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ダイエット&フィットネスの基礎知識

著者は杉浦克己氏。明治製菓入社後、東京大学大学院でスポーツ栄養学の博士号を取得。2002年日韓ワールドカップサッカー日本代表の栄養アドバイザーを経て、2006年から立教大学で「ダイエットフィットネス」の講義を受け持っている。同講義の定員は24名にもかかわらず、毎回4倍以上の応募があるほどの人気だそうで、この4コマ100名ほど受け持った結果をまとめたものが本書である。内容は基本的な運動と栄養バランスの考え方をわかりやすく説明。多くの女性がこれまで関心のなかった筋力トレーニングの重要性を挙げながら、そのメカニズムと、具体的にどのように運動をすればいいのか、コアストレッチウォーキング&筋トレ・ストレッチを中心に絵や図で解説している。またトップアスリートの減量法では吉田秀彦選手(柔道)や、長谷川穂積選手(ボクシング)を例に挙げ、運動・食事・サプリメントという観点で「正しい基本知識」をまとめている。(M)



杉浦克己(ザバススポーツ&ニュートリション・ラボ所長)著、A4判 176頁、2007年5月25日刊、1,575円
ハートフィールド・アソシエイツ(03-3770-8681)

自分の体で実験したい

副題は「命がけの科学者列伝」。人間はいったいどのくらいの暑さに耐えられるのか。ジョージ・ファーダイス医師は、仲間の医師らを4人集めて実験する。その実験で仲間のチャールズ・ブラグデンが127℃まで温度をあげた部屋に入る。4人はそれぞれ高温にさらされても体温に変化がなかった。これがきっかけとなり、ヒトは汗を体外に放出し、体温を調整しているということを後々発見するが、127℃の部屋に入ったブラグデンは「不安になるほどの圧迫感を肺に覚える」と命の危険を感じ1分で部屋を出た。またホレス・ウェルズ歯科医は亜酸化窒素を用い、19世紀当時に困難とされていた抜歯に挑戦する。自ら実験台となって「針で刺されたほどの痛みも感じなかった」と残したが、これらの他にも麻酔薬の恍惚感をもとめて中毒となり、最後まで立ち直れない状態にまでなってしまったという。他にも“地上最速の男”になるため自己犠牲を払ったものや、人間の体内時計は別世界ではどのような影響があるのかと、地下の洞窟で131日間を過ごした女性など、本当か? と思うことが書かれている。このような背景を経て、治癒不可能とされた病気や伝染病などの原因が解明され、現代では多くの人が昔より安心して暮らせるようになったと言える。(M)



レスリー・デンディ、メル・ボーリング著 梶山あゆみ訳、A5判 223頁、2007年2月17日刊、1,995円
紀伊国屋書店(044-874-9657)

美しく立つ

副題は「スポーツ医学が教える3つのA」。長年スポーツ医学に携わってきた渡會氏が病院での診断、治療、講義で学生に教える際のキャッチフレーズは、Anatomy(構造と機能)、alignment(アライメント:姿勢肢位の違い)、Awareness(身体を認識する)とある。美しく立ち、じょうずな身体の使い方をするために、まず自分のからだの仕組みや構造を理解し、それから動きについて考えてみようというのが本書の目的である。著者は具体的に、美しく立つためにスクワット、背骨ほぐし、ストレッチングの3つの体操をすすめている。膝や腰を痛める人の多くは足が外側を向き、膝が内側を向くようになっている場合が多いことからも、改善させるための一つの方法として部屋の隅(直角)の壁の角に立って、足を壁に向けて進めていく「かべ体操コーナースクワット」などを挙げている。他にもじょうずに立ち、動作するための軸を、先に挙げた観点3つのAに沿って解説してる。
これまでのからだの治療・予防はどうしても受身になりがちであったが、みずから改善していこうとする取り組みが大事であることに気づく。今回は紹介しきれなかったが、他にも身体への捉え方や考え方が凝縮されている一冊。(M)



渡會公治著、B5判、144頁、2007年5月24日刊、1,890円
文光堂(03-3813-5478)

