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種目別スポーツ障害の診療

他種目の特性や傷害の理解に
周知のとおり、日本体育協会公認アスレティックトレーナー資格試験は新卒学生にとっては難関資格となっている。受験初年度で全科目合格することは至難の業である。それは医療系国家資格の既得者が受験した場合も例外ではない。筆者の双方の受験経験からの見解だが、アメリカのNATA公認資格試験よりも試験としての難易度は高い、と言えるだろう。その要因はさまざまだが、「専門競技」と「専門外競技」という概念が試験の中に織り込まれていることもそのひとつに数えられる。各競技に共通するベースの部分や専門種目に関することだけではなく、ほかのさまざまな種目の競技特性や、好発する傷害について詳しく理解し、検定員からの質問に明確に答える必要があるのだ。これは試験の客観性維持を困難にする側面もあるが、トレーナー教育として含むべき要素である。その学習に取り組むうえで必携となるのが、今回ご紹介する本書である。
本書は各競技種目別スポーツ外傷・障害について、ナショナルチームドクターとトレーナーの方々が中心になって執筆されたものである。競技ごとにドクター編とトレーナー編に分類され、それぞれの立場からのトップアスリートへの取り組みをみることができる。これは非常に興味深く、貴重な情報である。走る、跳ぶ、投げる、切り返す、当たるなど、スポーツの基本となる動作に関しては各競技共通項となることが多く、機能解剖や傷害発生機序の知識などで応用の利く部分も少なくはない。しかし、各競技特有の傷害や対処法の中には、目から鱗が落ちることも多いのだ。

できるだけ多種の競技に触れる
日本のトレーナー教育の現状では、単一競技での実習がまだまだ多く、多競技に関わるチャンスが少ないように見受けられる。しかし、コンディショニングが中心になる野球のような競技と、外傷への対応が頻繁に求められるラグビーのような競技では、トレーナーの活動内容も大きく変わってくる。特定競技に関わることを、トレーナーとしてのモチベーションや自己実現の根幹にしている学生も多いだろうが、学生トレーナーとしてはさまざまな形のトレーナー活動に触れるべきだろう。自分の専門競技に戻ることがゴールであったとしても、教育課程ではトレーナーとしてのクロストレーニング、クロスエデュケーションが必要だ。他競技に関わることで、知識や経験の幅が広がることはもちろん、自分の専門競技へ応用できることが少なくないのである。
本書に含まれるすべての競技での活動経験を積むのは非常に困難だろうが、できるだけ多種の競技に触れたうえで、疑似体験する意識で本書を読み解けば、トレーナーとして懐がぐっと深くなり、今年度より新カリキュラムになる日本体育協会公認アスレティックトレーナーの資格試験も怖くなくなる! …はずである。 (山根太治・日本体育協会公認アスレティックトレーナー、鍼灸師)



林光俊 編集主幹、岩崎由純 編集、B5判 530ページ、7,035円
南江堂


種目別スポーツ障害の診療
老いない体をつくる

『これならできる簡単エクササイズ』などの著者で知られる湯浅氏は、現在中京大学体育学部教授でコーチング論とスポーツ環境論を担当している。そんな湯浅氏が提案する“老いない体をつくる”にはどうしたらいいのか。副題は人生後半を楽しむための簡単エクササイズとある。
まず年齢の捉え方とは何かに着目してから、老化とじょうずに向き合っていくための簡単なエクササイズを、絵や写真を用いて説明しておりとても読みやすい内容になっている。たとえば「痛みが起きない関節をつくる」や「物忘れのない脳をつくる」、「生活習慣病に縁のない体をつくる」などいろいろなセクションに分け「楽しく老いる」でまとめている。
この本を読むと、老化現象は自然現象であるということを納得させられる部分がある。老化は誰にでも起こるし、否定もできない。また人間の体は急な変化が苦手であって、徐々にその変化に慣らしていくことが重要だそうだ。そうすれば老いることも受け入れやすいであろう。
“老化するってどんなこと?” と思ったらぜひ一読していただきたい。(M)



湯浅景元著、新書判 220頁、2005年6月10日刊、798円
平凡社新書(03-3818-0874)

