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部活レシピ

これからの季節「あれ? 夏バテかな」と感じるアスリートも少なくないはず。とくに育ち盛りの子どもたちの食事管理に保護者は少しでも気をつけていきたい。
本書の副題は「中高生のお母さんを応援する」。本書のキーワードは虹色式理論。この理論は食事のカラーを赤、橙、黄、緑、青、藍、紫と色を揃えることによって、バランスよく栄養を摂取しようというもの。そんなに深い理由ではないが、実際に毎日献立するのは一苦労なのが現実である。
そこで本書はオールカラーでこれらの朝・昼・晩の献立を紹介。1メニューにつき、見開きで左頁に食事写真、右頁に調理方法を記載している。また試合前や、疲労回復、エネルギーが必要なとき、おやつのときの献立、そして運動と食事に関してのQ&Aもとても役立つ内容。きっと料理するほうも楽しくなるだろう。
今思えば部活をしていた学生時代、こんな本があったら親に「これ見てお料理作ってね」と、その負担も軽くなっただろうに。(M)



アテーナプロジェクト編、AB判、72頁、2008年5月24日刊、979円
アテーナプロジェクト(06-6338-3078)

コアコンディショニングとコアセラピー

本書のあとがきをみると、「コアコンディショニングとコアセラピーは発展途上の概念であり、事例や症例を通じた検証のみというように科学的検証が不十分な多数の方法論を含んでいます。本書の製作の過程ではこれまであいまいだった定義や概念図の再構築、用語の統一、理論の根拠となる文献の検索などが必要であることが顕在化し、それらの再構築が行われました」とある。
エビデンスの充実がこれら治療の発展には不可欠だったが、あとがきにあるとおり本書ではこれまであいまいだった定義や概念を、多分野の専門家によって用語を統一しており、スポーツ指導者、フィットネスインストラクター、アスレティックトレーナー、鍼灸、柔道整復師などに向けた必見の内容。全体的にイラストや写真を用いて説明されている。
とくにストレッチポールを使った運動によるコアコンディショニングは、さまざまな競技種目で活用されているだけではなく、今後は介護予防の場面での活躍を期待されており、それらコアコンディショニングの基礎知識を習得するのに有用である。
現場で指導にあたっている方、また現場に出る前に基礎知識を身につけたい方にとっても大きな一冊となるだろう。(M)



平沼憲治、岩崎由純監修、B5判 242頁、2008年7月5日刊、4,410円
講談社(03-5395-3622)

スポーツ常識の嘘

Main Topic(月刊スポーツメディスン103号)で紹介した財団法人スポーツ医・科学研究所の開設20周年にあたる今年6月10日に合わせて刊行された書。所長の横江先生が著者である。
だいたい2ページに1テーマの構成で、「サウナは減量によい」「ギプスを巻いたら復帰が遅れる」「ベンチプレスは肩の筋力強化によい」「運動は長時間続けなければ減量効果がない」「肩の脱臼は筋トレで治る」など、計37項目の「常識の嘘」を解説。
たとえば、ギプス固定については、不必要なギプスの場合は正しいが、ケガの種類、程度によっては間違った常識になるとし、生理学的に治癒するまでの期間の適切な期間の固定は必要と明確に記している。また、ギプス固定による筋萎縮の問題についても触れ、ギプス固定中の筋力維持法についても記している。
「常識の嘘」というのは、一般にそのように言われ、信じられ、実践されていることだが、その正しい部分と間違った部分を明確にして示そうという試みのようだ。
運動中に水を飲むなとか、突き指は引っ張っておけばよいとか、今では間違いとして知られていることもあるが、スポーツの現場によっては、まだ今も行われていることが少なくない。ただ頭からよいとか悪いとするのではなく、正しい知識を持って行うことの大切さがよくわかる本である。(S)



横江清司著、(財)スポーツ医・科学研究所編、B6判、110頁、2008年6月10日刊、880円
HIME企画(052-802-5488)

痛い腰・ヒザ・肩は動いて治せ

朝日新書の最新刊。著者は大阪・島田病院の島田先生。「動いて治せ」がキーポイントである。送っていただいた本の表紙の裏に直筆で「人生動いてナンボ!」と書かれていた。島田先生の師匠は、故・市川宣恭先生。プロボクサーでもあった整形外科医で、この先生から、スポーツ選手の診療を学び、安静の弊害を叩き込まれたという。「人間は動いてナンボや」という市川先生の人生哲学。その哲学に従い、スポーツ診療場面、安静について、痛みと向き合う方法、そして患者さんの「尊厳」という4つのテーマに分けてまとめたのが本書。ケガや病気のとき、医師も患者も「安静」を考える。それは正しいが、いつまでも安静では治るものも治らない。むしろ動いたほうがよい。スポーツ選手の場合が特別ではない。この本を読むと、医師の考え方もわかるし、患者としてどう考えるべきかもわかる。「尊厳」は、相手に対しての「敬意」が出発点と記す。スポーツ医学は、社会全体をみていくものと考えるが、その意味でも共鳴できるところに満ちた本。おすすめします。(S)



