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「最高の自分」を引き出すセルフトーク・テクニック

日々の生活のなかで、何かに失敗して精神的にまいってしまった、目標を達成できなかった、そんなあらゆる場面のなかで、気持ちが深く関係していく。この本ではそうしたときに、「どうしたら立ち直れるのか」「こうしたらよい方向へ気持ちを持っていける」といった“セルフトーク”の方法について書かれている。
たとえば、目標や自分を見失ってしまったとき、過去を上手に手放し、今の自分に集中するためのセルフトークとして「今しか変えられない、今を変えれば未来が変わる」「終わったことからは、今、学べばいいだけ、引きずらなくていい」など、自分自身に語りかけることで心が軽くなる。こうしたセルフトークがいくつも紹介されており、自分にあったセルフトークが必ずみつかることだろう。
著者の田中氏は、1988年のソウル・オリンピックでシンクロ選手として出場し、シンクロ・デュエットで銅メダルを獲得したメダリストである。現在メンタルトレーナーの仕事以外でも幅広く活躍されている。そんな著者の選手時代や引退後の体験談も交えながら書かれており、読者が共感できる部分があるからこそ説得力がある。
この本を読み終えたときには、何かを感じ、気持ちの面での考え方が変わる人も多いだろう。(O)



田中ウルヴェ京著、B6判、213頁、2009年2月10日刊、1,470円
祥伝社(03-3265-2310)

乳酸と運動生理・生化学――エネルギー代謝の仕組み

医科学の研究は実に日進月歩である。これまで定説として言われてきたこと、実践されてきたことが、数年の間にその考え方も実践も変わってしまうことは少なくない。そうした研究によって考え方や捉え方が変わってきた1つに「乳酸」がある。「乳酸は疲労の原因と関係し、スポーツ選手にとって悪いもの」といった考えが主流であった。しかし、長年乳酸の研究に携わってきた八田氏は「乳酸は老廃物ではなくエネルギー基質であり、乳酸ができるのは糖を多く利用するからで、酸素がないからではなく、乳酸ができる運動が無酸素運動でもありません。運動の疲労は多くの場合乳酸が主たる原因ではありません」と本誌で述べているように、最近では乳酸の考え方は変わってきた。とはいえ、多くの運動生理学のテキストにはいまだに「強度の高い運動は無酸素運動」と書かれているものもあり、「それならば自分で教科書を作るしかない」と書かれたのが本書である。したがって、最初の4章を運動生理の基礎、次の5~9章を糖と脂肪を中心とするエネルギー代謝の基本、後半の10~16章がエネルギー代謝の応用で構成されている。これから運動生理学を学ぶ人に最適な1冊である。(T)



八田秀雄著、B5判、155頁、2009年2月17日刊、2,730円
市村出版(03-5902-4151)

DVD「ステファン・メルモンのピラメトリクス エクササイズ」

ネバダ州立大学公認ピラティス指導者のステファン・メルモン氏が考案した「ピラメトリクス エクササイズ」のDVD。副題には、「綺麗にやせる1週間プログラム」とある。
このピラメトリクスとは、コアを鍛えるピラティスの要素に、脂肪を燃焼させる有酸素運動を融合させた全身サーキット・エクササイズ。まず、コアを鍛えるピラティスの要素に、脂肪を燃焼させる有酸素運動、さらに美しいボディラインを生み出す上半身・下半身引き締めトレーニング、最後にしなやかなからだづくりに欠かせない柔軟運動で締めくくる1日10分のエクササイズプログラムを収録。メニューは、「1週間プログラム」と「オーダーメイドプログラム」で構成されている。ピラティスからもう少しハードに動きたいという方におすすめのDVD。(T)



ステファン・メルモン出演、約70分、2009年1月21日発売、3,990円
ポニーキャニオン(03-5521-8000)

科学者たちの奇妙な日常

『ここでちょっと自己紹介を。自分は若いとは言えなくなってきている研究者です。性別は女でございます。いわゆる、どー見ても「科学者」な生活を経て、今は大学で教鞭をとりながら研究室を運営しております。』(第0章より抜粋)
というように、著者は日本大学文理学部物理生命システム科学科専任講師で、日本女性科学者の会の理事を務める女性科学者の方である。決して難しい科学のお話をまとめているというわけではなく、前述のような軽快な語り口で、ご自身の目線からみた科学者の日常生活や大学での教員生活など、さまざまな裏話を交え書かれている。
なかなか科学者の方がどのような生活をされているのか、一般人にはその実態は知り得ないところだが、本書を読み進めていくうちに、科学者の日常に引き込まれていく。とくに本書は、これから科学者をめざしたいと思っている女性に是非読んでいただきたい1冊。女性科学者が直面する結婚と出産についてもその現実が紹介されている。
もちろん科学者を目指さない方にも気軽に読め、参考になるお話も多い。(S)



松下祥子著、新書判、214頁、2008年12月8日刊、893円
日本経済新聞出版社(03-3270-0251)