交渉力

著者は、あまり知られていないがヤクルトスワローズに在籍していたことがある。その後渡米し、マック鈴木選手と最初の代理人契約を結んだ。しかしその名を一躍広めたのは、なんと言っても、95年野茂英雄投手を近鉄からドジャーズ入団を支援したこと。その後も伊良部秀輝、吉井理人投手などの日本人メジャーリーガー誕生に貢献した。
著者は、自分では交渉は下手だという。しかし、好きだという。交渉とは何か。著者は「納得」だと考えている。一方の要求がすべて通るというケースはまれ、しかし双方が納得できることは十分にあり得る。これが著者の言う「交渉」の要諦。「妥協」では、「しかたがない」という印象になる。そうではなく、互いがハッピーになるよう、納得できるようもっていく。そこにはクリエイティビティと駆け引きをゲームのように楽しむ感覚が必要だとも言う。
著者が挙げる交渉でのポイントは、ほかに、「最悪の状況を想定し、複数のプランを用意しておくこと」「市場を知ること」そして「ルールを熟知し、相手の弱いところを突く」など。 交渉は、ビジネス全般はもとより、何かをしようとしたとき、必ず生じることである。プロの代理人の世界は参考になる。(S)



団野村著、新書判 188頁、2007年1月10日刊、720円
角川書店(発売元/角川グループパブリッシング03-3238-8521)

脳のからくり

新潮文庫の1冊。サイエンスライターの竹内薫氏が脳の「超」入門書として書いたもの。うち1章は脳科学者の茂木健一郎氏が書き、全体の監修も行っている。
脳科学は急速に進歩している分野のひとつ。それでもまだわからないことがたくさんある。
今、どれくらいのことがわかっているのか、「超」入門とはいえ、内容は確か。脳の構造はもとより、ゲーム脳、脳の視覚、脳のニューラルネット、壊れた脳、クオリア問題、そしてペンローズの量子論など、最先端科学が解説されていく。
ちょうど真ん中あたりで、チャーマースの「サーモスタットにも意識がある」という言葉が出てくる。「脳のつくりだす意識も、メカニズムは複雑かもしれないけれど、結局は、『ネットワーク上のエネルギーの相互作用』が原因」と科学的に考えていくと、サーモスタットにも意識があり、コンピュータやロボットとなると当然意識があるということになる。これは一部科学者にとっては常識でもあるとか。
それで納得がいくこともいろいろあるのではないか。気になる人はぜひ読んでいただきたい。(S)



竹内薫・茂木健一郎著、文庫判 306頁、2006年11月1日刊、540円
新潮社(03-3266-5111)

脳と体に効く指回し教室

最近、包丁を握っていて指がつって寄る年の波を痛感した。考えてみれば、キーボードを打つか、コップを持つくらいのことしかしていない。包丁は毎日のように扱うが、それでも指がつる! なんということだ。栄養の問題か?
と、思っているときに、この本が目に留まった。「指回しね」とあまり期待しないで読んだが、やってみる価値ありと判断。いや、やってみないとなんとも言えない。最初にその効果を自分で確かめるようになっている。立位体前屈を行い、次に首を左右に回し、どれくらいまでいったか確認、記憶しておく。そして、両手の指を合わせてドームのようにし、親指同士から始め、各20回、計100回行い、変化を見る。いずれも初めのときよりよい。「でも、2回目ということがあるしな」と一応保留にしておく。以下、指と脳、こころの問題などが語られていく。
念のために記しておくと、著者は内科医で、東大の理学部と医学部を卒業(大学院では数学専攻)、三楽病院を経て、現在東大附属病院内科勤務とある。座禅、ヨーガ、気功、東洋医学などにも通じている。
「心を込めて字を書くと心が成長する」というくだりもある。指の体操もさることながら、指からからだや心をみるのも面白い本。(S)



栗田昌裕著、新書判 176頁、2007年3月10日刊、840円
廣済堂出版(03-3538-7223)

