴夫編集、B5判 106頁、2005年11月1日刊、2,205円
日本医事新報社(03-3292-1555)

温泉教授の湯治力

日々の生活や運動後、疲労やストレスを感じたときに行きたいなと思うのが温泉である。誰に教わったわけでもないが、温泉の魅力は不思議と日本人のこころを引きつける。この本は、温泉教授として、またモンゴル研究家としても著名な松田氏が伝統的な「湯治」について紹介している。副題は『日本人が育んできた驚異の健康法』。第1章「湯治は日本人の『ヴァカンス』だ!」は、江戸時代から現在までの湯治にまつわる歴史とトピックについて、第2章「湯治の本質は『ホンモノの温泉』にあり」は温泉定義や効能について、第3章「現代版・湯治指南――宿の選び方、湯治場での過ごし方」には湯治の実践的な要点が記されている(松田氏が薦める全国の温泉宿145選も収録)。湯治は、お湯につかることを目的に温泉場に滞在し時を過ごすことであるが、現在は観光旅行の一環として温泉地を訪れることが主流となっている。その一方で、がんなどの難病を治すことを目的に湯治客として温泉場に長期滞在する人も増えている。健康づくりの一手段として、運動や食事による日常生活の改善に加え、湯治もうまく活用したいものだ。この本を読むと、「温泉に行きたい」という思いが一層強くなる。(H)



松田忠徳著、新書判 243頁、2005年12月20日刊、777円
祥伝社新書(03-3265-2081)

駅伝がマラソンをダメにした

怪物番組
タイトルが刺激的だ。これが『マラソンは駅伝によってダメになった』ではいけない。多分、書店で何か面白い本はないかと探していた読者にとって、“駅伝”の文字は真っ先に目に飛び込んでくるし、好感も持つはずだ。「駅伝かぁ。最近すごいよなぁ。正月の名物になったもんなぁ。番組の視聴率もすごいんだろうなぁ。怪物番組だね、きっと」てなところで、次の“マラソンをダメにした”に目が移る。「そう言えば、最近日本のマラソンは女子はよいけど、男子はさっぱりだね。これは、駅伝のせいなのか? でも、駅伝ってだいたいマラソン選手を育てるのが目的でやっていたんじゃなかったっけ!? 変だな、面白そうだなぁ、この本買ってみようかぁ」となる。読者にわかりやすい言葉で、なおかつ適度に興味を刺激するタイトル。その点で、本書は先ず合格点。このほかに著者には「スポーツルールはなぜ不公平か」といったタイトル本もある。こういった著者のスポーツに対する独特の着眼点には感心しきりである。
さて、話をもとに戻そう。先ほど本を買うことにした読者の疑問の答えは?“駅伝って、マラソンの強化策?”なのか。本書は「ひと昔前、箱根駅伝は、極論すれば選手たちの息抜きのための大会だった」の一文から始まる。「1912年、日本はストックホルムで開かれた第五回オリンピックに初参加したが、マラソンを走った金栗四三氏は残念ながら棄権してしまった。そこで、駅伝という名前はまだなかったものの、ロードをリレーしていく競技を作って長距離の強化を図ろうとしたと伝えられている」。どうやら、読者の疑問は正解だったようだ。

メディアとスポーツ
タイトルにこだわるようだが、よいタイトルは読者の期待も裏切らない。では、なぜ駅伝はマラソンをダメにしつつあるのか。著者はその原因に“箱根中心のスケジュールが陸上競技界を席捲しつつある”ことを指摘する。「取材を進めていくと、箱根に出場するにはとても10月からの練習では間に合わないことがわかってくる。とにかくほとんどの学校が、1月2日と3日にチームのピークを持ってくるように調整を進める」そのため「駅伝に力を注いでいる学校はインカレを軽視する場合も多い」のが現状だ。つまり、トラック種目が軽視され始めた結果、マラソンに必要な基礎的な走力を身につける機会が減ってきていると言うのだ。「(マラソン日本最高記録保持者)高岡寿成は、(中略)箱根とは無縁の生活を送り、日本のトラックの第一人者(3000m、5000m、10000mの日本記録保持。2005年11月現在)となって、マラソンに転向してからマラソン日本最高記録をマークしている」の例や世界のトップマラソンランナーの経歴を挙げて、著者はトラック競技の重要性を説く。
しかし、現状ではまだまだ“箱根優位”は変わらない。そこには巨大なメディアが関与しているからである。「そして最近は、箱根を走ることがゴールだと考える選手も増えてきた。それだけテレビ中継の影響は大きいということである」。それはそうだろう。正月に真剣勝負である。学生(アマチュア)スポーツである。波乱万丈もある。涙あり、笑いあり、人情もある。これほどの日本人の心をくすぐる最良ソフトをメディアがほっておくわけがない。さらに、大変な広告媒体でもある。視聴者はひたすら選手の走る姿を観る。だから、出場校には絶好の宣伝の場となる。高校生も箱根を走りたがる。かくして、日本のお家芸と言われたマラソンには誰も見向きもしなくなる!? であろうか。来年は大阪で世界陸上が、2008年は北京オリンピックだ。しかし、世界陸上やオリンピック種目には駅伝はない。世界のトップにいてこそ、駅伝の魅力も増すというものである。駅伝の魅力は理解しつつも、井の中の蛙にならぬようにしてもらいたい、と著者も思っているに違いない。
(久米秀作・帝京平成大学現代ライフ学部人間文化学科助教授)



生島淳 著、新書判 199頁、735円(税込)
光文社

トップ > フォーラム > ブックレビュー > バックナンバー