『匠の技』五感の世界を訊く

幻の三代目豆腐職人
豆腐屋の長男として産まれた私は、いずれ「板井豆腐店」の三代目として豆腐職人になるはずだった。
うちの豆腐は「大豆の風味がよく生きていて旨い」と評判だったようだ。ところが時代とともに近代的機械を使った量産化の波が押し寄せ、しかしそれに乗らずに一家の手作業だけでつくった豆腐を細々と売るだけではやがて立ち行かなくなってしまったらしい。私が4歳の頃、父親が豆腐職人からサラリーマンに身を替えて家計を支えることとなり、豆腐屋は廃業するに至った。そのため豆腐屋の三代目を名乗ることはできなくなったが、逆に家業に縛られることもなくなった。お陰で好き勝手な進路へ進ませてもらうことができ、現在のような立場に身を置いて好きな棒高跳びも(たしなむ程度ですが)続けたり、学生の練習指導を(冷やかし程度ですが)することができているのである。

独特の動きとリズム
おぼろげだが、豆腐をつくっている祖父や両親の姿を、祖母に背負われてワクワクしながら眺めていたのを覚えている。大豆を茹でて擂ったものを入れた麻袋を搾ると、後にはオカラが白い固まりとなって残されている。白く濁った液体しかないと思っていた袋の中から固体が取り出される瞬間が手品のようで面白く、せがんでやらせてもらうのだが、ほんのちょっとしか搾れず麻袋はまだ水っぽくてブヨブヨしている。代わって父がやると信じられないほどたくさんの搾り汁が取れ、カラッカラのオカラが出現するのだ。また、できたばかりの豆腐が、水を一杯に張ったフネと呼ばれる容器に放たれ、ゆったりと水の中で横たわっている姿は、何か巨大な生き物が水槽で泳いでいるようで幻想的だった。そして、そのとてつもなく大きな豆腐を祖父は左手1つで自在に操り、右手に持った包丁でスイスイと所定の大きさに切り分けてしまうのである。
うちのほかにも近所には建具屋、鍛冶屋、銅板屋、のこぎり屋、床屋があって、職人のオジちゃんたちが独特の動きとリズムを持って働いている姿はいつまで見ても飽きることはなかった。 また不思議だったのは、彼らにどんな質問を投げかけても、その都度子ども心にもストンと腑に落ちる答が返ってきたことだ。この人達は皆、今している作業の行程全体での位置づけがすべてわかっていて、作業の細部を見つめたり全体を俯瞰したり、意識を自在に行き来させることができていたのに違いない。つまり、基礎を踏まえているからこそ、どんな質問がきても相手の力量に応じた言葉で答を探し出してくることができたのだと思う。

一流アスリートとの共通点
そう考えてみると、昨今の日本の一流アスリートには、上記のような職人的雰囲気を漂わせている人が多いように感じられる。競技へ取り組む態度というか、行為の認識の仕方が非常に似ていると思うのだ。 動作はどれも簡単で自動的にやっているように見えるのだが、実は一つひとつに長い年月をかけて培われた基礎があるからこそのものである。それらは、容易に真似などできっこない動きであり、淀みなく美しい立ち居振る舞いでもあるのだ。
本書は、職人的仕事を生業とする人たちはどんな身体感覚を持っているのか、「五感のいずれかが鍛え抜かれているプロフェッショナル」な超人たちの話を訊き集めたものだ。
「生業のなかで特殊なまでに鍛えられた鋭敏な」感覚を持った人たちの話がテンコ盛りに盛り込まれ、ワクワク感に満ちた一冊となっている。
(板井美浩・自治医科大学医学部保健体育研究室助教授)



田中聡 著、文庫判 285頁、599円
徳間書店

ハラスメントは連鎖する

読んで「ハラスメント」を受けた
「本書によりハラスメントを受けた」。これが、本書の過激とも言える導入部分を読んでいるときの率直な感想だった。本書は日常に巣くうハラスメントという「悪魔」を振り払うために、それを理解するためのものであるはずなのに。たとえば親子関係の中に存在しうるハラスメントの話があげられているが、親子の愛情という大事な部分を汚されたような気分になった。ひとつふたつの事象を取り上げて、愛されない、愛せないとは言えないだろう。同一人物が同一のメッセージを同一の行動や言動によって伝えようとする場合でも、そのコンテキストは日々の身体的、精神的揺らぎの中で常に変化する。また、受け止める側にも同じことが言える。私はそれが人間というものだろうと考えている。私にとって人間は不完全で不安定な存在であり、過ちを犯す存在だ。常に誰かの魂を傷つけ、誰かに魂を傷つけられる危険性を持っている。矛盾に満ち、虚実が入り乱れている。だからこそその中でよく生きることにこだわりたいとも思う。受け止める強さを持ち、立ち向かう強さを持ちたいと思う。己がどうあるべきかを追求すれば、時に自らの魂に疑問を持ち、改めていくことも必要だ。こんなことを考えていると、身の丈で生きることが精一杯になり、それが自然なことだと私自身は感じる。