島田永和著、新書判、230頁、2008年6月30日刊、756円
朝日新聞出版(03-5540-7793)

メディカルストレッチング

副題は「筋学からみた関節疾患の運動療法」。著者は小誌102号の特集メディカルストレッチングでも紹介させていただいた丹羽滋郎氏をはじめ、同氏が勤める愛知医科大学運動療育センターの高柳富士丸氏・准教授、宮川博文氏・理学療法士、山本隆博氏・リハビリテーション部工学士との共著である。
メディカルストレッチングは筋を十分に緩めた状態で行われるストレッチングで、スポーツの現場や、骨関節疾患の患者を見ていくなかで開発されたものであるが、本書では各部位の解剖学的特徴を単関節筋、多関節筋に分けて紹介しながら、それぞれのメディカルストレッチングの方法とその効果について触れている。
内容の多くは図や写真で説明されているが、なかにはレントゲン写真も用いるなど、丁寧かつ詳細なデータを盛り込んでいる。運動器を取り扱う整形外科では心強い一冊となるだろう。(M)



丹羽滋郎他・共著、B5判、132頁、2008年5月20日刊、3,675円
金原出版(03-3811-7184)

コアシェイプ

本書では副題の「1日10分の簡単エクササイズで体の内側からきれいにやせる!」にあるとおり、写真や絵を用いて、いかに短時間で女性の美を獲得するかに焦点を当てている。
私は男である。しかし同書を読んでいると納得できる部分が多くあるから驚きだ。たとえばお風呂の過ごし方。西洋ではからだを洗って、それをシャワーで流すという感覚があるが、日本では40度前後の湯で毛穴を開かせ老廃物を排出するという、文化的にも目的が異なる点が多い。お風呂は水分が出るだけという人もいるが、その水分さえ普段から出していなければどこで出すか、と私は感じていたし、まさに忙しい人には必見だろう。
エクササイズ時の細かいところがわかりやすくなっている配慮も、有吉氏がコンディショニングトレーナーとして現場で活躍してきた経緯があるから。そんな同氏だからこそまとめることができたのだろう。
対象とする読者ははっきり言うと働き盛りの女性。時間がないからこそ、また“入りやすい本”だからこそ、多くの人に勧められる一冊である。(M)



有吉芳志恵著、A5判、127頁、2008年6月6日刊、1,500円
アスペクト(03-5281-2551)

町人学者

副題は「産学連携の祖 淺田常三郎評伝」。大阪大学理学部物理学科の教授、淺田常三郎氏について、その門下に学んだ人が「人となり」を記したもの。
淺田教授は、大阪府堺市に生まれ、きわめて優秀で、旧制中学5年のところを4年で卒業、難関の第三高等学校にトップで合格、その後東京帝国大学理学部物理学科に入学、実験物理学を専攻した。
大阪帝国大学を創立するとき、先生である長岡半太郎が総長になる。そのとき、淺田氏も物理学の教授として阪大に移っている。
その講義は大阪弁、正確には堺弁であった。講義の第一声はこんなふうだった。
「一銭銅貨を置きましてな、かかとで踏んでキリーッとまいまんねん(回るのです)」。
「すと、こないなりまんねん」
二枚の銅貨の間には模造品のルビーがあったが、粉々になる。次に天然のルビーで同じようにすると銅のほうがへこんだ。
「それ、なんでだんねん?」が口癖だったとも言う。その淺田氏は、常に人々の役に立つ研究を心がけた。当時大学教授は雲の上のような存在だったが、えらそぶるようなことは決してなかった。むしろ、ユーモアにあふれ、面倒見のよい教授として慕われた。
広島に投下された新型爆弾が原子爆弾だと科学的に確認した人でもある。多数の逸材を輩出した淺田研究室。その教授の姿を知ると、学問のあり方、研究者のあり方、人を育てるということなどを味わい深く学ぶことができる。(S)



増田美香子編、A5判、222頁、2008年4月4日刊、1,680円
毎日新聞社(03-3212-3257)