仕事ができる人はなぜ筋トレをするのか

フィットネスクラブでは、「パーソナルトレーナー」とともにトレーニングに取り組んでいる人が目立ってきた。いわば「個人レッスン」である。この本の著者もそのパーソナルトレーナーで、クライアントにはビジネス畑の人、しかも成功している人が多い。そういうクライアントを間近にみてきた経験が書名につながっている。読んでみると、新たに知ったというより、「やっぱりそうなのか」という思いのほうが強い。優秀なビジネスパーソンが、トレーニングでも成功を収めることができるのは、「トレーニングの目的を明確にする」→「有効で現実的な目標を、期限と数値で設定する」→「目標達成のためになすべきことを具体的な行動に落とし込む」→「行動を継続するための仕組みをつくる」→「実行する」。これができているからだという。 また、筋トレの効果は精神面にももたらされ、自分にポジティブになれる、気持ちの切り替えが上手になる、アイデアがどんどん浮かぶ、直観力・集中力が高まる、危機を察知する感覚が鋭くなるなどを挙げている。そうだろうと思うが、多数のビジネスパーソンを指導してきた人から言われると妙に納得がいく。やっぱり筋トレを継続するか。(S)



山本ケイイチ著、新書判、216頁、2008年5月30日刊、777円
幻冬舎(03-5411-6222)

ルールはなぜあるのだろう

副題が重要で「スポーツから法を考える」。著者は、東京大学法学部教授で、法教育推進協議会委員(座長)も務める。全体は、「父と子」の対話形式で進められる。全15日の対話で、「スポーツと法の関係を見てみよう」「ルールはどんな性質をもっているのだろう?」「スポーツは何を求めているのだろう?」「スポーツと法から社会を見てみよう」の4部構成。著者は、あとがきで、こう記している。「スポーツを語るのは法を語るということにほかならない。スポーツをモデルとして法をとらえてみよう。こうした考えに立って本書が提示しようとしたのは、個別のルールの内容ではなく、スポーツとは何か、法とは何かということであった。そして、スポーツを通じて、法を通じて、人はどのように生きるかということであった」 また、著者は、スポーツ活動は非常に重要な法教育の場となりうるとも言う。「正々堂々」「公平」「相手に対する考慮」など「スポーツマンシップ」とも関係してくる。「スポーツと法」というと硬く、また難解なテーマに聞こえてくるが、このように、実は関係の深い両者について語ったものである。「そうか法ってそういうものか」と同時に「スポーツはだからこうなってるんだ」とわかる本。(S)



大村淳志著、新書判、208頁、2008年12月19日刊、819円
岩波書店(03-5210-4111)

世界を制した「日本的技術発想」

関節鏡が日本で生まれたことは本誌でも紹介したことがあるが、こうした医療機器やその技術、あるいはスポーツ現場におけるトレーニングにおいても、「日本的技術発想」をみることは少なくない。
本書を読んで、いかに日本人が「精緻」であること、「厳密」であることを目指し、実行してきたかがよくわかる。
「パウダーパーツ」という部品をご存じだろうか。文字どおり、粉のように小さい部品である。愛知県のプラスチック加工メーカーでは、歯が5つあるプラスチック製の歯車で重さ100万分の1gのものを作っている。直径0.147mm、幅0.08mm。世界最小、最軽量は言うまでもない。これを「パウダーパーツ」と呼んでいる。開発に要した資金は2億円。何に使うか。社長が言うには「小さすぎて、用途はまだない」。これで終わりではない。「次の目標は、「1000万分の1g」だそうだ。
なぜ、日本ではそのようなことが実行されるのか。この本を読んで知ると、必ずどの仕事にも役立つだろう。(S)



志村幸雄著、新書判、254頁、2008年11月20日刊、945円
講談社(03-5395-5817)

見抜く力

幻冬舎新書の新刊。副題は「夢を叶えるコーチング」。もちろん、著者は、北島康介、中村礼子、上田春佳選手を育てたコーチである。
平井コーチは、もともとは水泳選手だったが、在学中に選手からマネージャーに転向した。以来、選手をみる目、そしてどう判断し、いつ、何を言うかを学んでいった。
この本でも語られるが、上記3人の選手はみなそれぞれタイプが異なる。北島選手は強い精神を持ち、「勇気をもって、ゆっくり行け」という言葉がよい結果を生む。何度断っても指導してほしいと言ってきた中村選手は、「押しかけ選手」だが、北京オリンピック100m予選で日本記録を出したが、「よし、行ける!」と思うタイプではなく、「つぎ、どうしよう?」と思い悩むタイプである。自分でプレッシャーをつくってしまい、その結果、守りの姿勢になってしまう。上田選手は、何を言っても聞いているのかいないのかわからないようなタイプ。
それぞれ個性的だが、コーチはひとり。対応を変えないと、うまくいかない。本書の章題は「五輪の栄光」から始まり、全7章あるが、「見抜く力」「人を育てる」の章は誰でも大いに参考になる。最後は「夢を叶える」。夢に向かって動き出したくなる本である。(S)