深くえぐっていく
しかし、世の中ではそんなささやかな決意など簡単に吹き飛ばすような出来事が確かに頻発している。国が関わる大きなことから、日常目にする小さなことまで枚挙にいとまがない。尊い命が失われる事態になることも少なくない。メディアが視聴者や読者を小馬鹿にした情報を垂れ流し、悪質なハラスメントを行っていることもあれば、自ら進んでレッテルを貼られることで安心し、幸せを感じる人も多い。
本書の筆者は、対人関係でみられるその部分をより深く掘り下げていく。過去から現在に至る数多くの事例、文献を読み解き、そして何より己の心の中から目を背けることなく、さながら痛みにのたうちながらえぐっていくかのように。考える力が旺盛だということは大変なことだ。その理論は難解であるが、確かに興味深い。十分読み解いているかは正直言って私自身疑問だが、賛同できる部分も多い。しかし同時に、ネガティブな側面からの論述や、典型的で一方的な断言が多いことが気になるのだ。私自身は筆者にはお会いしたことはないが、「大変な時代で、向き合うべき問題は山積している。でも人間はそんなに捨てたもんじゃないんだよね。たとえばこんないい話もある」というような一言がもらえれば、それだけで救われる人も多いように思う。お気楽すぎますか。

スポーツで考えると
さて、スポーツというフィールドにおいて考えてみると、本書の内容の典型例として、指導者と選手との関係があげられる。確かに極端な例であれば、自分のことを有能だと思っているが実は無能な指導者のために選手が犠牲になるケースもある。また、自らの理論を他の理論を否定したうえで選手に押しつけることも問題視していい。私はアスレティックトレーナーとして、そのような例を聞くたびに、自分に何ができるかということを非力ながら自問する。また、高野連の特待生問題に対する取り組みなども、教育という名を借りた若者の可能性の芽を摘む組織によるハラスメントだと感じずにおれない。もちろんその制度を私益のために悪用する存在や、その制度により一般の学習を軽視するようなことが起こっていたのであれば、もちろんそこには別の問題がある。
しかしその一方で、試行錯誤を繰り返し、間違いを犯しながらも、懸命に選手のために尽力しようと努力を惜しまない指導者も数多く存在する。指導者の存在を実態以上にとらえず、うまくつきあい、自分たちのために必要な取り組みができるたくましい選手たちも数多く存在する。局面だけ見ればハラスメントに見えることでも、大局的に見れば選手が指導者を乗り越えていく結果を生み出すこともあり、また1つの目標に向かう大きな原動力になることもある。
確かに問題視すべきことも多いが、そこだけを取りざたすほど過敏にはなりきれない。

のび太にとっての「天使」
余談になるが、本書を読んでいて、その内容は「ドラえもん」という教材の中にも発見できるように感じた。ジャイアンというハラッサー(ハラスメントを仕掛ける人)、のび太というハラッシー(ハラスメントを受ける人)、スネ夫というハラッシーハラッサー(ハラスメントを受けた結果、自らをハラッサーと化す人)。ただ、ドラえもんはのび太のそばにいることでは、ハラッシーを救う「天使」にはなれなかった。最終回(数ある中の1つ)に彼は未来に帰ることでその存在を消し、のび太はそこでようやく自分自身で自分を脅かす存在に立ち向かうことになる。彼はその存在を消すことでのび太にとっての「天使」になれたのだ。この自立をいかに体得するかが、問題解決の1つになる。言うは易し行うは難し、だが。
(山根太治・日本体育協会公認アスレティックトレーナー、鍼灸師)



安冨歩・本條晴一郎 著、331ページ 新書判、882円
光文社

力士はなぜ四股を踏むのか?

