トップ > フォーラム > ブックレビュー > バックナンバー

真剣

スポーツでは真剣なプレーによって、心が動かされる、感動するというのは多くの人が体験したことがあると思う。真剣の意味とは、それを持ったときの切れ味重さから由来するものであるとも書かれている。それら剣に関わることを記した興味深い一冊である。  本書を読み進めていくと遠山の目付、観見の目付や、二律背反する相対境など、非線形科学の本を読んでいるような感覚になってくる。バタフライエフェクトや動的平衡などを、日本の武道という視点からみた書き方をした本であるともいえる。
 さまざまな人物が登場してくるが、主に山岡鉄舟を軸に構成されている。鉄舟が無刀流を開くまでに至る人との出会い、挫折が書かれている。一時ブームになった、宮本武蔵の五輪書や般若心経などが数多く登場する。その中でもスポーツに関わる人間として、心に残った一文がある。著者が澤木興道老師の言葉を引用して、「坐禅はあたかも、武士が三尺の秋水(とぎすました刀)を引き抜いて身を構えていると同様に真剣な姿である。どんな人間でも、一番尊いのは、その人が真剣になったときの姿である。どんな人間であろうと、ギリギリの真剣な姿には、一指も触れる事の出来ない厳粛なものがある。(『澤木興道聞き書き』酒井得元)」と記している。
 また、「道場で真剣を持って自己と向き合うということはこういうことです」とも記している。禅問答のようになったが、文中には禅と剣との関わりも出てくる。剣禅一如という言葉で頻繁に登場する。
 鉄舟は剣の道の真理がすべてありとあらゆるものに通じているということを、こう述べている。
「此法は単に剣法の極意のみならず、人間処生の万事一つも子の規定を失うべからず。此呼吸を得て以て軍陣に臨み、之を得て以て大政に参与し、之を得て以て外交に当り、之を得て以て教育宗教に施し、之を得て以て商工耕作に従事せば、往くとして善からざるはなし。是れ、余が所謂剣法の真理は万物太極の理を究むると云ふ所以なり。」
 人の生きる道とは、まさしくこの通りであると考える。先達の言葉をもう一度見つめ直したい。
 読み進めていくうちに、自分はなんと小さなことにとらわれているのだろうと思った。少しずつ歩むことも大切であるが、時には大きく歩みを広げなければならないことを再確認させられた。振り返って読んでいきたい本である。
(金子 大)



黒澤雄太著、本体760円+税
光文社新書

跳ぶ科学

理想的に「跳ぶ」ことを分析した数々の結果が掲載されている。
 またページ数は少ないが、当時のIT環境を考えると時代を先取りした指導の提案もされている。
 経験や勘もきちんと検証され、トレーニング科学で分析された結果と合わせて、上手に利用することができれば、指導力や効率がさらに上がり、世界に通じる競技者を育てることができるのではないか。
 研究者だけでなく、指導者にも科学的思考が必要である。
(澤野 博)



宮下充正:監修 深代千之:編著
大修館書店

実践ビーチバレーボール

世の中にはプロレスに熱狂する人たちが数多く存在する。この本はそのような人たちに最適な一 スマートという言葉が似合う著者、カーチ・キライは、インドアとビーチ両方で金メダルを獲得した唯一の選手である。現在日本ではインドアからビーチへ移る選手が増えているが、その世界的な先駆けであるのが、カーチ・キライであり、監訳をされている瀬戸山正二も日本初のプロビーチバレー選手である。
 本書は、読むにあたりバレーボールの基礎知識や生理学が必要と思われる。文中に専門用語が多数登場する。単にレシーブやトスだけでなくレセプションやディグなど作戦面や技術において、近年一般的に日本で使われるようになってきた言葉が当たり前に使用されている。トレーニングの章においても、ストレッチ-ショートニングサイクルなども登場するので、これらも上級者向けの内容となっている。
 しかし、本の薄さからは想像できない内容の濃さである。基礎技術から発展技術、トレーニング、コンディショニングなど幅広く網羅されていて、それはまさしくスマートにまとめられている。また、言葉ひとつひとつから著者の情熱が伝わってくる。  レベルアップしたいと思っている方におすすめの一冊である。
(金子 大)