レジスタンストレーニングのプログラムデザイン

レジスタンストレーニングのプログラムデザインとは、表現を換えると、筋力トレーニングの処方・立案ということになる。
この本の最大の特徴は、「科学的エビデンス」を追及したという点である。
本書は原著第3版の翻訳だが、序文で編著者は、第2版の出版以降、1万件を超える広範なレジスタンストレーニングの科学的研究文献が発表され、その最新データを反映させたと記している。第3版では、これまで「標準的な男子大学生」に関するデータが長く中心だったのに対し、女性、高齢者、子どもについても続々と公表されるデータを整理、第3部としてこれら3つの集団に対して約70頁を割いて解説している。また、近年分子生物学の発展が著しいが、この本ではその成果も活かされている。
レジスタンストレーニングをクライアントや患者さんに処方するとき、その根拠が求められる時代。トレーニングに正しさを求めるのは難しいところが多いが、膨大な文献を駆使して、一定の基準を設けようとする編著者の姿勢は評価される。「どこまでわかっているか」、そのエビデンス確保とまさに処方のために活用していただきたい。(S)



S.T.Fleck/W.J.Kraemer編著、長谷川裕監訳、B5判 432頁、2007年1月31日刊、7,500円
ブックハウス・エイチディ(03-3372-6251)

「退化」の進化学

副題は「ヒトに残る進化の足跡」。ヒトは進化しているのか、それとも退化しているのか。この問題を本書ではヒトと動物の各器官で比較しその変遷にもふれていく。人類の起源は霊長類、哺乳類、脊椎動物の共通先祖、そして無脊椎動物から単細胞生物、ついには原核生物にまでさかのぼることができる。終章ではヒトのからだに見られる退化器官や痕跡器官を、4億年前から現代に至るまで順に並べているが、いろんな機能がこれまで消えて、生まれていることがわかる。ヒトのからだは生きるために進化していると言ってもよい。捉え方によってはそれを退化と呼ぶこともあるかもしれない。だが本書は哲学本ではなく、何が進化で退化なのかを比較解剖学や形質人類学、人間生物学など多くの資料に基づいており、まさにからだは生命の産物なのだと実感を持たせてくれる一冊になっている。(M)



犬塚則久著、新書判 206頁、2006年12月20日刊、861円
講談社(03-5395-5817)

美しい日本の身体

本誌でも何度か登場していただいた矢田部さんの新著。矢田部さんの著書には『椅子と日本人のからだ』(晶文社)と『たたずまいの美学』(中央公論新社)があるが、この新書は、これまでの成果をまとめ、さらに深い考察を加えた感じがする。
1章「和服のたたずまい」以下、「『しぐさ』の様式」「身に宿る『花』の思想」「日本美の源流を彫刻にたずねる」「日本人の坐り方」「日本の履物と歩き方」「基本について」と計7章からなる。つまり、和服、動作、能の「花」、仏像の美、坐位を中心とする姿勢、ぞうりやワラジ、ゲタと靴、それによる歩行など、矢田部さんが研究し、また日々接しておられるテーマが並んでいる。面白いから読んでくださいと言うしかないが、一部だけ引用しておこう。
「一見、何の役にも立っていないようで、あらゆる物事の認識の基盤になっているのが実は人間の身体で、それは自分を取り巻く風や光や光に照らされた世界を感じ取るセンサーの役割を果たしてもいる。その感覚能力に磨きをかける一つの方法として、坐って姿勢を整えることを好んで選択してきた歴史が日本にはあり、その澄んだ感覚で世界を見つめる感受性こそが、実は日本文化を美しく秩序立ててきた基盤にあるものだと私は考えている」(P.148より)(S)



矢田部英正著、新書判 222頁、2007年1月10日刊、735円
筑摩書房(048-651-0053)

複雑さを生きる

人間関係、ハラスメント、組織の運営からテロリズム、環境破壊、または職場での苦悩、恋愛、家庭の不和など、現代の諸問題を複雑系科学の立場から読み解いている。副題は「やわらかな制御」。
本書の内容を深めていくためには、まず“知ることとはなにか”を考察し明らかにする必要がある。そのキーワードが1章「知るということ」、2章「関係のダイナミクス」の基礎となる部分。ではその複雑さをどう生きていくのか、それを明らかにしていくのは3章「やわらかな制御」、4章「動的な戦略」になる。正直に言うと、この内容の拡がりは読み解いていくのに大変な作業であった。著者も「めまぐるしい銀河鉄道の夜のような旅」とこの本を振り返る。しかしながら5章の「やわらかな市場」まで読み進めていけば、問題が整理されてくる。
この複雑社会に私たちは生きていて、それを解いていくことが現在必要とされている気がする。それと同じように私たちの身体とは何か、この問いを深めていくことも大きな意味を持つのではないか。(M)