平井伯昌著、新書判、174頁、2008年11月30日刊、756円
幻冬舎(03-5411-6222)

寡黙なる巨人

著者は、世界的に知られた免疫学者。『免疫の意味論』『生命の意味論』などのご自身の専門の著書のほか、新作能の作品も多い。
その著者が2001年5月2日倒れた。その前に乾杯のとき、「ワイングラスがやけに重く感じられた」。「重くてテーブルに貼りついているようだ。なんだかおかしい。それが後で思えば、予兆だったのだ」。
脳梗塞で右半身不随になり、しかも嚥下障害と言語障害を伴った。動けない、話せない、食べたり飲んだりできない。何かしてくれた人に「ありがとう」とも言えない。
この本の最初の章、書名と同じ「寡黙なる巨人」はその闘病録である。著者はもちろん医師でもある。奥様も内科医。自分のからだについて、リハビリテーションの内容について、詳細に、時に厳しく記していく。その文章も入院してから教わったワープロで1字1字打って書いたものである。その闘病生活、リハビリテーションのなかで、著者の内部に「巨人」と呼ぶべきものが生まれてくる。
理学療法、作業療法、言語療法についても著者の経験から、鋭い意見が述べられる。医療とその制度についても真摯な意見が述べられる。誰しも他人事ではない。ぜひ、ご一読いただきたい。(S)



多田富雄著、A5判、246頁、2007年7月31日刊、1575円
集英社(03-3230-6393)

骨盤力――アスリートボディの取扱い説明書

臍下丹田という言葉はトレーニング専門家の中でも馴染みがあるだろう。私も「肥田式強健術」についての書物の中で出会った。もう20年ほど前の話だ。創始者である肥田春充氏の、にわかには信じがたい超人伝説に鼻白み、深く追求する気にはなれなかったことを覚えている。しかし氏の唱える「腰腹同量正中心の鍛錬」には、身体の中心を意識し、全身をつなげるトレーニングのヒントが隠されていた。科学的な方法かといわれれば答えに窮するが、それ以降トレーニングの際には腹のあり方を意識するようになった。これは自分のトレーニングのみならず、トレーナーとして指導を行うときにも根幹にあり、工夫を重ねた要素である。
そもそも腹を練るということは武術の世界のみならず、日本人の所作の中に古くから存在していたのだろう。体幹トレーニング、コアトレーニング、スタビライゼーションなどアプローチ法は変わっても、同じところを求めているようにも思える。
さて、本書は野球界で有名な手塚一志氏の著書である。アスリート技能調整技師(パフォーマンスコーディネーター)という肩書きを持つそうだ。著者はアスリートの身体を操作するレバーは骨盤の弓状線だということを説いている。それにしても、「W-スピン」「フローティング・アクシス・スピニング」「クオ・メソッド」など独創的な言葉が飛び交い、面食らってしまった。著者は創造力とユーモアのセンスにあふれているようだ。
ただ気をつけなければならないのは、本書で述べられる解剖学や運動生理学的表現をそのまま理解しないこと。専門的な基礎をつくるためには、他書が必要だ。本書は、あくまでも身体を動かすイメージを、アスリートが理解しやすくするために解剖学的、生理学的表現で伝えていると考えたほうがいい。
うまくいっているアスリートは著者の理論に当てはまり、そうでない者はそこから外れていると捉えられる用例が多い。動作解析やボールの流体解析など共同研究者との科学的研究も行われているようだが、これが万人に共通するとの強引な断定はその結果から飛躍している。読者としては賛否両論がはっきり分かれるだろう。ただ、プロ野球選手から少年野球選手、そして他競技と、数多くのアスリートを指導する中で培われた指導法をアスリートがイメージしやすいように体系化し、指導実績を挙げていることは素晴らしいことである。アスリートが高いコンディションをケガのない状態で獲得し、自らの持てる力を最大限発揮することがコーチやトレーナーの役割なのだから、多くのアスリートがその恩恵を受けているのであれば言うことはないのだ。
それにしても、少し前はうねらない、ためない、ひねらない動きの古武術身体操法がもてはやされ、またこちらではためてうねる動きを説いている。幼いアスリートたちは氾濫する情報に混乱するかもしれない。
あえてアドバイスを送るなら、1つの理論を盲信せず、さまざまな理論から「いいとこ取り」をするくらいのつもりで学ぶこと。多様な考え方を仕入れた後に最も大切なことは、自分自身と向き合い、自分で感じ、考え、追求する姿勢だ。たとえば巷で騒がれているジャイロボールを投げることが名投手の条件ではないように、骨盤の使い方は重要な要素ではあるけれど、全てではない。ほかにもやるべきことはたくさんあるのだ。本書で著者も述べている。「選ぶのは君である」。
(山根太治・日体協公認AT、鍼灸師)



手塚一志 著、239ページ、A5判、2,100円
ベースボール・マガジン社

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