絶対値の革新
「パワー」という用語がもともと理工学用語であったことは周知の事実である。すなわち効率とか仕事率と言われたもので、「単位時間当たりの仕事」ないし「力×速度」と定義されるわけだが、この「パワー」という概念が今までにスポーツの分野に与えた影響は計りしれない。
たとえば、このパワーを測定するという考え方はすでに1921年にサージェント. D.Aによって垂直跳びテストとして発表されたし、体力の古典的定義者として有名なキュアトン.T.Kも1947年には体力の一要素としてパワーの存在を認めている。その後も疾走中のパワーの研究や、自転車エルゴメーターのペダリング運動中のパワー、そして最大無酸素パワーテストとしてマルガリヤの階段駆け上がりテストなど、パワーの研究は盛んに行われているのだが、これらのほとんどは「身体効率(physical efficiency)」を主なテーマとして進められたと言える。
もちろん、こういった基礎的研究の重要性を軽視する意図は全くないが、単位時間当たり、ではなく絶対値としてのパワーの大きさがスポーツに与える影響を正面から見据えることも、ある意味大切なのではないか、と評者はひそかに思っていたのである。なぜなら成績を前提としてスポーツを考えた場合、パワーの絶対値が持つ意味は大きいからである。その点で、本書は絶対的なパワー値を高めるためにはどのような器材が有効か、どのような方法が有益かを平易に直接的に説いているわけで、パワートレーニングについて十分な知識を持たない高校生や中学生等にはとくに好書と言える。
パワーユニット
「パワー」に近似した言葉に「瞬発力」がある。どちらも似たような意味を持つので「パワーを高めたい」と「瞬発力を高めたい」という両者にあまり明確な違いを指摘することは難しいが、強いて言えば、前者は“力”を中心にパワーを捉えたと聞こえるし、後者は“スピード”に重点を置いてパワーを捉えたとも聞こえる。
いずれにしても、筆者が言うように「パワーとは、身体の動力」である。したがって、この意味を我流で解釈すれば、どれほどの重量物をどれほどの速さで動かせるかがその人の絶対的パワー評価となる。
「スポーツ選手におけるフォース(力)とは物体を持ち上げたり、移動したり、遠くに投げたりする身体の能力であります。(中略)押す力の能力などもその範疇に入ると思います」。この文章からも推察されるように、筆者は「パワー」というものは物体を素早く動かす力と定義して、そこに力点を置いてトレーニング方法を説いている。なかでも、今回パワー・トレーング器材として初めて筆者が開発した「パワーユニット」は、筆者の長年の研究と執念に裏打ちされた力作だ。パワーユニット器具の構造は、牽引物に取り付ける鎖と圧縮コイル・スピリングにワイヤーが付いており、そのワイヤーの先に人間の胴体に巻くベルトが付いている。このパワーユニットの心臓部は「圧縮コイル・スプリングス」で、この開発には、間違いなく筆者の英知と最大の努力が傾けられたのだろう。言葉ではなかなかイメージが出しにくいが、本書には図解入りで説明されているので、詳しいことは本書をお読み下さい。
ついでと言っては失礼だが、筆者は「スーパーフットボール」というサッカーとアメリカンフットボールとラグビーのよい点を併せ持ったようなユニークなスポーツの創始者としても有名だ。地元足利市ではジュニアの育成に長年尽力されている。
ユニークな指導者がつくった夢のパワーアップマシンを、ぜひ読者の方々にも一度試してもらいたいと思う。なお、本書は自費出版のため、本購読希望者は以下の連絡先にどうぞ。
(久米秀作・帝京平成大学現代ライフ学部人間文化学科助教授)
佐々木正省 著、足利工業大学・健康科学研究室、B5判変形 114頁、1,050円
JAS出版 佐々木(Tel0284-21-4886、Fax0284-21-4893)
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