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イチローに学ぶ失敗と挑戦

失敗から挑戦へ。よいところを伸ばすのも必要だが、失敗したときに人として成長するための進化が問われる。では、イチローは?となる。
 失敗はしてはいけないものではなく、した後が大事になる。原因を追求し克服する勇気が必要で、それが進化へと導く。始めから完璧な人間はいないが、目指すことはでき、そこで人は成長を遂げる。それがイチローの生き方とともに知ることができる。
 人として何が大事か、完璧を目指すために失敗をどう生かし、調子が悪いときにどう切り替えるか、マイナス要素をプラスに。その術がインタビューを通して過去から振り返り、今のイチローは何がきっかけでどう変わっていったのかを知ることができる。
(佐々木愛)



山本益博著、1,575円
講談社

あなたのエクササイズ間違っていませんか?―運動科学が教える正しい健康メソッド―

 現代では健康志向が高まってきており、自ら毎日運動をしたり、スポーツクラブへ通ったり、健康プログラムを受講するなど、さまざまな方がいろいろな形で健康を追求している。
 しかし、一方で、普段何気なく日常生活を送っているうちに、「自分は問題なく、健康そのもの」と思い、ちょっとした自分の身体の変化や問題になかなか気づけない方も多い。ほとんどの方は、「健康でありたい」と思っているが、実際には何か問題が起きてから、真剣にその問題解決のために行動を起こしていくことのほうが多いのではないだろうか。
 本書では、そのような身体の問題を見つけ出し、その原因を追及し、問題解決のためのエクササイズが紹介されている。「なぜこうなってしまうの?」という疑問に対して、運動科学を理解することによって、答えがわかってくるはず。本の中には、たくさんのエクササイズの図やその方法が丁寧に書かれており、初心者の方でも気軽に取り組むことができる内容になっている。普段起こっている問題を専門知識も交えて、説明がされているため、初心者の方から専門家まで楽しんで読むことができるのではないだろうか。
 普段、正しいと思って一生懸命実施しているエクササイズも、本当にそれが自分の身体に適したエクササイズなのか、問題の根本的な原因は何なのか、エクササイズの方法が本当に正しいのか。運動科学を理解することによって、エクササイズの質をもっと高めていけるのではないだろうか。  現在では、運動や健康に対するさまざまな情報が手軽に入手できるようになっている。しかし、情報が多くなっている反面、「今自分に一番必要なものは何なのか」「結果が出ないのはなぜなのか」という疑問に対して、情報が混同していまい、理解をするのが難しい。エクササイズの方法はたくさん知っているからといって、がむしゃらに一生懸命それを実施すればよいかといえば、そうではないと思う。エクササイズ一つ一つに意味があって、その人の身体の状態によって必要なものは全然違ってくると思う。せっかく時間とエネルギーを費やすのであれば、運動科学を知った上で、自分の状態を理解し、裏付けがある状態で正しいエクササイズを選ぶことができれば、今以上に効果的なエクササイズができるのではないかと考える。
(清水 歩)



桜井静香著、1,575円
株式会社化学同人(075-352-3711)

葆光

深みを与えてくれる啓示
 俳句のことを“世界で最も短く、最も美しい詩の形である”と評したのは確かジョン・レノンだが、五七五のたった17文字であらわされる俳句には、一切の虚飾を排除する潔さが必要であるといえる。クドクドとした説明や言い訳が許される余地はないのである。彼のつくった歌(詩)とくに“イマジン”の中には、俳句の美しさに影響された要素が強く感じられるらしい。
 さて、今回は一冊の句集を紹介させていただく。同じ職場に身をおく哲学の教授の手になるもので、内輪の人間が著したものを取り上げるのは元来反則かとも思うが、何とぞお許し願いたい。スポーツ・競技という行為の場に深みを与えてくれる啓示がたくさん含まれているように感じるのである。

本当の姿を
 題名「葆光」は「ほうこう」と読む。「暗く柔らかな光」という意味なのだそうだ。「『荘子』斉物論篇にある言葉」とのことだが、詳細について紙面の関係上省くことにする(本当は私の無教養が理由。言い訳です)。
 ただ、想像するに「暗く柔らかな光」の下では“見よう”として見ないことにはあらゆるものが見えないという世界のことか。あるいは、見え難くなっているのは、暗さに“包まれている”せいであると考えてもよいのかもしれない。だからこそ、より丁寧に心をこめて対象を見つめ、本当の姿を見極めようとする意図がこの題名に込められているのではないだろうか。加えてこの題名には、穏やかで柔らかくはあるけれど、毅然とした姿勢を貫いている作者の人柄をもうまく反映しているように思うのである。
 作者が俳句をつくるきっかけとなったのは「二十一世紀を担う100俳人(『俳句α増刊号』2000)」の一人、五島高資という才人の存在が大きいとのことである。時々、時間を忘れて二人で俳句談義をしている姿を見かけるのだが、私にとっては知の巨人同士の会話を間近に見てミーハー心が満たされる瞬間だ。