自分の努力で自身を成長させる『戦術眼』

私が以前トレーナーとして関わっていたチームが昨シーズン日本一に輝いた。登り詰める階段が目の前にあるのにそこに至る扉を蹴破れず、伸び悩む苦しみにあがいていたあの頃。今では中堅だった選手たちがベテランの域になり、若手だった選手たちが中核選手になっている。代表のチームリーダーともなっているある選手と会う機会があった。再会を喜んでくれた彼は、選手自ら考え、取り組み、覚悟を決めるということが紆余曲折を経てやっとできるようになったと話してくれた。スタッフによる環境づくりがなければできないことだし、数ある要因の1つだが、これが最も重要な部分であることに間違いないだろう。
さて、本書「戦術眼」の著書は言わずと知れた北海道日本ハムファイターズの梨田昌孝監督である。そこにも「究極の育成法は、自分の努力で自身を成長させることなのだ」とある。そして「選手たちに自己成長の大切さを伝え、自ら伸びていこうとする選手にきっかけを与え、成長過程でのサポートをしてやること」が指導者の役割だと明言している。そして同時に選手にも求めている。たとえうまくいっているときでも、「試行錯誤と変化を恐れず」自分を進化させていくことが一流への道であり、それを目指せと。

言葉にすると当たり前のことで、強いチームはこのあたりがよくできている。冒頭にあげたチームもそうだろう。内容では負けていても、勝利をもぎ取るような展開を見せた試合などは、その強みの面目躍如といったところだった。しかし、これを現場で実現させることは生やさしいことではない。本書でも、そのためには指導者と選手との間で「普段からさまざまな方法のコミュニケーションをとり、組織が目指す方向性を理解できる感性が必要」だと述べている。
コミュニケーション。これはただよく話をするということだけがその方法ではない。さまざまなツールを利用し、ありとあらゆる方法を用いて行うべきものである。
シーズン開始時にこのような本が出ることはどういう意図があるのだろう。チームを2年連続リーグ優勝、そして日本一にも導き勇退したトレイ・ヒルマン監督の後を受け、著者はチームをさらに進化させることを約束している。
俺は近鉄バッファローズという他チームで選手として、監督として成長してきたが、このように野球を愛し、取り組み、考え抜いてきた。そして覚悟を決めて北海道にやってきた。さあ一緒に戦おう、とファイターズの選手やスタッフ、ファンに向けたコミュニケーションツールの1つとして、本書は強烈な存在意義を持つように感じる。
(山根太治・日本体育協会公認アスレティックトレーナー、鍼灸師)



梨田昌孝 著、219ページ、新書判、798円
ベースボール・マガジン社

医療の限界

まず本書を手にとる前に知ってもらいたいことは、この本は医療事故そのものについて語られるものではなく、事故の報道に関する論理について語るものである。
昨今、医療をめぐる事故がメディアで大々的に取り扱われるようになった。それを機に社会の医療に対する態度が大きく変化してきたと小松氏は語るが、それら医療を一方的に非難する社会のあり方についても「人間の死生観が失われた」と危惧する。つまり現代は不安が心を支配し、不確実なことをそのまま受け入れる大人の余裕と諦観が失われたと、この本では書かれている。実際に医療の現場では、こうした社会背景を受けて勤務医や看護師が現場を離れつつあり、現場と患者との軋轢は医療崩壊を招いている。
また現代社会は医療崩壊だけでなく学校崩壊まで叫ばれ、それは根本に、現場だけに原因があるのではないと改めさせられるだろう。今1つの問題に対して、社会はどのような姿勢でいればよいか。(M)



小松秀樹著、新書判、220頁、2007年6月20日刊、735円
新潮社(03-3266-5111)

今、話題のマジック体操で腰痛・肩こりさようなら

本誌の特集でも紹介されている丹羽滋郎先生の著書。同氏は整形外科の専門医として現場で活躍されてきたが、本書は愛知医科大学運動教育センターでの深い経験によってまとめられている。著者は「身体を動かしている筋肉の状態がどのようになっているのかを知って、その異常を正常にもどすことが、骨や関節の痛みを和らげるようになるのではないか」と、マジック体操考案のきっかけを述べている。実際このマジック体操を、夏はロッククライミング、冬は氷壁を登るなど、70歳を超えても精力的に活動をされている方に紹介したところ、非常に評判がよいという。
マジック体操の内容は、その体操の始まりから、マジック体操の原理、とくに腰痛や肩こりは問題を抱える人が多いが、それら部位の体操を中心に紹介している。また昨年とくに流行ったジョーバロボットや、腰痛予防椅子の運動効果を説明している。
何と言っても「丹羽先生の健康メモ」は、各ポイントごとにわかりやすく説明しており、こうした細かい配慮がうれしい。本書はとくに日常生活において運動する暇やノウハウのない人に読んでいただきたい一冊だ。(M)



丹羽滋郎、B5判、94頁、2007年10月19日刊、1,260円
暮しの手帖社(03-5338-6011)

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