カーチ・キライ&バイロン・シューマン著(瀬戸山正二 監訳)
大修館書店

プロレスストレッチ ボディヒート

世の中にはプロレスに熱狂する人たちが数多く存在する。この本はそのような人たちに最適な一冊であろう。通常、プロレスはリング上でみられるものだが、プロレスラーがリング外でどのようなトレーニングを行っているかは案外知られていないはずである。さらにプロレス団体にトレーナーという職業が存在するとは意外である。
 本書では図解や写真を数多く使用してプロレスラーが行っているストレッチを解説している。また、解剖学の専門用語をあまり使用していないために専門的な知識がない人たちでも容易に読めるように工夫されているのが本書の特徴である。プロレスラーのトレーニングに興味を持っている人たちは本書を読んでぜひ実践していただきたい。
 そして、本書では著者である三澤氏のプロレスラー現役時代の話も盛り込まれている。試合中に頸椎損傷をしたときから、トレーナーという仕事に就くまでの経緯が書かれており、テレビなどではわからないプロレスラーの人生を知ることができる。このような部分もプロレス好きにはたまらないであろう。
(吉田康行)



三澤 威士著、1,260円

トップアスリートを育てる スポーツ東洋医学

 名前から見れば、スポーツにおける東洋医学の使い方というイメージがあるが、読み進めて行くと、東洋医学だけでなく、心理検査を東洋医学の治療効果を測定するものとして用いていることがわかる。とくに治療前、治療後で実施しているのが興味深い。メンタルトレーニングを大きなものと捉えて実施していることも、治療家を志しているものとして共感できるものである。  読み進めるにあたっては、とても読みやすく丁寧に書いてあるが、ほとんどが東洋医学の基礎がなくては難解な部分が多い。著者はスキー競技を中心に活動されているため、データのほとんどはそれらに関わるものであるが、もっとほかの競技の治療経過も見てみたい。  一文を紹介する。「スポーツをするとリラックスできるのに、なぜスポーツ選手にリラックスが必要なのか」と著者の恩師のスポーツ心理学の教授が、心理学の大家から問われたらこう答えたそうだ。「では落語家が落語をしていて悩むのはなぜでしょうか」。ここから著者の強い信念と、深い情熱、偏らない心が読み取れる。
(金子 大)



丸山彰貞著、定価3000円+税
発売 産学社 発行 エンタプラズ

関節ストレッチ&トレーニング

 動きをわかりやすく写真入りで解説してあるため、一般の人にも理解しやすい。
 これがあれば各自で確認しながら、ストレッチを行うことができるであろう。自重または低負荷で行う筋力トレーニングも紹介されている。
 ただストレッチも万能ではない。痛みなどが改善される場合もあるが、根本をしっかりと治療しない限り、再発を繰り返すことになるので注意が必要だ。
(澤野 博)



矢野啓介・佐嶋健司 著
現代書林

バレーボールのメンタルマネジメント

 日本のバレーボールは長い間低迷していた。正しく言えばまだ低迷中なのかもしれない。しかしながら、女子においてはアテネ、男子においては北京より再び五輪の舞台に出場することができている。それら低迷期に、メンタルという面から日本チームの基礎を築き上げ、後の五輪出場に大きな役割を果たした著者の活動を詳細に記している本である。
 メンタルトレーニングについて詳細に記しているのはもちろんであるが、著者の考え方の基礎となっているのは、海外留学時代に学習した運動学習理論であろうと思われる。運動学習理論については、文中にもあるように書いていくと膨大な量になってしまうため、『バレーボールコーチングの科学』(ベースボール・マガジン社)をご覧頂きたい。端的に言えば、どう人に伝えるかを理論構築したものであり、興味深い。読み進めていくと今まで受けてきた指導法と全く違うことから違和感を感じるが、理解すればするほど感動するということを著者も述べている。
 この本をバレーボールに限らず、多くの競技指導者に読んで頂ければ、指導法をより進化させられることは間違いないと思う。日本のスポーツ界のさらなる発展を祈って。
(金子 大)