俳句とは“命”を詠むもの
 横で聞き耳を立てていても難しくて実はよくわからないところのほうが多いが、多少なりとも理解できたこと、考察したことをまとめてみると次のようになる。
 まず、俳句とは“命”を詠むものである。では命とは何か。ここでいう命とは“場”を共有すること、意思の疎通をはかろうとする気持ちのことであると考える。したがって俳句の世界では、人や動植物だけでなく、物質や自然現象あるいは遠い過去や未来に至るまで、森羅万象に命を吹き込むことができることになる。逆に、たとえ生きていても孤立無援の、他者と“場”を共有しようとしない者には命があるとは言えない、とも考えることができる。俳句を詠むということは、だから“命を見つめる”ということになるのだと思う。
 等々と考えていたところ、ふと、この感触はスポーツや運動競技の場の味わいと似ていることに気がついた。競技の場とは、命と命の交感(交歓か)の場であると言えないだろうか。真剣勝負の場であればなおのこと(たとえ身体の接触はなくとも)命のやりとりがなされていると感じる人は多いのではないかと思うがどうだろう。
 本書は、九つの章立てで約360の句からなる。分際をわきまえず各章から一句ずつ選んでみた。

群青を一息に塗り込める秋
雪止みて天目に月刺さりけり
墓洗うおまえは誰と問われけり
逃げ水の逃げるあたりに生まれけり
初紅葉ひそかに見つけられるまで
存在の柔らかき重き春歩む
野に集(すだ)く虫に並べる枕かな
舞いながら舞を脱けゆく秋の蝶
齧られし柱に消えるうさぎかな
(本文では「齧」に「口偏」が付く)

 たった17文字の裏側に秘められた何かに感動するのと同じように、一瞬のパフォーマンスに込められた命を大切に共有したいと思うのである。

(板井美浩・自治医科大学医学部保健体育研究室准教授)



加藤直克 著、213ページ、四六判、2,700円
文學の森


葆光
スポーツから気づく大切なこと。

どんな人でも言われたことがある「スポーツをしているといいことがあるよ」という言葉。今までスポーツをしていて自分の感覚としていいということはわかってはいるけど、うまく答えられないというのは多くの人が抱える悩みである。読み進めていくうえでポイントとなるのは、気づきと自信である。
 本書は、「スポーツバカは本当か?」や「自信がつく」など、わかりやすいタイトルに対して答える形で構成され、野球のイチロー選手やスケートの清水選手が、どのように努力したかを例にとり、丁寧な言葉で解説している。  著者はメンタルトレーニングに関する講習を受講し、テニスに関わるさまざまなことを行っている。「すべてのテニスプレイヤーを全力で応援します」をモットーに活動をされているそうで、文中からもその熱意が伝わってくる。用具に関することから、練習場所、マッチプログラムの作成にいたるまで、ありとあらゆることを実行しているところがすばらしい。これらはすべて、気づきから行動が生まれていると思う。
 もう1つ重要になるのは自信である。スポーツは生きていくうえでの自信を与えてくれる。なぜ自信につながるかと言えば、スポーツ=運動+ゲームという要素で構成されるからである。ゲームには必ず勝ち負けがあり、人間は誰でも勝ちたいと思う。負ければ悔しいし、負けないためには気づきのセンサーを活性化させなければならない。気づきを実行に移してみることで、勝てる可能性が高まる。勝ちという結果が得られたときには、自分の中に自信という結果が残る。
 自信をテニスという媒体を通じた活動によってさまざまな人に還元し、共感を生み、進化させていく。そんな当たり前でなかなかできないことをしっかりと実現されているのがすばらしい。  先行きが不透明な現代において、発揮するポイントが適切でない自信を持つ人々が多い中で、挑戦する自信や恥をかく自信などは、遠い過去のものになってきているような気がするが、そんな自信の大切さを再確認し、気づくことができる本であると思う。 (金子 大)