安富歩著、四六判 238頁、2006年2月22日刊、2,310円
岩波書店(03-5210-4000)

スクラム 駆け引きと勝負の謎をとく

その名の通りラグビーのゲーム中にみられる「スクラム」の本。確かにそれで間違いはないのだが、話の中心には「フロントロー」が据えられている。ただ、「フロントロー」をタイトルにすると、一般の人にはなんのことだか、まずわからない。だから、ラグビーに関係したことだと連想しやすい「スクラム」にしたのかと勘ぐってしまう。それくらいスクラムの主役である「フロントロー」という存在に深い愛情が注がれている、そんなマニアックな臭いがぷんぷんする本である。

その「フロントロー」。ラグビーを知らない周りの人たちに聞いてみると珍解答の数々が。「低い前蹴りのこと?」、あるいは「前から背の低い順に並ぶこと!」。やれやれ。「ロー」は「low(低い)」ではなく「row(列)」、つまり「front row」で「前列」のこと。3列で構成されるスクラムの最前列に位置する、左右のプロップとそれに挟まれるフッカーという3つのポジションを担う男たちのことである。 ラグビーになじみがない人がテレビでスクラムを見ても、ミスなどで途切れたゲームの単なるリスタートの形としてしか映らないかもしれない。しかし、これはラグビーの中でも最もエキサイティングなプレーの1つなのである。ゲームの流れを大きく左右する、非常に高いレベルの力と技のせめぎ合いがそこでは行われているのだ。ラグビートップリーグチームのスクラムを間近で見ていると、ギシギシと骨が軋む、そんな音が聞こえてくる。フロントローの鍛え抜かれた全身の筋肉は、理不尽なストレスに正面から立ち向かうため総動員されている。本文にもあるが、なにしろ片方のチームのフォワード8名の総体重は800kg前後。その塊が2つ勢いよく組みそして押し合うわけで、フロントローにかかる重量の単位は「トン」に跳ね上がるというものだ。寒い季節では、スクラムの周りだけ、湯気がモウモウと立つ光景がみられる。一本、一本が真剣勝負の過酷なプレーは、男の中の男でしか務めることはできない。つぶれた耳と大きな背中、寡黙だが大胆かつ繊細、そして聡明さも併せ持つ、そんな男たちにしか。まあグラウンドを離れれば、剽軽でずいぶんおしゃべりなトップ選手がいるのも事実だが。 本書ではそんな彼らの物語が生々しく語られている。「ビシッ」、「ゴリゴリ」、「ガチッ」。こんな擬音語も随所に登場するが、ラグビーが好きな人には伝わってしまう。というより、身体で覚えているその感覚で、そう表現するしかないと妙に納得してしまうのである。そしてスクラムは、一人ひとりが重ければ強いというわけではなく、フロントローを中心とした絆の深さこそが、本当の強さの秘訣である。そんなことも改めて思い出させてくれる。

この稿が出ている頃には、IRB(国際ラグビー評議会)によりスクラムのルールが安全上の理由から改正されている(日本国内は本年4月1日施行)。ラグビーは今でも頻繁にルールの見直しが行われる異色のスポーツであると言える。事故をなくすための取り組みが行われることは重要なことだ。ラグビーの戦術そのものが機動力をより優先させる傾向にもある。徐々に縛りが強くなるスクラムに、昔からのフロントロー経験者は歯がゆく感じるところがあるかもしれない。スクラムはそんなせせこましいもんじゃないんだ、と。それでもスクラムがラグビーにおいて、単なる「起点」ではなく重要な「基点」であることに変わりはなく、背中で語るその男気というものはこれからも引き継がれるのだろう。
本書でも紹介されている名言がある。「世界のサカタ」曰く「トライは自分ひとりでやったんじゃなく、トライしたボールには15人の手垢がついているんや」。慶応大学のフォワードに受け継がれている言葉に「花となるより根となろう」あり。テレビ中継では華やかなバックスのプレーに目を奪われがちだが、本書を読み、そしてぜひグラウンドに足を運んで、スクラムを直接見てもらいたい。そこでのフロントローの働きに注目してもらいたい。真の男の背中を感じてもらいたい。
(山根太治・日本体育協会公認アスレティックトレーナー、鍼灸師)



松瀬学 著、新書判 256頁、740円+税
光文社新書

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