遠藤俊郎著
大修館書店

京子!いざ!北京

 気合いだー!といつも叫んでいるアニマル浜口氏にいつも目が行ってしまいがちだが、この人は娘の存在なしには語れないのである。そんな娘と周囲の人々の日常や心境を綴った一冊。
 浜ちゃん。この愛嬌のある呼び名で周囲の人から呼ばれているそうだ。いつも両親思いで、応援団思いな人柄が伝わってくる。しかしこの人柄が勝負においては命取りになることを監督やコーチが指摘している。「練習ではものすごい強さを発揮する。パワー、スタミナ、技術的にも全く問題ないどころか、ケタ外れのレスリングを見せる。間違いなく世界最強ですよ。でも、それが試合になると変わってしまって出せない。舞い上がってしまうのか、別人のようになってしまって…精神面かなぁ」というのは、富山英明氏(強化委員長)のアジア選手権直前の弁。このあと、勝利して無事北京オリンピック出場を決めるが、ここまでに至るまでのズラデバ選手との間に発生する頭突きや誤審などの問題も興味深い。
 それ以外にもさまざまな登場人物が登場するが、福田富昭氏(日本レスリング協会会長)の存在が印象に残る。
 女子レスリングに限らず、日本のレスリングは世界と比較しても強く、一時代を築き上げてきた。福田会長の存在によるところが大きいと思われる。女子レスリングをオリンピックの正式種目にするために20年以上駆け回り、選手の就職先のために企業をまわり、日常の喧噪からはなれて心を落ち着かせて練習させなければダメだという信念のもとに、私財を投じて新潟県十日町に女子レスリング専用の合宿所を設置した。
 そんな会長の影響もあると思うが、古刹、富山県の大岩日石寺にて決意表明を行ったときにそれぞれの選手が記した言葉が記録されている。吉田沙保里選手は絶対勝つ!、また、伊調千春選手は根性と記した。そんな中、浜口選手は、『8・23美酒』という言葉を記した。文中に何度も登場するがその言葉を目標として書いたという場面がある。
 浜ちゃんの両親・家族思い、周囲の人への思いが伝わってくる。優しさがいつも勝負の際に短所となり、人としては長所である。綴られている日々の苦悩は“金メダル坂”よりはるかに険しかったと想像できるが、それらを乗り越えてきた浜ちゃんの優しさがこの本を読むうえでのポイントになるかもしれない。
(金子 大)



宮崎俊哉著、1,470円
阪急コミュニケーションズ

コアパフォーマンス・トレーニング

動きは、身体の中心である「コア」の部分から始まる。このコアを「動作と生命の構造的なピラー=支柱」と呼び、手足の動きよりも先に動き出すため、動作の基礎である「コア」から始まるトレーニングを7つのユニットに分けて記載したものが本書である。
 最近はやりの、「体幹トレーニングのハウツー本」ではなく、何のための体幹トレーニングであるのか、目的がぶれることがない。体幹を鍛えることが目的でなく、一貫して「パフォーマンス・アップ」に向けたトレーニング内容となっており、トレーナーとして見失いがちなところをしっかりと押さえているのはうれしい。
 また、CD-ROMがついており、トレーニングを正面・横から見ることができるのでイメージがつきやすいうえに、トレーニング中のポイントや感覚がすべてにわたって記載されており、正しい肢位をとれるよう、細かいところまで気を配っている。
 初心者には感覚をつかめるようになるまで難しいかもしれないが、トレーナーやコーチ、選手には、ぜひとも読んでもらいたい一冊である。
(上村 聡)



マーク バーステーゲン、ピート ウィリアムズ (著)、 咲花 正弥、 栢野 由紀子、澤田 勝 (翻訳) 2,520円
大修館書店 

バレーボールコーチングの科学

バレーボール発祥の地アメリカ。過去には素晴らしい成績を残していた。しかし、近年、国際大会で思うような成績を残すことができなくなっていたが、昨年の北京五輪では男子が金メダルを獲得し回復しつつあるといえる。著者は過去の黄金時代を支え、現在の日本バレーの礎を築いたといっていっても過言ではない理論を構築した方である。
 本書を読み進めていくと、著者がかなりの量の学習をしていることが読み取れる。それは浅くもなく、深すぎることもなく現場で指導する際にちょうどよい内容で書かれている。ポイントはすべて運動学習に基づいて指導している点であり、押しつけではなく、気づき、提案によってスキルアップや、人間としての成長をしてもらいたいということが読み取れる。日本の指導者の多くがこれを学び実践しているが、成績としてなかなか残せていない。運動学習のポイントとなる、正しくフィードバックをするということができていないのではないかと考えられる。
 技術や戦術が進歩し、1年前に間違いだったことが半年後には正しいとされることは珍しくない。そんな中でも、この本は変わらない基本を押さえているものであり、困ったときにはもう一度や見返していただきたい本である。写真や図説は少ないが、読めば読むほど共感することが増え、自分の中の創造力を刺激してくれる。
(金子 大)



カール・マクガウン編者 杤堀 申二(監修)、遠藤俊郎(翻訳代表)、福永茂・河合学・篠村朋樹(訳) 本体2600円+税
ベースボールマガジン社 

トップ > フォーラム > ブックレビュー > バックナンバー