中山和義著、1,000円
実業之日本社

リハビリテーションのための解剖学

  「ポケットブック」と明記されているとおり、手帳のような体裁。2色刷りで赤い透明シートがついていて、赤い字で記された部位名や起始・停止を記憶できているかどうか確認できる(赤い字で見えなくなるのは起始のほう)。受験参考書のように活用できる。
 著者らの「まえがき」によると、2002年、学生に夏休みの宿題「上肢の機能解剖のノート作成」を課したとき、学生から「先生も作ってきて!」と言われたのが本書の出発点だそうだ。
 どこでも勉強できるように、また解剖の本は重いと言わせないよう、新書判サイズにし、小さくても内容は精密さを心がけ、目でみてわかりやすいよう工夫したと記されている。
 筋の章では、起始・停止・支配神経・作用のほかに、「(筋)の特徴」「ADL・スポーツ」の項目があり、たとえば大腰筋の「ADL・スポーツ」の項では「脚を前方に振り出す、すなわち、ランニング、階段を上る時などに主に働く」と表現されている。
 全体は、「骨」「筋」「関節・靱帯」の3章からなる。電車の中などで勉強するのに最適と言える1冊。もう少し廉価だとなおよいのだが。(S)



鵜尾泰輔・山口典孝行著、新書判、230頁、2009年6月9日刊、3,570円
中山書店(03-3813-1100)

決定版!75の最新トレーニングメニューでみるジュニアサッカーコーチングメソッド

 ジュニアサッカーにおける指導について、コンセプトとともに、具体的な方法を紹介している。総論を述べた後、U-6、U-9、U-12という3つのカテゴリごとに、それぞれの特徴が示されており、各々に合致したトレーニング方法が25ずつ、合計75もの図解がある。
 各年代が、発達段階において精神的・身体的にどのような状態であるのか、何を楽しいと思うのか、現場での指導経験を踏まえた実践的なメソッドである。



平野 淳 著、Soccer clinic 監修、221ページ、A5判、1,575円
ベースボール・マガジン社

子どもにスポーツをさせるな

スポーツの醍醐味
 みんな黙ったままうつむいていた。薄暗いロッカールームのこもった空気に、戦い終わった男たちの汗の匂いが溶け込んでいた。少しの涙も混ざっているようで、それが空気をやや重たくしていた。通路を挟んで反対側にあるロッカールームで歓声が上がった。幾人かの男たちの目からみるみる涙がこぼれ出し、嗚咽が洩れた。男たちのキャプテンが、男泣きに泣きながら、ロッカールームに戻ってきた。監督に支えられながら、やっとのことで立っていた。
 少し経って落ち着きを取り戻した彼は「俺たち無敗ですよね」と笑顔を見せた。その笑顔は素晴らしい男の顔だった。私がトレーナーとして帯同していた高校ラグビー部が、全国大会の準決勝で同点抽選の上決勝進出を逃したときの出来事である。この成長こそがスポーツの醍醐味だ。その顔を見て心の底から実感させてもらった。

嘆きではなく
 さて「子どもにスポーツをさせるな」と銘打った本書はスポーツライターである小林信也氏の著作である。もちろんこのタイトルを額面通りに受け取るわけにはいかない。知れば知るほど突きつけられるスポーツの闇の部分に、懐疑的になりそして悲観的になり、そこに飛び込んでいく無垢な子どもたちに不安を感じることは確かにある。
 しかし本書は、今さらその嘆きを世に叫ぶものではない。小林氏は42歳のときに男の子を授かった。上の娘さんとは14歳違い。そのお子さんの成長過程で、「悲観的なスポーツライターは、確かな指針を得て前向きなスポーツライターに生まれ変わった」という。そう考えるに至った過程が、本書のテーマになっている。

勝利へのこだわりは悪いものではない
WBC 決勝の国歌斉唱の際にガムをかむ選手。勝つためには手段を選ばない指導者。言動と行動にギャップのあるお偉い様。麻薬に手を出す選手。スポーツの本来持つ恩恵から見放された例は数多い。その一方でスポーツを通じて己の心身と向き合うことに気づくものがいる。生と死を実感し命の尊さを知るものがいる。困難を克服してできなかったことができることの喜びを知るものがいる。礼儀や感謝の気持ちを知るものがいる。「スポーツ」というひとくくりでは到底考えられない。この社会に起こるすべての事象にはプラスとマイナスの顔が混在しているのだ。
 たとえば、勝利にこだわる姿勢を勝利至上主義という言葉にしてしまうと、それが悪いことであるかのような印象を受ける。しかし勝つためにありとあらゆることに努力することは決して悪いことではない。勝つために何をしてもいいということではなく、勝つという目標に向かって、己を磨き、仲間と力を合わせ、スポーツを離れた日常生活におけるすべての取り組みを見直す。そうして磨き上げたもの同士が戦えば、自分のことも、相手のことも自然に尊重できるようになるだろう。理想論ではあるが、それこそがスポーツを通じて可能な、大人への成長ではないだろうか。本書でも好例としてプロゴルファーの石川遼選手のことが取り上げられている。確固たる自分自身の核を持ち、マスコミの無責任な馬鹿騒ぎっぷりを実力で何と言うこともなく制してしまったあの若者は瞠目に値する。