副題は、大相撲の「なぜ?」がすべてわかる本。
タイトルにもあるように、力士はなぜ四股を踏むのかについては本書を読んでいただきたい。工藤隆一氏はフォーミュラ・ワン(以下F1)での担当記者を務めていたときに、その競技の仕組みが大相撲と似ていると感じるようになったそうだ。F1は一つのチームが一座を組んで世界を興行している点がサーカスを連想させる。一座の巡業のことを英語で言うと「サーキット」、ゴルフ、テニスでも試合で世界を周ることをサーキットと呼ぶ。このようにヨーロッパのF1や日本の相撲は、トップスターから縁の下で働くものまでの“一座”で動くという特徴があるのだ。この他にも『からだのやわらかさこそ大成のカギ』、『大きさよりも「瞬発力」と「敏捷性」』、など相撲界で勝っていく条件や、『なぜ塩をまくのか』、『相撲・芝居・落語に共通する大衆文化』など歴史的な視点でもまとめられている。(M)



工藤隆一著、B6判 238頁、2007年5月10日刊、1,260円
日東書院(03-5360-7522)

素晴らしき日本野球

本書では長谷川氏の経験を通し、決して断定的に日本とアメリカの野球について語ることなく、冷静に、その違いや特色を述べている。そのなかで同氏は日本に帰って久しぶりに甲子園で高校野球を見たときのことをこう語る。「とても好きだが、問題はある。」
日本とアメリカの選手を育てるシステムの最大の違いは「精神面」これは守備とか、配球などではなく、宗教的な部分での違いが明らかだそうだ。日本の高校野球ではダッシュを100本という練習があり、フィジカル的にはあまり意味のある練習とは思えないが、メンタル的にはそれなりに意味があったかもしれない。
また技術の面でも長時間の練習を通して自分の「形」を探っていくのは日本独特で、そういう面に関して言えば徹底した個人主義であるそうだ。そこが日本野球の独特の強みでもあり、技術面に優れたイチロー選手が生まれたのもそういった土壌があったからだという。だが専門的な練習を繰り返すことは本来持っている能力や筋力を眠らせている可能性もあり、“専門家”になるデメリットも挙げている。それに比べてアメリカではいろんなスポーツを経験しプロスポーツ選手になっている人も多い。スポーツを行っていると偏った環境になりがちであるがゆえに見習うべき点があることも事実。
日本とアメリカでの野球経験者だからこそ書ける「素晴らしき野球」。読んでみる価値は十分にあります(M)



長谷川滋利著、B6判 190頁、2007年4月25日刊、1,365円
新潮社(03-3266-5111)

フィットネス用語辞典(第2改訂版)

日本エアロビックフィットネス協会(JAFA)が、フィットネス用語辞典をつくった。本書は健康運動指導者・学生などスポーツに関わる人たちが自宅学習できることを目的にまとめられている。内容はというと、たとえば用語辞典としての役割の他に、皮脂厚(肩甲骨下部+上腕後部)による体脂肪率の早見表や、メタボリックシンドロームの診断基準(2005)など内科的なところまで網羅されていて、参照しやすい。 またその言葉の意味をカバーする範囲も広い。日本体育学会や日本体力医学会などの発足時期や、その目的と現在までの活動を簡単に説明している。 本書はこれから勉強をして資格を取得しようとする人や、選手への指導、説明をする際にもよい参考書となるだろう。このように活用法はさまざま。気になる方は是非一読していただきたい。(M)




小澤治夫編著、A5判 316頁、2007年4月10日刊、3,675円
社団法人 日本エアロビックフィットネス協会(03-3818-6939)


フィットネス用語辞典(第2改訂版)
加圧トレーニングの理論と実践

本書は加圧トレーニングの発明者でも知られる佐藤義昭・株式会社サトウスポーツプラザ代表取締役社長や、石井直方・東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系教授、中島敏明・同大学院医学系研究科加圧トレーニング・客員准教授、安部孝・同大学院新領域創成科学研究科人間環境学専攻・客員教授が現場から得た成果と、その本質をまとめた一冊。 内容の展開は加圧トレーニングをこれから学ぶ方、導入を検討するためにその概要を知りたいという方たちに、理論的背景とその効果についてわかりやすくまとめられている。また素人でも簡単にできる完全自動制御の空圧式トレーニング機の活用法なども紹介している。これは株式会社サトウスポーツプラザとJAMMS(有人宇宙システム株式会社)との共同研究で実現されたもので、宇宙飛行士が加圧トレーニングを行うにあたり、指導者が宇宙にまで帯同することはできないので、状況に応じた適正圧を自動制御できるトレーニング機になっているそうだ。 現在加圧トレーニングは発展途上の段階で、基礎研究と応用研究は日々続けられ、医療各領域、健康づくりや介護予防、さらには宇宙開発分野までとその研究範囲も広い。今後もメカニズムがより深く解明されていくにつれ、その対象範囲も大きくなっていきそうだ。(M)