男の顔を
 実は私も42歳のときに初めての子どもとして男の子を授かった。彼はこれから混沌とした世界の中でさまざまな人々に出会い、喜びや悲しみを知り、誰かを傷つけては誰かに傷つけられ、馬鹿な夢を持っては希望に溢れ、時にどうしようもない絶望という壁にぶち当たるだろう。そんな現実に立ち向かっていく若い力を、その可能性を信じたいと思う。先回りして段取りしすぎることは控えたい。いざというときにはガツンと軸を正してやらなければならないし、また時には強く抱きしめてやらなくてはならない。そして自身で自分をつくり上げるべく努力し、男の顔を手に入れてくれればいい。
 スポーツはその成長のために、唯一とは言わないが非常にいい手段だ。いつか自分の息子が男の顔になったと実感できるまで、親父にできることは、男の目で見つめられても恥ずかしくないよう己を鍛え続けることくらいだ。
(山根太治・日体協AT、鍼灸師)



小林信也 著、198ページ、新書判、777円
中央公論新社

描かれた技術 科学のかたち サイエンス・イコノロジーの世界

銅版画、絵、スケッチ、設計図など、過去の科学技術が描かれたものを、技術史の立場から語っている。当時の最先端の考え方、時代の要請について細かく述べてあり、それらが生まれる過程と必然性がよくわかる。地域的には西洋、東洋を問わず、またさまざまな年代にわたってトピックが取り上げられている。
 一枚の絵から、ここまでの豊かな背景が読み取れることに驚く。現代に生きるわれわれも、後世からみれば当時の最先端と呼ばれるような何かを、絵や図の形で残していくのであろう。



橋本毅彦 著、262ページ、B6判、2,940円
東京大学出版会

使える強い筋肉をつくるトレーニングマニュアルWith DVD

 筋肉の基本性能を向上させるための筋肥大トレーニングと、競技動作で使える筋肉にするための基礎的スキルトレーニングの2つ、すなわち「ベースアップとチューンアップ」を行い、タイトルにもある「使える強い筋肉をつくる」方法について述べているのが本書である。
 部位別の筋力トレーニングの方法では、注意すべきポイントが詳細に挙げられている。基礎的スキルトレーニングでは、プライオメトリックトレーニング、チーティングテクニック、クイックリフト、軽負荷プライオメトリックトレーニング、ケトルベルトレーニングについて解説。
 DVDで実際の動作を確認することができる。総合格闘家、山田崇太郎氏との対談も収録。



谷本道哉、荒川裕志 著、 95ページ、AB変判、1,680円
晋遊舎

「脳科学」の壁――脳機能イメージングで何が分かったのか

 巷にはさまざまな脳を鍛える学習ツールやゲームソフト、書籍にあふれ、さらにテレビ番組に至るまで、脳科学は一種のブームとなっている。
 この一種の脳科学ブームを、子どもの発達と神経疾患を専門とする小児科医の著者が、昨今行き過ぎた脳科学ブームに踊らされない、きちんとした視点を持てるようにと冷静に解説しているのが本書である。
 脳科学はどうして今のようなブームとなっていったのか、これまで話題となった「脳内革命」「唯脳論」やゲーム脳、さらに前頭葉ブームにまで着手する。しかし、著者が「はじめに」に記してあるように、決して脳科学を非難、否定しているわけではない。たとえば、ある実験に関して、どのように行われ、なにが問題なのか、さらにその実験が示すデータはなにを物語っているのか、それを脳科学から考えると私たちの捉え方は正しいのかを1つ1つ解釈している。少しでも脳の機能を高めようといろいろと購入し試しているみなさん、脳科学の現実と限界を知ることができます。(T)



榊原洋一著、新書判、190頁、2009年1月20日刊、880円
講談社(03-5395-5817)

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