佐藤義昭、石井直方、中島敏明、安部孝著、B5判 178頁、2007年5月15日刊、3,990円
講談社(03-5395-3622)

競技力向上のトレーニング戦略

ピリオダイゼーションの重要性
本書は、比較的珍しい単独の著者による包括的なトレーニングの理論書だ。
今回の翻訳が日本国内では初版本となるが、原著ではすでに第4版まで重ねられているだけあって、近年の基礎的研究成果などもふんだんに盛り込まれ、整然としてしかもよく練られた内容となっている。読み進むにつれ、学生に戻って教科書を読んでいるような気分になり、目先の仕事に追われてばかりで木を見て森を見ない思考に陥っている昨今の自分を反省したりした。
ピリオダイゼーション(期分け)理論という本書の主題をトレーニングの科学的基礎と実施方法という両輪が支える形で、大きく3部から構成され「競技力向上のトレーニング戦略」がダイナミックに展開されている。
週単位(ミクロサイクル)から数週間単位(マクロサイクル)、さらには年単位あるいはもっと長期にわたるピリオダイゼーション、そしてそれが鍛練期であるのか試合期であるのか、それぞれ密接な関係を持たせ熟考したうえでピリオダイゼーションを行うことの重要性が、いくつもの具体的パターンとともに示されているのである。

戦略と戦術
本書を読むための核となるであろう「戦略(strategy)」という語と、それに似た「戦術(tactics)」という語について述べる。両用語ともほぼ同様のことを意味するが、戦略(strategy)は「シーズン全体、あるいはより長期にわたって、選手やチームのプランを構築、遂行する技術」であり、対する戦術(tactics)は「1つのゲームや試合のみを対象にしたプランに関する」比較的短期のものであるところで両者わずかに異なっている。また、戦術の「価値と重要性」は「相手との攻防の中でのスキルの完成」が必要な競技では比較的高く、「調整力とフォームの完成」が重要な競技では比較的低い。このことから、戦術は競技の成功において重要な要素ではあるが、大局的なトレーニング計画の構成要素の1つとして考えるのがよさそうである。
この「戦略」という語が意味するところと、トレーニング計画におけるピリオダイゼーションの重要性との関連を考えると、原題「PERIODIZATION Theory and Methodology of Training(ピリオダイゼーションの理論と実際)」を副題にしてまでも、翻訳版である本書の本題を「競技力向上のトレーニング戦略」とした訳者の戦略的意図とその意義がわかるような気がするのである。

一気に読み通す
さて、本書は「監訳者あとがき」にもあるように、トップアスリートやコーチだけでなく広く一般のアスリート、コーチにも「即利用できる合理的・効率的なトレーニングに関する示唆」が盛りだくさんに含まれている。辞典のように興味のある部分だけ開いてつまみ読みしても十分使用に耐えると思われるが、いっそのこと全項目を読み通してしまったらどうだろう。
輪読形式でじっくり読み込んでもよいし、一人孤独に蛍の光で読んでもよい。
一人で読む場合には、難解な部分があってもいちいち立ち止まって調べごとの迷宮に入ったりする前に、一気に読み通してしまうのがよい。そのほうが、きっと本書が伝えようとしているトレーニングの体系的内容が脳内に残るだろう。そして、それぞれのアスリート、コーチの頭脳の中で熟成し日本の伝統的な鍛練の理論とともにじっくりと練った戦略的トレーニング理論ができあがれば、これまで以上に多くのアスリートが世界に羽ばたくことになるだろう。
などと言ったら出しゃばりすぎだろうか。
(板井美浩・自治医科大学医学部保健体育研究室助教授)



テューダー=ボンパ 著、尾縣 貢・青山清英 監訳、B5判 317ページ、4,200円
大修館書店

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